22、帰路
今日はちょっと早めの更新です。
その後、レナさんに『空間転移装置』をまた見えるようにしてもらった。
ナインさんしかあの視認性ダウンの魔法を解除できないのかと思っていたら、弟子のレナさんにもできたようだ。ふたたび、星の文様が刻まれた岩が出現する。
「ありがとうございます! これでこの森から出られる!」
「どういたしまして~。あ、後はあたしに任せてくれていいから~。先に帰ってていいよ~」
「え? いいんですか?」
「うん。師匠にはちょーっと個人的に話があるしー」
そう言ってナインさんを見下ろすが、やはりその目は笑っていない。
いったいこの師弟、どんな間柄なんだろう……。ナインさんの性格からしてあんまり良くはなさそうだが。
やがて、黒焦げのままのナインさんがゆっくりと身を起こした。
「ぐっ……待て! まだお前の人体実験は終わって……」
「しつこいですよー、師匠~。そういうのってより嫌われると思うなー」
「より、ってなんだ。別に俺は好きとか嫌いとか気にして……はぐっ!」
言うや否や、レナさんの杖の先端がナインさんの頭に振り下ろされた。
ゴスッというなんとも痛そうな音がして、ナインさんは気絶する。
あの先端のバカでかい魔石は、やはり物理的にも相当な攻撃力があったようだ。
「しばらく寝ててくださいねー、師匠~。あ、アレックスくん、シルヴィアちゃん、今のうちに帰りなー」
「あ、はい。本当にありがとうございました。レナさん」
「ありがとう、ございました……」
「うん。じゃあねー」
「はい」
「……では」
俺とシルヴィアはそれぞれ軽く会釈をしてから岩に向かった。
シルヴィアが岩に刻まれた星形の模様を指でなぞる。
気が付くと俺たちは森の入り口付近へと戻ってきていた。
「じゃあ、帰りましょ」
「うん……」
王都へは寄らずに、俺たちは村へと直接戻ることにする。
歩いているうち、何か話そうかと思ったが結局何も言葉が出てこなかった。
まさか、シルヴィアが俺を迎えにくるなんて……。
母さんに頼まれたとはいえ、ちょっと驚きだった。あんな風にシルヴィアに「さよなら」したのに。ちゃんと探してきてくれたなんて。
俺はちらりと隣を歩くシルヴィアを盗み見た。
「なに、見てんの」
「へあっ!?」
しかしすぐに気づかれてしまう。
シルヴィアは俺を軽くにらむとすぐにそっぽを向いた。
「ご、ごめん……」
「別に。あんたが無事で良かったわ」
「うん、ありがとう。探しに来てくれて」
「まったく……気をつけなさいよねー」
あれ?
わたしとずっと訓練してればこんなことにはならなかったのよ、とかなんとか余計に言われると思ったんだけどな……何も言わないな。
俺はちょっと肩透かしを食らったようになった。
「え? それだけ……?」
「他になんかあんの?」
「いや……」
「あなたは、自分で強くなろうとしたんでしょ。だったらわたしは、もうそれを邪魔なんかしないわよ。でも……死にそうになるくらい頑張んないで。おばさまが心配するじゃない」
「あ、うん……」
またしばらく無言になってしまった。
けど、村が見えてきた辺りでシルヴィアが思い出したように言う。
「あ、そうだ」
「えっ?」
「スキルレベル、上限突破したらしいわね。おめでとう」
俺は言葉に詰まった。
そんなことを、シルヴィアが言うなんて。本当はそんなこと言いたくないだろうに。本当は自分が俺を、そこまで引き上げたかっただろうに。
「シルヴィア、ごめん……」
「なんで謝んのよ」
「いや、でも……」
「アレックスは、悪くないでしょ。そこは素直に喜んでおきなさいよ。文字通り、死ぬ思いで得られた力なんだから」
うん。
俺は、悪くない。
それはそうだけど……。でも、シルヴィアも、悪くなかったんじゃないか?
ずっとやられてきたことは嫌だったけど、それは……そのときにしか、俺たちにできることがなかっただけで。
ナインさんはちょっとやりすぎだけど、もっとちゃんとした指導者がいれば、俺たちは……。
「アレックス?」
「あ、いや。なんでもない。ありがとう、シルヴィア」
「そう、それでいいのよ」
「うん。てか、シルヴィア強かったな。あの技……。賢者をまさか倒せちゃうなんて」
「あれは、レナさんの補助魔法がすごかったのよ。おかげで今は体がバッキバキ。回復魔法かけたけど……しばらくは体を休ませないとだめね」
そう言って、シルヴィアは腕を軽くまわした。
なんか、うまく言えないけど、今のこの状態はいいなと思った。
本来はこうして、適度な距離間で付き合ってくものなのだろう。
俺たちは、今まで近くにいすぎた。
いろんな理由があってそうしていたけれど……これからは。
「さて、ちゃんとおばさまに報告しなくちゃね」
「え?」
「今までこうしてましたーって」
「そうだな。あと謝んなきゃ……」
「ふふっ、きっとすっごく怒られるわね~」
そうだった。
母さんは怒ったらシルヴィアよりも怖いのだ。
俺はげんなりとしながらもまた歩きはじめたのだった。




