13、すべての我慢を越えてゆけ
主人公の耐性スキル説明回。
ちょっと長いです。
「我慢の、訓練……?」
「そうさ。お前はずっとシルヴィアちゃんと『我慢の訓練』をしていたんだ。一方的に攻撃を受け続けていたろう? それは、お前の中に『我慢エネルギー』を貯めるためだったんだよ」
「ちょっと待ってくれ。その『我慢エネルギー』ってのは、なんなんだ」
聞いたこともない単語に、俺は首を傾げた。
しかし、母さんもシルヴィアも、平然とした顔をしている。二人にとってはそれは、知っていて当然のものだった。
「我慢エネルギーは……人間がなにかしらの苦痛に耐えているときの『負のエネルギー』だよ。それをジットガマン家の人間は感じ取ることができる。さらに自分の出力として変換したり、己の身に蓄えることもできるんだ」
「じゃあ、『周囲の人間がピンチになったときにしか力がうまく出せない』っていうのは……」
「そのピンチになったやつらが生み出す『我慢エネルギー』を、自分の体内に取り込んで、体力や魔力を強化しているのさ。でも、他人のエネルギーは長く貯めておけない。だから、すぐに消費しなきゃならないんだよ」
なるほど。
ウルフドッグの時には村の人たちが、アシッドドラゴンの時にはギルド長がそれぞれピンチだった。彼らの我慢エネルギーを、知らず知らずのうちに取り込んでいたのか……。
「じゃあ、『自分より強い人から攻撃を受けないと強くなれない』っていうのは?」
「自分の『我慢エネルギー』も、自らの中に貯めることができる。他人のよりは長く貯めておけるから、もっぱらそれは自己の成長に使えるんだ。でも、自分より弱い奴から攻撃されたって、それはたいした我慢には成り得ない」
「そうか、だから……」
「自分より強い奴に頼むしかないんだよ。そうして、自分の中に『我慢エネルギー』を貯めつづけていけば、やがて容量が限界に達し、レベルアップすることができるんだ。ただし、そのためには反撃をしないでひたすら耐えつづけるしかない」
「シルヴィアが、一方的に俺を攻撃をしつづけていたのは……。そのため?」
母がうなづくのも待たず、俺は反射的にシルヴィアの方を見た。
シルヴィアはどことなく寂しげな笑みを浮かべている。
「本当は、あんなことしたくなかった……。でも、わたしも剣聖になりたいって夢を早く実現させたかったから、相棒のあんたと共に強くなるためにはああするしかなかったの。いじめて、いじめて、いじめ抜いて、アレックスが徐々に強くなるのを待つしかなかった。わたしも、そういう意味ではずっと『我慢エネルギー』を出しつづけてたかもね」
「シルヴィア……」
「ちなみに、わたしとの訓練を少しでも怠ると、あんたは耐性スキルのレベルがダウンするわ。わたしがいなかった間……ギルドのクエストをしていたようだけれど、果たしてどれだけ下がったかしら」
そう言うと、シルヴィアは俺のステータスを無理やり表示させてきた。
「ステータス、オープン!」
目の前に、昨日見た半透明の四角い窓が出現する。
【名 前】 アレックス・ジットガマン
【性 別】 男
【年 齢】 17
【職 業】 農民 剣士
【体 力】 950
【魔 力】 945
【物 攻】 510
【魔 攻】 500
【物 防】 500
【魔 防】 510
【スキル】 物理攻撃耐性LV98 炎・水・雷・風・土・光・闇、各魔法耐性LV98 毒耐性LV98 精神汚染耐性LV100 時間魔法耐性LV98
「ほら、言った通り! 全部のスキルレベルが下がって……って、え? 精神汚染耐性だけ……なんで、限界突破してるのよ!」
たしかに、他のパラメータには変化がなく、耐性スキルだけぞれぞれ見事にレベルダウンしていた。でもなぜか、精神汚染耐性だけはレベルアップしている。しかも三桁に。
昨日、リーダーさんからは「スキルレベルの上限値は普通99までで、それを突破できるのは達人レベルの剣聖や賢者だけだ」と説明を受けていた。ということは、精神汚染耐性だけ達人レベルになったということか。でもいったいなぜ……。
「どうして? わたしはまだSランクレベルよ。こんな、達人レベルのレベルに昇格させられるとしたら、剣聖か賢者に攻撃を受ける必要が――」
あっ。剣聖。
そうか。今日のクエストで一緒になったギルド長は、たしか剣聖レベルの冒険者だった。
あの人から攻撃を受けたから? え、でも痛めつけられたことなんて……。
「まさか……あの人の作戦が影響したのか?」
「どういうこと?」
俺はシルヴィアと母さんに、今日クエストであったことを手短に話した。
アシッドドラゴンに服を溶かされ、全裸になったということ。そしてそれは全部、剣聖であるギルド長の作戦で、最終的には俺がドラゴンを倒した、ということを。
「なるほど……判定としては、そのギルド長のせいで『恥ずかしい』思いをさせられた。だから精神汚染耐性がレベルアップしたってことなのね」
「まさか、あれが攻撃とみなされるとは……」
俺の耐性スキルはわりと幅広い意味で成長していくらしい。
母さんは、俺たちの話を聞き終えるとふうと長い息を吐いた
「まあ、ドラゴンと戦ってたなんて聞いてびっくりしたけど……とにかく無事に帰ってきてくれて良かったよ。そして、さらに成長することができたんだね。よくやった、アレックス」
「母さん……」
「お前は家のために金を稼いできたかったんだろうけど……これからも、そうやって冒険者として働きたいのかい?」
「うん。今まで俺にこんな力がついてたなんて、知らなかったけど……わかってからは、この力をもっと有意義に使いたいって思ったんだ。村のみんなももっと楽させてやりたいって思ったし。みんなの、王都までの護衛を任されることにもなったしさ。だから……」
「わかった。畑のことは……母さんに任せな。お前はこれから先、どんな辛いことも我慢するたびに強くなる。これからは、そうやって決して何物にも負けないような強い男になるんだよ。あと十分気を付けて。父さんのように下手して死んだら許さないからね。いいかい?」
「うん。わかった。頑張る!」
俺は力強くそう答えると、胸に誓った。
いつかすべての我慢を越えていくと。
「シルヴィアちゃんも、そういうことでいいかい?」
「はい……。複雑ですが……」
「ははは。本当はシルヴィアちゃんが先に剣聖になって、こうしたかったんだろうけどね。ま、今後も二人して精進するといいよ」
母さんはそう言うと、「そろそろ夕飯の支度をしないとね」と言って台所に行ってしまった。
俺はシルヴィアを見た。
彼女とこれからも同じように接していくのだろうか……。俺はこれを機に、思っていたことを伝えようと思った。