23、賢者からのスカウト
家に帰ると、こってり母さんにしぼられた。
それだけ心配をかけてしまったので、仕方ないといえば仕方ないんだけど。でもこっちも不可抗力だったんだと告げると、盛大にため息をつかれた。
「まあ、無事に帰ってきてくれたからいいよ。とにかくお前がいない間に、ある程度畑の方はやっておいたから。明日はちゃんとお前がしておくれ」
「……はーい」
その日はだいたいその程度で終わり、あとは普通に夕飯を食べて寝た。
翌朝――。
俺は言われた通り早朝から畑に出て、クワを振るっていた。
すると、どこかで見たような眼鏡の男の人がやってくる。
「よう、小僧」
「な、ナインさん!?」
それは賢者のナインさんだった。
真っ黒いローブを肩にひっかけ、長めの銀髪を手でかきあげている。
「な、なんでこの村に……まさか俺を殺しに!?」
「ちげえよ! あと慰謝料を請求しにきたわけでもねえ。レナにこっぴどく諭されたからな……。お前、あいつに感謝しておけよ」
レナさんがあとでナインさんに話がある、と言ってたのはこのことだったのか。
なにやら俺を諦めるよう説得してくれたらしい。本当に優しい人だ。
「じゃあ、どうして……」
「お前の能力も気になるがな、もうひとつ気になることができたんだ。その気配を、わざわざ探索魔法でたどってきたんだよ」
「探索魔法?」
そんなのもあるのか。
どういう原理かはわからないが、そんな魔法があるんじゃ逃げ延びるなんてそもそもできなかったようだ。
それより、俺以外に気になることってなんだろう。
「おっ、来た来た!」
「ん?」
ナインさんの視線の先を見ると、うちの隣の家からシルヴィアが出てきたところだった。
ナインさんは満面の笑みでシルヴィアを出迎える。
「おはよう、シルヴィア嬢!」
「げっ! 昨日の賢者様……。ど、どうしてここに? はっ、まさかアレックスを追って……!?」
「どうして君たちは、そう揃いも揃ってそういう考えになるんだ。俺は、もうあの小僧に用はない。君に用があってきたんだ」
「へっ? わたしに?」
シルヴィアはきょとんとして自らを指で差し示す。
俺はクワを放って二人の元へ行った。
「ど、どういうことですか、ナインさん。俺以外に気になることって……まさかシルヴィアのこと!?」
「そうだ。昨日の攻撃……レナの補助魔法があったとはいえ、あんな素晴らしい技を放てるなんて。俺は感激した! 文字通り雷に撃たれたようだったよ。君は相当筋がいいようだ」
「す、筋がいいって……」
ナインさんは眼鏡をキランと輝かせて言う。
「シルヴィア嬢、君は剣聖になりたいんだろう? それもただの剣聖ではなく、魔法剣士としての剣聖に」
「……!」
たしかに昨日、シルヴィアは剣聖を目指しているとナインさんの前で言った。
でもどうしてそこまでわかったんだろう。魔法も自在に使いこなせる剣聖になりたいなんてことまでは……。
「わかるさ。だって、あの剣技は『二つ以上の魔法を付与した剣技』だったんだ。あれは君が放てる技の中で最も強力なものだったはず。なにしろ、俺という格上の存在を倒そうとしていたのだからな」
「……そ、そうです。でも、だからなんなんですか? わたし、これからギルドに行かなきゃいけないんで、もういいですか?」
ナインさんの横を通って、王都へ向かおうとするシルヴィア。
けれどその背に、ナインさんの低い声が突き刺さった。
「君を、俺の弟子に迎えたい」
「「え?」」
俺も、シルヴィアも、その発言に反応せざるを得なかった。
スカウト……? シルヴィアがナインさんに? どうして……。
「先ほども言ったが、君は筋がいい。レナは補助魔法しか習得しようとしなかったが、君は攻撃魔法を、しかも複数組み合わせられるというセンスを持っている。魔法剣士は魔法を一種類だけ剣に付与させるのが一般的だ。しかし君は……その『組み合わせ』を自然とこなしている。わたしの弟子としてこれほどふさわしい存在はいない」
たしかに、最近のシルヴィアは俺に攻撃するとき、複数の魔法を同時に放ったりしていた。
最初はいろんな魔法をローテーションで放ってきていたのだが、だんだん連続して放つ感覚が狭くなり、今ではほぼ同時に放つようになっていたのだ。
魔法、剣での斬撃、魔法、剣での斬撃、のように、魔法と剣技も最初はバラバラだったのに、その間隔もほぼ同時になりはじめていた気がする。
昨日の『シャイン・サンダー・スラッシュ』というのは、俺も初めて見た技だった。
もちろん喰らったこともない。
きっと、レナさんの補助魔法のおかげで一時的にあの技にたどり着けたのだろう。
「そこの小僧にも言ったが、俺は日夜、さらなる強力な魔法を開発するため研究をつづけている。シルヴィア嬢。俺の弟子となり、その魔法研究に協力してくれないか?」
ナインさんの話に、シルヴィアはどう答えるのか。
俺は、それを固唾を飲んで見守っていた。




