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35、ギルドの存在意義

「なんで、なんでですかっ!?」

「そう言われましても……役所から委託された仕事は、『村の警護』だけなんですよ。村で倒したモンスターの数とか、そういうので報酬が換算されてまして……」


 俺たちは王都のギルドに戻っていた。

 眼鏡の受付嬢さんにいままでのことを話すと、そのように返ってくる。

 ギルド長のアシュリーさんが「そこをどうにかならないか」と迫るが、「あとは役所に直談判に行ってください」とばっさり。


「わかった。では私が代表して行ってくる。こういうときの長だからな」

「ギルド長、俺も行きます」

「アレックス君もか? 君は……いや、そうだな。ダンジョンマスターも倒し、ダンジョンコアも破壊した君は、報酬の件で交渉する権利がある。では、ともに行こう!」

「はい!」


 ギルド長のアシュリーさんと俺は、そうしてギルドを出た。

 外には賢者のナインさんとシルヴィア、それからレナさんがいる。


「ふふっ、どうだ。やはり報酬はもらえなかっただろう」

「賢者殿……。はなからこうなるであろうことは、予測していた。揶揄されるほどのことではない」

「けどその様子じゃ、お上に直談判しに行くんだろう? 俺たちはそこまではしないが」

「賢者殿」


 アシュリーさんはきちんと向き直ると、ナインさんをまっすぐ見つめて言った。


「貴殿はそれでもいいだろう。あくまで『弟子の育成』だけが目的の参加だったからな。だが、私は違う」

「ほう?」

「たしかに、こちらも下級の冒険者たちに経験を積ませたいという目的はあった。王都の危機を未然に防ぐ、という目的もな。だが一番は……『ギルド』のためだ」

「ギルドのため?」

「そうだ。『ギルドを存続させるために活動する』という理念を放棄してしまっては、ギルドの存在意義がなくなってしまう」

「ギルドの、存在意義……?」


 俺はアシュリーさんの言葉を繰り返していた。

 そういえば、どうしてギルドはあるんだろう。なんとなくお世話になっていたが、そんな理念があるなど、初めて知った。


「力のあるものは……みなそれぞれ、自分なりに国に貢献しなければならない。だが、すべての人間が役所に勤められるものでもない。上からの意見をすなおに聞けぬ者もいるからな……。そういった者のためにギルドはある。そう、まさしく、貴殿のような者のために」

「ぐっ……」


 ナインさんは痛いところを突かれたのか、顔を妙に歪ませる。

 その横で、レナさんは必死に笑いをこらえていた。


「師匠は……かつて宮廷魔術師だったんですよ。ね~?」

「っっ……!」

「でもいつしか、『究極の魔法』を開発することだけにハマっちゃって~」


 にやにや語るレナさんに任せるのはこれ以上良くないと判断したのか、アシュリーさんは咳ばらいを一つしてから言葉を引き継ぐ。


「ごほん。そのため……貴殿は栄誉ある座を退いて、その後自ら森に隠遁するようになった。だが当然それだけでは生きていけず、ギルドに籍を置き、時折冒険者として活動することで生計を立ててきたはずだ。違うか?」

「ナインさん。そうだったんですね……」

「へえ~、そんな人生送ってきた人だったんだ」


 俺とシルヴィアは、ナインさんの経歴を聞いてふむふむと納得していた。

 一方ナインさんはあまりいい顔をしていない。


「だからなんだ。そのギルドに感謝しろとでも?」

「……そういう者たちのために、ギルドが存在しているということを忘れないでいてほしいというだけだ。いわば、『はみ出し者』の受け皿なんだ。私とてその例外ではない。私は……ギルド長として、その居場所を存続させる義務がある」


 アシュリーさんとナインさんはしばしにらみあう。

 そうか。

 そういう役割がギルドにはあったんだ。

 俺は、単に高額なお金がもらえるところだと思っていた。でも、それは……農業だけでなく、規格外の力を持つ剣士としての自分を受け入れてもらえる場所があったから、できたことなんだ。


 なら、その場所を維持するのに、正当な報酬をもらいにいかないといけない。

 これからやろうとしているのは、そういうことなんだ。


「行くぞ、アレックス君」

「はい!」


 俺はアシュリーさんのあとを追った。


 シルヴィアは……ナインさんの指示でダンジョンに来ただけだから、報酬をもらえないかもしれないな。スケルトンなどのモンスターも倒してはいなかったし……。

 レナさんはもともとアシュリーさんに呼ばれていたからきっと大丈夫だろう。補助魔法で活躍してたしな。


 俺はいったいどれだけもらえるんだろう。

 結構活躍できたけど……。

 そんなことを考えていると、アシュリーさんに話しかけられた。


「すまないな、大人の事情に巻きこんでしまって」

「あ、いえ……」

「本当はギルドを発つ前に交渉すべきだったが、時間がなかった。事後報告は分が悪いとわかっていたが、あのときは急いでいてな……」

「それは仕方ないですよ。すでに郊外の村は危険な状態でしたし、あのときは一刻を争うときでした」

「わかってくれたのなら嬉しいよ」

「あの、ギルド長も大変ですね。こうしたことをずっと続けてきたんでしょ?」

「……」


 アシュリーさんが急に黙る。

 どうしたんだろうと見上げると、ハッとしたような表情を浮かべていた。


「えっ、あの……俺、何か変なこと言っちゃいました?」

「いや……。そうだな、それが私の仕事だ。ギルドを存続させるために、常に仕事をとってこなければならない。ときには今日のように、無理やり仕事を作り出したり……」

「大変ですよね、本当」

「そんな風にねぎらわれたことが……あまりなかったな。その……そういうことを言われると、照れる」

「え?」


 アシュリーさんにじっと、見つめられた。

 まずい……。これはあれだ。シルヴィアにかつて向けられた、あの熱い視線だ。

 そういう気を持たすつもりはなかったのだが……。


 俺はあはは、と笑ってごまかす。


「えっと……い、急ぎましょう! 早くしないと日が暮れちゃいますし!」

「そうだな。交渉がうまくいったら……。その……。あ、あとで食事でもどうだ?」

「えっ!」

「大丈夫。私のおごりだ!」

「あ、か、考えておきます……」


 なにかアシュリーさんとのフラグが立ちそうな気配だ。

 俺はげっそりした。

 交渉はうまくいってほしいが、そのあとのことを考えるとうまくいってほしくないような……。そんな複雑な気持ちだった。

 シルヴィアのことがあって、当分恋愛はこりごりなのである。


 しばらくすると、王宮に到着した。

 各種の申請を受け付ける建物へと向かう。


 するとそこには……ダンジョンで出会った騎士団の人たちがいた。

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