31、ダンジョン攻略③
ラミア。
それは上半身が人間の女性、下半身が巨大な蛇という半人半蛇のモンスターだった。
ラミアは、裸の上半身をくねくねとさせながらこちらに近づいてくる。
「うふふふ……男たちがたくさんいるではないか。せいぜいわらわの魅力に酔いしれよ。テンプテーション!」
そう言って、ラミアは踊るように身をくねらせた。すると、その場にいた男たちの様子が急におかしくなる。
騎士団の騎士とギルドの冒険者たちは、剣を抜いてお互いを攻撃しはじめた。
リーダーさんはなぜかレナさんにしがみつくし、騎士団長さんはぶつぶつとつぶやきながら地面に座り込んでしまう。
「あっちゃー。みんなに精神汚染の防御魔法をかけとくの忘れてたよー。てかリーダー、邪魔っ!」
と、レナさんはリーダーさんをぐいぐい引きはがしながらつぶやく。
一方、俺とナインさん、他の女性陣にはなんの影響もなかった。
「ふっ。俺は常にすべての防御魔法を自分にかけてるからな。これしきの攻撃、屁でもない」
ナインさんは訊いてもないのにそう語りはじめ、ドヤ顔をこちらに向ける。
俺は軽くスルーして、疑問をぶつけた。
「えっと……あの、今、何が起きたんです? どうしてみんな、おかしくなっちゃったんでしょう」
「あれはな、誘惑といって男だけがかかる混乱魔法だ。幻覚のようなものを見せられて狂っちまう、厄介な攻撃だ」
「そうだったんですか。でも、なんで俺は平気だったんですか? ナインさんが大丈夫だった理由はわかりましたけど……」
「おそらく、お前の精神汚染耐性のレベルが百を超えてたからだろうな。良かったな。俺の修行のおかげで少しは使える人間になってたぞ」
さらなるドヤ顔を見せつけられるが、俺は見たくなくて視線をそらす。
なるほど。「美人のシルヴィアを常に間近で見てきたから、ちょっとやそっとの美人にはなびかない」とか、そういうことではなかったようだ。
「ごほん。わかりました。で、これからどうします?」
「もちろん、反撃するだけだ」
ナインさんはそう言うと、さっそく攻撃しはじめた。
「サンダー・フローズン・アロー!」
雷を伴った氷の矢が、一斉にラミアに向かって放たれる。
それを皮切りに、女性陣もたたみかけるように攻撃を開始した。まずはレナさんが全員のステータスをいろいろアップさせる。そしてその状態で、シルヴィアとギルド長が突撃した。
「シャイン・ポイズン・スラッシュ‼」
「漆黒の豪斬剣・六つ斬りッ‼」
それぞれの攻撃が当たり、ラミアはかなりのダメージを負う。
痛みでのたうち回り、下半身の蛇のしっぽをぶん回しはじめた。
「よくも……わらわの体を傷つけたな! 喰らえ! 地慣らし‼」
蛇のしっぽが縦横無尽に打ち下ろされ、俺たちは端から順にふっとばされた。
「うああああっ!」
「きゃああああっ!」
混乱していた者たちも全員地面に叩きつけられ、こちらも大きな被害を被ってしまう。
「うう……。回復ッ!」
レナさんが自らを含む全員の体力を回復させる。
しかし、ラミアの間合いからかなり離れてしまった。うかつに踏み込むとまたあの攻撃を喰らってしまいそうだ。
「くそっ……俺としたことが……」
「じ、自分はいったい……?」
リーダーさんや騎士団長、その他混乱していた男たちが一斉に我に返りはじめる。
「ふん、ラミアから一定以上離れられたから、テンプテーションの効果が切れたようだな。足手まといの貴様らはそこで待機していろ」
ナインさんが冷酷にそう吐き捨てる。
誰も反論できないと思われたが、唯一騎士団長のベックさんが立ち上がった。
「そうは……言ってられるか。これは王命だ。王命に背くは騎士団にあるまじき行為! 精神汚染防御ッ‼」
ベックさんは自らと部下たちに補助魔法をかけ、それぞれの鎧についていたマントを引き裂いてそれで目を覆うよう、指示を出した。
「補助魔法だけでは心もとないからな……よし! みなも準備できたな! 反撃するぞッ!」
「そうか。その手があったか!」
騎士団の人々の行動を見て、リーダーさんも自分の服を破こうと思ったらしかった。
しかし、リーダーさんの場合、うまく破れなくて上半身の服がびりびりになってしまう。
「おかしいな……」
ビリッ。
下半身の服も破こうとするが、またもびりびりになってしまい、使い物にならない。結局、パンツ一丁になってしまった。
「ちょっ! あんた、こんな時に何やってんのー!」
「リーダー、ふざけている場合ではないぞ!」
「きゃあーっ!」
レナさん、ギルド長、シルヴィアが一斉に騒ぎ出す。
しかしリーダーさんはけろっとしていた。
「すまん! 力加減を誤ってな。ライ、レフ、目を覆うもの、なんかないか?」
「えっと……ハンカチありました。ど、どうぞ」
「リーダーさん……そりゃあないっすよ……」
ギルドの他のメンバーもドン引きである。彼らは、ライとレフという名前らしかった。
ハンカチを持っていた男の方が、リーダーさんの目をそれで覆ってやる。
「助かった! 奴の攻撃はちょっと強すぎるからな。お前らはそこで待ってろ!」
「は、はい」
「了解っす」
こうして、俺たちは態勢をたてなおし、ふたたびラミアと対峙したのだった。




