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2、はじめての戦闘

 翌日。シルヴィアが元気よく家を出ていったのを見届けると、俺は畑に向かった。

 会わずにいられるなら、やつとはできるだけ会わずにいたい。


 にんじんに、じゃがいもに、だいこん。

 うちの畑は見事に土の中にできるものしか作っていなかった。これらは、土の上にできるものに比べ、野生の獣からの被害をそれほどうけないのだ。


「うーん、どうすっかなあ。ある程度収穫して市場に出したいけど……」


 今年は天候が不順だったのもあり、あまり生育がよろしくなかった。しかし、これ以上置いておいても大きくなることはない。俺はてきぱきと野菜を掘り起こすと、洗って荷台に積み込んだ。


「じゃあ、母さん。王都に売りに行ってくるよ」

「……気を付けてね、アレックス」


 一応剣を携えて、出発する。王都へは歩いて二時間ほどだった。日が暮れるまでには、市場に出して帰ってこれるといいな。


 道中、陰気な森があった。ここは父さんがモンスターに襲われた場所である。

 村の他の奴はギルドに護衛を依頼して移動しているらしい。でも、うちにはそんなお金はない。俺がもっと小さいときには、護衛を雇える家の人に代わりに売りに行ってもらっていた。でも、それだと手数料を余分に取られるので、うちに入るお金はほんの少しになってしまう。


 仕方がないので、俺は頭を働かせることにした。

 体が大きくなったから、荷車をひとりで移動させることはできるようになった。あとは、護衛を付けている人たちのすぐ後ろをつけていけばいい。そうすれば、それほどモンスターとはエンカウントせず、もし出くわしても、先を行く護衛が片づけてくれるはずだ。


 ちなみに今日は村で護衛付きの移動があると聞いていたので、こっそりあとをついていっていた。


「ん? なんだ? なんだか騒がしいな……」


 悲鳴が聞こえた気がしたので、前方を見てみると、少し先でうちの村の連中がモンスターに襲われていた。俺は荷台を止めて、固まった。


「ど、どうする。逃げるか? それとも……」


 俺は、なぜか腰から剣を抜いていた。

 ここで逃げて、彼らを見殺しにすることなんてできない。俺の目には、村の連中と自分の父親とがなぜか重なっていた。


「そうだ、俺は今までシルヴィアと、決して無駄な時間をすごしていたわけじゃない。少しは彼らの助けになるはずだ。母さん……ごめん!」


 もしかしたら死んでしまうかもしれない。

 でも、なんとか震える足を動かして、彼らの元へ行った。

 そこにはウルフドッグの群れがいた。大きな野犬みたいなモンスターだ。すでに護衛の人も含めて何人かが噛まれていて、危険な状態だった。俺はモンスターの前に躍り出て、剣を振りかぶった。


「やあっ!!」


 ザシュ、という音とともに真っ青な血しぶきがあがる。


 俺は自分の意外な動きに目を見張った。まさか一撃で敵を倒せるとは思っていなかったのだ。

 続いて、次のウルフドッグにも切りかかった。

 ザシュ。またも一刀のもとに切り伏せる。


 残り七匹。

 俺はその時になってはじめて人々に逃げるよう叫んだ――。


 

 結果から言うと、俺はあっという間にウルフドッグたちを殲滅させてしまった。

 自分でもそ驚きだった。

 村のみんながこぞって俺を褒めたたえる。


「いやあ、まさかお前ぇがこんなに強かったとはな。さすが、シルヴィアちゃんといつも訓練してるだけあるよ」

「これからはアレックスに護衛してもらおうかな」

「そうだな。いままで後をついてきてるの、なんとなく気づいてたけど、あえて見逃してやってたんだもんな。それくらいは働いてもらいたいもんだ」

「みんな……。そうだったのか」


 なんということだろう。彼らは、今まで俺が後をついていってることをあえて知らないふりしててくれたようだ。なら、これからは俺が恩返ししないとな。俺は快くその提案を受け入れた。


「よし、わかった。これからはみんなで行こう」

「おう! そうこなくっちゃ」

「それじゃあ俺たちの仕事がなくなっちまうぜ……まあ今回は敵の数も多かったしな、ホント助かったよ。ありがとな、坊主」


 ギルドの護衛の人たちだった。彼らはなんだかばつが悪そうにしていたけど、それでも死者が出なくて良かったと思っているようだった。俺も、たしかにほっとした。


 それにしても、どうして俺はこんなに動けたんだろう。初めて戦ったというのに。

 首をかしげていると、護衛のチームリーダーっぽい男の人が、話しかけてきた。


「おい、お前、なんであんなに強かったんだ? いったいどこでその剣技を磨いた?」

「ええと、俺幼馴染といつも訓練してるんですけど……思い当たるのはそれくらい、ですかね……」

「幼馴染? 誰だそれは。俺は一応Bランクの冒険者だが、とてもひとりであんなにたくさんのウルフドッグは倒せないぞ」

「そう言われても、ほんとにそいつとの訓練だけなんです」


 説明するが、リーダーさんはまるで聞く耳を持っちゃくれなかった。


「いや、だって動きが半端なく速かったぜ? あんなふうに動くには、それなりの達人のもとで鍛えないと……。それにウルフドッグは爪と牙に毒を持ってる。なのにお前はそれらを喰らってもまるで平気だったな。いったいなぜだ」

「ええ……?」


 俺はもう一度よく考えてみた。


「たしかに。いつもより動きが速かったような……気がする。でもそれは、シルヴィアのいつもの遅延の魔法を受けてなかったからで……。あと、毒も訓練ではかかっているのが普通で、最近じゃ二重掛け三重掛けにもなってた。だから、ウルフドッグの毒はたいしたことなくって……。あと、防御力を下げる魔法もいつもかけられてたから……その魔法を受けてなかった今は、大した傷を負わなかった……? てか無傷? 俺?」

「なんてこった……」

「え?」

「おいお前、ちょっと自分のステータス開いてみろ」


 初めて聞く言葉だった。ステータス、とはなんだろう。リーダーさんいわく、ギルドではステータスを確認できる機械があるんだとか。そして、魔法が使えるものはみな、あらゆる人のステータスを見ることができるらしい。


「いや、俺は魔法使えないですよ。以前その幼馴染にも言われたんです。あんたは魔法の才能がないわよって。だから、他に使える人に頼んでもらえますか?」

「俺も、格闘士で魔法は使えないからなあ……。おい誰か、こいつのステータスを見えるようにしてくれ」


 護衛の人の中でも魔法を使える人がやってきて、俺のステータスを開いてくれた。

 でも、そこには意外過ぎる数値が並んでいた。

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