15、シルヴィアの気持ち
シルヴィア視点の回です。
アレックスから「さよなら」を言われたわたしは、すぐにその場を動くことができなかった。
なんで? どうして?
わたしは、わたしのできることを精一杯やってきただけなのに……。
涙が、あとからあとからあふれ出してくる。
小さなころから大好きだったアレックス。お互いの父親が死んで、辛い思いをしていたわたしたちは、「いつか父さんたちを殺したモンスターを倒せるくらいに強くなろう」と固く誓い合った。
でも、それを覚えているのはわたしだけだったのかもしれない。
一緒に強くなろうね、って思っていたのも、きっとわたしだけだったんだわ。
たしかに、あんな修行方法じゃ愛想をつかされても当然ね。
はたから見れば完全ないじめだったもの。
一応、そうする理由はあったんだけど……。
きっともう、どんな言葉を並べてもアレックスの気持ちは戻らない。
だったらわたしは、またわたしができることをするしかない。
いち早く剣聖になる。
そのためにはもっともっとクエストを受注しなきゃ。
そうしたら、いつかアレックスと並び立てるかも。二人で「それぞれ」強くならなきゃ……。
その日はちょっぴり食欲がなかったけれど、翌日はしっかり食べて家を出た。
向かうは王都のギルド。
と、思ったら、アレックスがすでに先に家を出ていた。
昨日の今日で一緒に行くのは気まずかった。だから、少し後ろを歩いていくことにする。
いやだ。なんだかわたしストーカーみたくなっちゃってない?
アレックスに気づかれないといいんだけど……。
一応、視認性ダウンの魔法を自分にかけておく。
アレックスがまだ魔法を一切覚えていなかったから良かったわ。もし覚えさせてたら、この効果も見破られちゃってたかもしれない……。あ! いいえ、違う。あいつにはそういう魔法効果の耐性もすでにあるんだった。だから気づかれる可能性が……。
より一層気を付けて付いていくことにする。
やがて、王都に着くと、アレックスはギルドの建物に入った。
中で何をしてるんだろうと見に行きたかったけど、やっぱり気まずくなるのが嫌で躊躇していた。
そうこうしていると、知り合いに声をかけられてしまった。
「あれー。シルヴィアちゃんじゃなーい? どうしたの視認性ダウンの魔法なんてかけて」
「あ。えーっと……いま中にアレックスがいて、あんまり顔を合わせたくない状態、といいますか……」
「へぇー?」
それは回復術師のレナさんだった。
わたしより先にSランクになった先輩である。レナさんはニマニマと微笑みを浮かべながらわたしを見下ろしていた。
「あららー、喧嘩でもしちゃった?」
「え、ちっ、違います! ちょっと、ちょっとだけ、気まずくなってるだけです!」
「んー? 気まずい? なんで?」
「や、その……もう独り立ちしたい、みたいなこと、言われちゃいまして……」
「はー、そっかぁ。やっぱそーなっちゃったかー」
「え?」
「いやあ、君たちの仲は良くわからないけどさー。たぶんそーなるんじゃないかなーって、ちょっと思ってたから」
「……」
「きっと、親離れみたいなものなんだよ。うん。良きかな良きかな」
「ええ? そう……なんですかね?」
そういうんじゃ、ないと思うけど。
アレックスはわたしが嫌いだったみたいから、もう一刻も早く離れたい……だけだよ。
「まあ、昨日のクエストみたいに毎回うまくいくとも限らないしー? アレックスくんのことは、長い目で見てあげればー?」
「……その、つもりです」
そうだ。あいつはこれから失敗することもあるだろうし、つまずくことだってある。
そういうときまで知らんぷりすることはしない。だってわたしは、あいつの幼馴染だから。同じ村の出身で、家も隣同士の人間だから。
だから――「さよなら」って言われたけど、いつかは陰ながら助けてあげるつもりだ。
うん。
わたしは大きく深呼吸して、顔を上げる。
「よし! レナさんも、ギルドに用があるんですよね?」
「もちろん」
「じゃ、一緒に行きましょう!」
そう言って、わたしたちはギルドの扉を開けて、中に入った。