17、賢者ナイン
レナさんの地図に従って『北の森』にやってくると、街道から少し離れたところに大きな岩があるのが見えてきた。
「おっ、あれが『空間転移装置』ってやつか」
地図にはご丁寧にその装置の名前と、さらに操作方法まで書かれてあった。
まず、岩の裏にある星形の文様を探して――。
あった。
次にそれを、てっぺんから一筆書きの要領で指でなぞってみて――。
なぞってみる。
「ん……? 景色が、変わった?」
気が付くと、先ほどまで森の入り口付近にいたのが、一瞬で薄暗い森の奥へと移動していた。
目の前の岩はさっきのと同じように見える。でも、星の形が上下逆になっていた。
不思議な現象に驚きつつ、俺は岩のうしろにある獣道をずっとたどっていくことにする。
しばらく行くと、開けた場所に出た。
小さな畑と花壇があり、色とりどりの蝶が舞っている。そして、巨大な木の根元に一軒の小屋が建っていた。
「あそこかな……?」
俺はおそるおそる、その小屋の戸を叩く。
「すみませーん。王都のギルドから来た者ですが」
「誰だ? この天才賢者様の眠りを妨げる者は!」
どたどたと大きな足音を響かせて、中から眼鏡の男の人が出てくる。
現れたその人は、不機嫌そうに俺を見下ろしてきた。
真っ黒いローブを肩からかけているが、この人がレナさんの師匠なんだろうか?
「ええと……お休み中のところすみません。あの、」
「ステータス・オープン。なに? アレックス……ジットガマンだと!? ジットガマン姓、ということは……やはりか」
なにやら俺のステータスを見て、勝手に納得されている。
まあ『賢者の中の賢者』って呼ばれてるくらいだから、いろいろなことをご存じなんだろう、きっと。俺のファミリーネームの由来についても……。
自己紹介の手間が省けたようなので、さっそく来訪の意図を話す。
「あの、俺、レナさんに紹介されて来たんです。どうか少しだけでも、俺を鍛えていただけないでしょうか?」
「レナ? あのレナ・フューリーか? 俺様が育てた天才の」
「あ、はい……」
「そうかそうか! あいつは優秀だっただろう? なにしろこの俺様、天才賢者ナインが育てたんだからな!」
「えーと……」
長めの銀髪をさらりとかきあげて、レナさんの師匠はどや顔を披露される。
どういう反応をすればいいかわからずに困っていると、ナインさんは俺にいきなり魔法を放ってきた。
「ダーク・プロミネンス」
「うわっ!」
闇魔法と炎魔法をかけ合わせた魔法、ダーク・プロミネンス。しかし、その威力とスピードはシルヴィアの物とは比べ物にならなかった。避ける間もなく、俺は一瞬で漆黒の炎に包まれてしまう。
「ぐうっ……! い、いきなり何を……」
火傷の痛みに耐えていると、すぐに回復魔法をかけられた。
「回復。……なるほど。そうか。そうしてレベルアップするんだな。師匠の師匠から聞いたとおりだ」
「あ、あの……?」
「いや。よくわかった。いいだろう。お前を俺様の、実験動物にしてやる!」
「あっ、ありがとうございま……! ん?」
なんか一瞬、セリフの一部が不穏になったような……。
いや、気のせいだろう。
こうして俺は、賢者ナインの弟子(?)となったのだった。