9、シルヴィア襲来
俺たちはその後すぐに王都に舞い戻り、ギルドの受付でいよいよ報奨金を受け取ることになった。
「お疲れさまでした。はい、これが報酬の八十万エーンですね」
「あ、ありがとうございます!」
こんなにたくさんの札束を渡されたのは二度目だが、やはりビビる。
なにしろ計百三十万エーンになったのだ。
「これが、俺の報酬……」
それは、シルヴィアとの「訓練」がちゃんと実を結んだはじめての瞬間だった。
なんとも言えない感動に打ち震える。
ギルド長と、リーダーさん、レナさんも、俺と同様受付でお金をもらっていた。報奨金の他に、ドラゴンから出て来た素材も換金しているので、ギルド長だけちょっと時間がかかっている。あちらはみんなで山分け、ということになっていた。
「やったぜ~、アレックス! 俺、今回のクエストでようやくBからAランクになれたぞ!」
「良かったですね、リーダーさん」
「おう。お前のおかげだぜ!」
「俺は……Bランクに昇格? しました」
「そうか」
「水晶玉では俺、たしかSランク相当って出てましたよね? でも、ギルドってクエストをこなした数で冒険者ランクが決まるんですか?」
「まあなー。クエストの難易度も影響しているんだが……今日のアシッドドラゴンの討伐クエストはその難易度がかなり高かったからな、一番下のFからはじめてもBランクまでポイントがすぐ溜まったんだろう。大丈夫、お前ならすぐに実力通りのSランクになれるさ」
そう言って俺の肩を叩くリーダーさんは、すでに全身のモザイクが取れていた。
代わりにちゃんと白いシャツとズボンを身に着けている。
「ま、何はともあれ、お互い無事に生き延びて金がもらえたんだ、おおいに喜ぼうじゃねえか!」
「そうですね。リーダーさん、本当にいろいろありがとうございました!」
「いいってことよ」
二人で達成したことを喜びあっていると、ちょうど手続きの終わったレナさんがやってきた。
「二人ともー、お疲れー」
「あ、レナさん! お疲れさまでした。今回の後方支援、ありがとうございました」
「まあ、礼儀正しいねー。服の調子はどう?」
「はい。着心地抜群です。すいません、こんないい洋服、用意してもらっちゃって」
「あー、いいのいいの。それはあたしがわざわざ用意したんじゃなくってー、もともと飛行船に積んであった物だからー」
「え、そうなんですか?」
「うん。戦闘で服が破けたり、モンスターの返り血を浴びちゃうことも、よくあることだからねー。そういうときのために予備が置いてあるんだよ。ま、あたしは常に自分の服に防汚魔法をかけてるけどね」
そういえば、レナさんのフード付きローブは常に真っ白で汚れ一つない。
そういう魔法もあるのか。
「あのう、酸も、その防汚魔法を使ったら避けられてたんですか?」
「え? いやー、うーん。そこ難しいんだよねえ。酸は汚れというか、もう特殊『攻撃』の部類だから。毒とかともちょっと違うし。だから一応防御魔法で防ぐんだけど、ほら、今回の作戦がそもそもああだったからさー」
そう。今朝の作戦会議で決まったことは、「わざとアシッドドラゴンの酸に溶かされにいき、注意を引きつける」というものだった。どうもアシッドドラゴンには、敵を見つけるとそれを溶かしきるまで対象に執着するという習性があるらしい。
だから俺たちはわざわざ真正面から突っ込んでいったのだ。
「ああ、なるほど。だから防御魔法をわざと『あのレベル』に調節してたんですね?」
「そーいうこと。ある程度溶けないと『溶かしてる』ってドラゴンも認識しないからねー。そうなると引きつけられなくなるし。まあ、君たちの基礎ステータスだったらそんなにダメージも負わないでしょって、高はくくってたかな。ごめんねー、説明不足で」
「いえ、わかりました」
「ふっ、俺もそれぐらいわかってたぜ! てか、レナに任せてれば大丈夫って信じてたからな!」
ふふんと得意そうにリーダーさんが胸を張るのを、レナさんは目を丸くして見ていた。
だが、すぐにげんなりとした顔になる。
「リーダー、あんたはもうちょっと慎重になりなさいよー。同期のあたしは……まあいいとして、他の冒険者は信用しきらない方がいいわー。万が一、見込みがズレてたらどうすんのー」
「ははっ、その時はその時だ! ま、俺は見誤ってたとしても、自分で自分のケツをふくがな! だから心配ご無用だぜ!」
「はあー、もう二度とあんたに優しい言葉はかけないわー」
なんっでだよ、とリーダーさんがつっこむが、すでにレナさんは聞く耳を持っていなかった。仲がいいなあと思う。同期、って言ってたけど、なんだかこういうのが本来の『幼馴染』の姿なんじゃないかって思えてきた。俺とシルヴィアも……なにかが違っていたら、こういう関係になれていたのかもしれない。
「おーい、みんな、待たせたな! 素材の換金が終わったぞ!」
そこへちょうどギルド長が戻ってきた。
アシッドドラゴンから出た素材はとても貴重だったらしく、手数料を差し引いても、なんとそれぞれ十万エーンほども残ることになった。これで、俺がもらった金額は計百四十万エーンとなった。いったい何か月分の稼ぎになったのか……めまいがしてきそうである。
「あ、アレックス……?」
だがその時、俺の背後から聞きなれた声がしてきた。
おそるおそる振り返ると、そこには、幼馴染のシルヴィアがいた。