二話
突然だが、俺は注目をされる事が全くといっていい程ない。 学力平凡、運動平凡、顔面偏差値……た、たぶん平凡だろう。 簡単に言えば特徴が全くないのだ。
なので今まで注目される事などなかったのだが……
今は道行く人の注目の的になってしまっていた。
当然通学路なので同じ高校の生徒もいるが、男子の視線が怖すぎて目を合わせることすらできない。
真っ黒なロングの髪、おとぎ話に出てきそうな愛らしい顔立ち、そして男を虜にするであろう可愛すぎる笑顔を振り撒く、例えるなら天使の様な子と手を繋ぎ、道を歩くならば仕方のない事だろう。
しかし陰キャ代表みたいな俺にはキツすぎる、こんなの精神持たないから、まるで通学路が俺専用の地獄と化してしまっている。
手を離してくれと言えば真琴ちゃんなら離してくれるだろう……可哀想だけど、俺には無理です。
「ねぇ、真琴ちゃん?」
「はい、どうしましたかお兄ちゃん?」
目を輝かせて返事しないでよー、言いづらくなるから、あと可愛すぎるから本当に惚れそうだからやめて……
「いや、なんでもないよ。ごめんね」
結局、俺は言い出す事が出来ずに学校に着くまで、隣に美少女(妹)、周りは地獄という体験し難い体験をする事になった。
――――――――――
やっと着いた……
学校には徒歩10分程度の筈だったが今日は1時間くらいに感じてしまった。
毎日こんなに視線を感じるなら俺ならば死んでしまいそうだ。 真琴ちゃんは毎日こんな視線を感じていて大丈夫なのだろうか。
「真琴ちゃん、周りの視線凄かったけど大丈夫だった?」
「えっ? そうなんですか。 全く気づきませんでした。」
本当に気付いていなかったのか、キョロキョロする姿がまた可愛い、妹で無ければ即告白する自信がある。
「多分お兄ちゃんがかっこいいから視線が凄かったんですよ」
いや、残念だが俺はかっこ良くはない。 この顔で俺かっこいい!! みたいに自信過剰なわけでもはない為ここは否定しておくべきだろう。
「そんな事ないよ。 多分真琴ちゃんが可愛いから視線が集まってたんだと思うよ?」
すると彼女は一瞬言葉に詰まったが、次の瞬間顔を真っ赤にして固まってしまった。
「真琴ちゃん大丈夫?」
流石に周りの視線がある中、固まってしまったまま放っておく訳にもいかないので一応声をかけてみる。
「ふぇ…? だ、大丈夫です。 ではまた放課後会いましょう。さよならです」
早口で言い終わると、彼女は足早に一年生の教室のある校舎にに入っていった。
もしかして変な事でも言ってしまったのだろうか?
女性の気持ちとは良く分からないな。いや分からないのが普通か。
それ以上考えてもどうせ分からないと判断して、俺も教室に向かう事にした。
――――――――――
「お、やっと来たか有名人」
教室に入るなり有名人ってなんだ有名人って特に俺は何もしてな……いはずだ。
「とりあえず席に着かせてくれ、話はそれからだ」
「はいはい、相変わらず硬いやつだな」
軽い感じで話しかけてくるのは俺の幼馴染み、井上蓮だ。
俺とは住む世界が違うのではないかと思うくらいイケメンで高身長、さらに学力も高く、運動神経も申し分ない、まさに理想を詰め込んだ完璧超人の様な男だった。
だが小さな頃から知っている仲である為、今に至るまでに血の滲むような努力をしてきたのを俺は知っていた。普段だったらイケメンは滅ぶべきなんて思っている俺だが、蓮だけは良いかなと思ってしまうくらいには良いやつではある。
「それでどんな用件だ?」
「いやいや、とぼけるなよ? 一年生の美野原ちゃんと一緒に登校してただろ? しかも手を繋いで!!」
まぁわかってはいたがこの話題だよな。胃に穴が開きそうだからやめてくれ。
「まぁ確かにそうだけど」
「いやーついに直人にも出来ちゃったか、俺は親友として嬉しいよ。 しかもお相手が一年の氷姫とは、びっくりだよ」
手をパチパチと鳴らし本当に嬉しそうにしてくれるるが勘違いなんだけど……おい待て最後なんって言った?
「はぁ?氷姫?」
聞き覚えがある呼び名を聞いてつい聞き返してしまった。聞き返さなければ話は終わっていたかもしれないのに……
「えっ?知らないのか、彼女が氷姫って呼ばれてるの」
蓮は知っていて当たり前の様な反応をしたが人とあまり関わらない陰キャの俺が知っているわけないだろう。
「そうなのか?」
氷姫とは今年の一年にとても可愛いという子がいると噂になった時に言われていた名前だった。
ここ数ヶ月で数十を超える男がその子に告白したが、全て断られ、冷めた目で見つめられた男達は心に深い傷を負ったというその過程で氷姫と呼ばれる様になったという……話を噂程度で聞いていた。
正直全く興味がなかったので本当に知らなかったのだ。
「氷姫すら知らないとか流石だな、とりあえず結局どんな関係なの?」
急に蓮は真面目な顔をして俺を見つめてきた。
嘘を言っても仕方がないと思い正直に伝える事にする。
「妹だ」
「はぁ?」
時間が止まった。いや実際には止まってないが蓮が固まって全く動かなくなった。
とりあえず開いた口を閉じろ、せっかくのイケメンが台無しだ。
数十秒経ってやっと蓮の時間が戻り始める。
「直人、冗談じゃないのか?」
真剣に問い詰める幼馴染みに嘘をつくわけもなく。
「本当だ。おじさんが再婚したんだ。俺も知ったのは昨日だったけどな」
「なるほどな、お前が言うなら信じよう。ただな直人……いくら妹が可愛すぎるからって手を繋いで登校するなよ!! このシスコン!!」
いや俺が頼んだ訳ではないし、シスコンでもないんだけど……仕方ない経緯を説明するか。
しかしその時、学校のチャイムが鳴り響き、担任が教室に入ってきた。
「仕方ないな。詳しいことは後から話すからとりあえず席に着け、あと俺はシスコンではないからな」
とりあえず大事なとこだけ訂正しておいた。
「はいはい、そういう事にしとくよ。じゃあなシスコン君」
全然理解してないなあの男…とりあえず誤解は解けたから問題ないだろう。とりあえず学校は適当に流して真琴ちゃんを迎えに行こう。彼女から話を聞けば蓮も納得するはず……だ。
「良しホームルームを始める、今日の日直は島崎……」
先生の声を子守唄の代わりにして、俺はしばらくの間眠りについた。