18、上限突破
「シャイン・サンダー! ブロークン・フロスト! アシッド・トルネード!」
「あがっ、ぐはあっ!」
ナインさんが連続で、各属性を組み合わせた魔法を発動してくる。それはもう、かれこれ一時間ほどは続いていた。
俺はそれらをすべて受け止め、自らの中に少しずつ『我慢エネルギー』を蓄積させていく。
「フフッ! やるじゃあないか。だがこれはどうだ! サウザンド・アイススピア!」
「うわあああっ!」
上空から幾千もの氷柱が降り注ぎ、俺は両腕でそれを防御した。しかし、威力が強すぎて腕の前面がズタズタになってしまう。なんってすさまじさだ……。これじゃいつか本当に死んでしまうかもしれないぞ。ナインさんがすぐ回復魔法をかけてくれるから、今のところは心配ないが。
「ん?」
俺はふと、自分の中に力がみなぎっているのを感じた。
これは……もしや、レベルアップしているんじゃないか?
「あ、あの、すみません! 今俺、どれぐらいのレベルになってますかね? ちょっとステータス確認してもらいたいんですけど……」
「なに? お前魔法が使えないのか。それだけ魔力があって、いったいどういうことなんだ……」
ナインさんの近くに行くと、しぶしぶといった様子で俺のステータス画面を開いてくれた。すると、耐性スキルが軒並み三桁以上になっている。
【名 前】 アレックス・ジットガマン
【性 別】 男
【年 齢】 17
【職 業】 農民 剣士
【体 力】 950
【魔 力】 945
【物 攻】 510
【魔 攻】 500
【物 防】 500
【魔 防】 510
【スキル】 物理攻撃耐性LV100 炎・水・雷・風・土・光・闇、全属性魔法耐性LV100 毒耐性LV100 精神汚染耐性LV100 時間魔法耐性LV98
「や、やったあ! あ、でも、時間魔法だけはまだ……ですね。それを百にしてもらえたらもう大丈夫ですので。それ以上は望んでませんので……」
「おい、ちょっと待て」
「え?」
一歩下がって、また魔法攻撃を受ける準備をしていると、ナインさんが不機嫌そうにそうつぶやいた。
「お前、何か勘違いしてないか?」
「か、勘違い……ですか?」
「ああ。別にそっちの都合はどうでもいいんだよ。俺は、俺の腕を試す実験動物として、お前をここに置いてんだ。その辺をはき違えてもらっちゃ困るな」
「は?」
やっぱり。さっきの違和感は間違いじゃなかったんだ……。
「じ、実験動物って……?」
「俺様のような天才賢者が、わざわざ見知らぬ小僧にタダでかまうわけないだろう。お前は世界でも類を見ない、希少な血統の持ち主だ。その特性は伝説上だけの話だと思っていた。だが、今まさに目の前に実在している。こんな機会またとないだろう」
「お……俺をどうするおつもりですか」
「百までなど生ぬるい。お前には耐性スキルのレベルを二百まで上げてもらう」
キラン、とナインさんの眼鏡が光った気がした。
俺は思わず声をあげる。
「はっ!? に、二百?」
「そうだ。一応スキルレベルは百ごとに上限が突破できるようになっているからな。ちなみに俺様は三百以上だ。お前はそのままでは下げ止まりの百のまま。だから――」
「ちょちょちょ、待ってください! 別に俺、そこまで強くなろうとは思ってないですよ? シルヴィアとの……あ、いえ幼馴染の名前がシルヴィアっていうんですが、そいつとの訓練が酷いやり方で、それがなくなればいいやって、百でとりあえず満足しようって、そう思ってるんです。だからそれ以上なんて……」
「ゴチャゴチャとうるさい! とにかく、お前はもうこの俺の実験動物になったんだ。文句を言うな。あとどうしても嫌で逃げ出すってんなら、慰謝料二億ほど請求させてもらうからな。この俺の貴重な時間を無駄にした報いとして」
「はああああっ!?」
まずい。ヤバイ。やっぱりこの人変な人だった!
今更ながら、レナさんの忠告がよみがえってくる。
『アレックスくん、無理だと思ったらすぐ引き返しなねー?』
無理です。もう引き返せません!
この人、こわあああい。
結局、俺はすべての耐性レベルが二百になるまで、ナインさんの壮絶な「人体実験」に付き合わされることになったのだった。
次回はシルヴィア視点の回です。