一話
藤本真琴。
俺の親代わりであるおじさんが再婚したことにより出来た妹である。
『兄妹』の欲しかった俺にとってはとても喜ばしい事なのだが、彼女がそうであるとは限らない為、嫌われる事なく良い関係を築いていきたい。と俺は思っていたんだが……
「真琴ちゃん、ちょっと距離が近くないかな……」
「そ、そうですかね? 兄妹なら普通の距離だと思います」
そう言って彼女は俺の手を握りしめて、身体を寄せてくる。
顔を紅く染め照れる顔は正直かなり可愛い、俺が同級生なら間違いなく惚れる。しかし周りからの視線が痛過ぎて、そんな考えはすぐ消えていく。特に目立った特徴が無い俺と控えめに言っても美少女の妹が手を繋ぎ学校に通っていたら流石に目立ってしまう。
何故こんな事になってしまったんだ……
――――――――――
その日の朝
俺の朝は遅い。とにかく遅い。
8時20分登校の学校に通っているが、普段の起床時間は8時だ。
何故か? 学校が徒歩10分の距離にあるからだ。すぐに学校に着くのに何故早く起きなければいけない? 遅刻しなければ問題ないだろう。そう思って二度寝しようとベッドに潜り込もうとしていた。
すると部屋に小さなノック音が響き、可愛らしい声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん、おはようございます。7時になったので起こしに来ました」
声が聞こえた刹那、俺はベッドに潜り込むことも忘れて、部屋の扉を勢いよく開け放ち自分にできる最大限の笑顔を浮かべる。
「おはよう真琴ちゃん」
兄としての威厳を保ちつつ、笑顔を忘れない。 昨日調べていて正解だったな。 完璧だったなと内心思っていたんだが真琴ちゃんの反応が悪いな……何かミスをしてしまったか。
「お、おはようございます」
挨拶が返ってきたと思うと、申し訳なさそうに手鏡を差し出された。
朝から手鏡で自分をチェックするなんて、やっぱり可愛い子は違うんだな。でもなんで手鏡を俺に渡すの? もしかして俺の見た目がおかしいのか?
手鏡に映った自分はそれはもう酷かった。 目の下のクマも中々に酷い、しかし髪の毛がその比では無い。髪がツンツンになり、例えるならイガグリの様になっていたのだ。こうして俺の兄としての威厳は一日にして地に落ちていった。
急遽寝癖を直した後、リビングに向かうと新しい家族を含めての朝食が始まっている。
「おはようおじさん、燈さん」
「おはよう直人、今日は珍しく早いじゃないか」
「おはよう直人君、朝ごはん出来てるから食べてね」
朝からの失態を真琴ちゃんは黙っていてくれたのか、二人の反応は何気ないものだった。感謝しつつ椅子に座り、用意されていたトーストを頬張っていく。
「直人君、少しお願いがあるのだけど大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ?」
「あら、ありがとう。じゃあお願いなんだけど実は真琴と一緒に学校に通ってほしいの」
「真琴ちゃんが良ければ構いませんけど」
新しい母に何をお願いされるのかと思ったが、真琴ちゃんは俺の通っている学校の一年生らしいので登校についていって欲しいという内容だったので直ぐに承諾する事にした。
真琴ちゃんも少し迷った後、コクリと頷いてくれたので一緒に学校に通う事になり、多少は仲良く出来るかと期待していのだが、家を出た直後に真琴ちゃんから「手を繋いで欲しい」と言われ少し悩んだ末に、結局手を繋いで登校する事にしたのだが。
後に俺はこの選択を後悔する事になる。
何故なら、この時の俺は彼女の気持ちを勘違いしてしまっていたのだから……