32、ダンジョン攻略④
「ふうっ、うう……」
俺の前には、なぜかさっきまで味方だった三人の女性が立ちはだかっていた。
シルヴィア、ギルド長のアシュリーさん、そして回復術師のレナさん、だ。
足元には騎士団の皆さんと、ギルドの面々が倒れている。
「くそっ……ラミアが男の姿にも変化できる……だなん、て……」
「ナインさん!」
がくっとひざを折るナインさんを、俺はすかさず支えた。
全身のダメージが激しい。
俺のヒールだけではすべての傷を治せなかった。ここはレナさんに回復魔法をかけてほしいが、今は敵の誘惑にかかってしまい、操られてしまっている。
「レナさん! それにアシュリーさん! 目を覚ましてください! シルヴィアも!」
あのあと――。
目隠しをした騎士団のメンバーとリーダーさんは、ラミアの誘惑をふりきって、敵に攻撃を加えることができていた。
しかし、状況が悪くなったと見るや、ラミアはその見た目を変化させたのだ。
素早く脱皮をすると、その上半身を美女から色男に変え、今度は女性たちを誘惑しはじめた。
まさか性別を変化させられるとは思わなかったので、レナさんも対応が遅れてしまった。そして、まんまと敵の術中にはまってしまったのだ。
そうして、操られた女性たちによって、俺を除くすべての男たちは全滅した。
「目を、覚ましてくれ……お願いだ!」
女性陣に強く訴えてみるが、みんな目つきがおかしい。俺を見ていない。
どうにか止めたいが、彼女たちを傷つけるわけにもいかない。
いったい、どうすればいいんだ。
「攻撃力アップ~百倍だ~!」
ついにレナさんの、絶望するような補助魔法がアシュリーさんとシルヴィアにかけられてしまった。
十倍の補助魔法ですら、以前のシルヴィアはきつそうにしていた。そのさらに十倍なんて……いったいどれほどの副作用が出るだろう。
案の定、二人はひどく苦しみはじめた。
「あがあああっ!」
「ぐがっああああっ!」
毛細血管が切れたのか、二人とも鼻血をどぼどぼと流しはじめる。
そして、赤く充血した目を見開くと、俺に向かって突進してきたのだった。
「喰、ら、えええっ! 漆黒の豪斬剣・無限斬りッ‼」
「ダーク・プロミネンス・スラッシュ‼」
それは明らかに、今の俺では受けきれない技だった。
アシュリーさんの動きはまったく見えず、シルヴィアにいたってはその剣に付与された魔力の効果が尋常ではない大きさだった。
一瞬避けようかとも思ったが、そうするとその威力が背後のみんなに行ってしまう。
俺は死を覚悟して、剣を構えた。
「くっ!」
しかし、ずばばばばっ、と何度も体に斬撃が入った感覚がする。
剣士の腕が良すぎると、斬られたことにも気付かないという話を聞いたことがある。今の俺はまさに、その状態だった。まるで、痛みを、感じない。
しばらくすると、ぶしゅうううっと鮮血が全身から吹き出した。
俺はその光景をぼんやりと眺めながら後ろ向きに倒れる。
ああ、母さん、ごめん――。
おとなしく、村に帰ってればよかった。
そうすればこうやって死ぬこともなかった。
お世話になった人たちも、あとで死ぬ。
操られた彼女たちも、きっと――。
ああ、シルヴィア。俺をずっとパワハラしつづけて、痛めつけてきた幼馴染。
最後のこのときも、またきみに攻撃されるなんて思わなかったよ。
そうして死んでしまうなんて、最悪だ。
今までは、少なくとも理由があった。
でも、こんなの……。
やらなきゃいけないパワハラ、どころじゃないじゃないか。何の意味もなく、モンスターの操られるままに攻撃するなんて。
こんなの、こんなのって、ないよ。
俺は、静かに目を閉じ――。
「くそ……ったれ……! 全回復……ッ!」
そんな声が聞こえたかと思うと、俺の体は一気に治った。
どうやら倒れていた賢者のナインさんが最後の力をふりしぼって俺を回復させてくれたようだ。
「な、ナインさん!?」
「小僧! お前は、ジットガマン家の人間、だ……。自分のステータスを、見てみろ……。今のお前なら……きっとヤツを……」
そこまで言うと、ナインさんはがくっと気絶してしまった。
俺はすばやく自分のステータスを確認してみる。すると、そこには……。
【名 前】 アレックス・ジットガマン
【性 別】 男
【年 齢】 17
【職 業】 農民 剣聖
【体 力】 1000
【魔 力】 1000
【物 攻】 1000
【魔 攻】 1000
【物 防】 1000
【魔 防】 1000
【スキル】 物理攻撃耐性LV300 炎・闇魔法耐性LV300 水・雷・風・土・光耐性LV100 毒耐性LV100 精神汚染耐性LV300 時間魔法耐性LV100 全属性魔法LV100 回復魔法LV300
「すべての基礎ステータスが千!? それに……スキルレベルも……ほとんどが百のままだけど、物理攻撃耐性と炎・闇魔法耐性、精神汚染耐性が三百になってる!? あ、あと回復魔法も? ど、どうして……」
考えられるのは、『該当する攻撃を喰らったから』しかない。
レナさんの補助魔法、アシュリーさんの剣技、シルヴィアの魔法付与付き剣技、そしてラミアの誘惑――。
これらの攻撃を喰らったから、その我慢エネルギーが俺の中に貯まったのだ。そして、それに比例して強くなった……。
「そうか。あと、回復魔法もレベルアップしたのは……即死レベルのダメージを、ナインさんが魔法で回復させてくれたからだな。ははっ、危なかった……」
今も恐ろしさで体が震えている。
本当にナインさんの回復魔法が少しでも遅かったら死んでいた。
「くっ……」
しかし、あまりもたもたしているヒマはない。こうしている間にも、またアシュリーさんたちが飛びかかってくるかもしれないのだ。
俺は、覚悟を決めた。
「俺にやれるかわからないけど……でも、ここであきらめるわけにはいかない! 喰らえ、ラミアッ!」
「なにっ!?」
「ヘイスト」
俺は動きを加速させる。
そして、今まで感じていたすべての思いを剣に乗せた。
「すべての我慢を解放……ガマン・スラーーシュッ‼」




