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12、ジットガマン家の秘密

 帰宅すると、家の奥から母さんが血相を変えてやってきた。


「ああっ! アレックス! 無事かい? ああ、良かった……!」


 どうやら、昨日俺が書いた『遺書』を見つけてしまったらしい。

 手にはそのぐしゃぐしゃになった紙束が握られていた。

 さすがは母さんだ。昔から隠し事などしてもすぐにバレてしまっていた。今回もきっと、家を出るときの俺の様子がおかしいだとか、そんなわずかな変化でピンときたのだろう。


「アレックス。あと、あの五十万エーンってお金はいったい何なんだい? あんな大金、どうやって――」 


 不安げに訊かれるが、母さんはちょうど俺の後ろにいた人物に気が付いた。


「あ、シルヴィアちゃん」

「えっと……おばさま、こんにちは。今日はちょっと、そのことでお話が」

「……そうかい。じゃあまあ、二人とも、とりあえず中へお入り」


 俺たちは母さんに言われるまま家の中に入った。

 リビングで待っていると、母さんがすぐにお茶を入れて戻ってくる。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」


 長い距離を歩いてきたのでかなり喉が渇いたのだろう、シルヴィアはあっという間に半分以上を飲む。

 俺も、シルヴィアにならってカップに口をつけた。母さんはシルヴィアにお茶をつぎ足しながら話を切り出す。


「それで? お金のことだけど……あれ、シルヴィアちゃんも何か事情を知っているのかい?」

「はい。実は、わたしも今日知ったことなんですが……(中略)……ということだったみたいなんです。お金を必要としていたとは聞きましたが……。すみません、わたしの監督不行き届きでした」

「……そうかい」


 はあ、と母さんは軽くため息をついた。


「まあ、仕方ないよ。シルヴィアちゃんは昨日今日と村を離れていたしね。あたしも息子が何かしようとしてるのを気付けずにいた。それにしても、この子が冒険者にねえ……」


 どこか遠い目をしている母さんに、俺は単刀直入に訊いた。


「なあ、母さん。シルヴィアとはいったい何を、約束してたんだ? 俺にだけ言ってないことがあるだろう」

「ああ、アレックス……」

「今まで俺が『訓練』をしてきたのは……全部母さんに勧められたからだ。いつかモンスターに襲われたときのために、シルヴィアとみっちり稽古しておくんだよ、って。それは本当はどういう意図があって言ってたんだ、教えてくれ!」

「あたしは……あんたに父さんのようにはなってほしくなかったんだよ……」

「シルヴィアも言ってたが、それはどういう意味なんだ?」

「すべては十二年前――」


 それは俺が、五歳の時だった。

 その頃、父さんがモンスターにやられて死んだ。

 母さん曰く、それは父さんが自らを鍛えてなかったのが原因らしい。本当はいろんな能力に恵まれた『ジットガマン家の人間』だったのに、と。


「ジットガマン家の人間……?」

「そう。うちの、父さんの家系はね、ご先祖様に伝説の勇者がいるんだ。アレクサンダー・ジットガマンという最強の勇者がね」

「最強の勇者……」

「その人は、魔王を封印までできた勇者だったけど、唯一弱点があった。それは周囲の人間がピンチになったときにしか力がうまく出せない、ってとこだよ。つまり、周りの人間あっての勇者だったんだ。逆に周りに誰もいなくなってしまうと、弱体化しちまう」

「なんだよそれ……」

「父さんはね、勇者どころかただの農民だったから、もともと全然強くなかったんだ。そのころは今よりも貧しくてね、ギルドの護衛を雇うお金もなかったから、みんな護衛なしで王都まで行っていた。そしてあの日、ついに襲われて……全員ピンチになっても、父さんがモンスターを倒せるほど強くはならなくて……だから、結局全滅したんだ」

「そんな……」


 父さんがどうやって死んだかなんて、そういえばあまりちゃんと聞いてこなかった。

 でも、そんな最期だったなんて。

 シルヴィアは言う。


「あのとき、わたしの父も一緒に行っていたわ。そして……亡くなった。だからわたしはいつか、村の人たちみんなを守れるくらいの強い人になりたい、って思ったの。どんなモンスターでも一撃で倒せるくらいの強い……剣聖になりたいって。そして、できたらそれは、幼馴染のあなたと叶えたいって思ってた。同じ父親を亡くした者同士、だったから……」

「シルヴィア……」


 そんな気持ちで、お前は剣聖を目指していたのか。

 俺みたいに手っ取り早くお金を稼ぎたいだけだと思っていたよ。

 今までシルヴィアのことはあまり好きになれなかった。だから、そういう深い話もあえてしようとはしてこなかった。でも、そういう思いでいたんだな。


「あたしは実際現場を見たわけじゃないからね。調査してくれた国の人によると、そういう顛末だったそうだよ。でも、それからが大変だった。女手ひとつで切り盛りしていかなくちゃいけなくなったからね。その頃からかね、村総出で助け合いするようになったのは。あんたたち二人が強くなってくれることをみんなが願いはじめたのも、それからだ」

「そうだったのか……」


 だから俺たちはずっと、冒険者になるための訓練を『させられてきた』のか。

 村の、希望だったんだ。俺たちは。


「でも、ジットガマン家の人間にはもうひとつ、変わった特徴があった。それは――」

「『自分より強い人から攻撃を受けないと強くなれない』だろ?」

「そうさ。シルヴィアちゃんから、聞いたのかい?」

「……ああ」

「シルヴィアちゃんには話しておいたからね」

「それも……どうして俺には話してくれなかったんだ!?」

「それは――」

「それは?」

「それも、『我慢』の訓練の一つだったからさ」

「は?」


 俺はその言葉に唖然とするしかなかった。

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