第七話
それから日曜日を迎えるまで、俺は何度か水無瀬と帰ることになった。
様々な話を振って、様々な情報を得たわけだ。その途中彼女が自ら発した言葉は唯一つであった。
「水無瀬でいいよ。」
「お、おう。」
水無瀬でいいのか。そうか。
確かに水無瀬が登場したときも『冴島?』と言っていたし、敬称略が彼女のスタイルなのかもしれない。
彼女の行動を見ていて感心した点をあげるとすれば、目線だろう。
俺が話しているとき(あるいはそれ以外もかもしれない)彼女は、こちらを向くか前方を見据えるかしかないのだ。俺みたいにキョロキョロと周囲を見渡したり、目をそらすことはない。
これはいいようにもとれるし、悪いようにもとれるだろうが、俺は芯のぶれない彼女を敬ってすらいた。そういう人間を見るとなんとなく清々しい気持ちになれるのだ。
ちなみに、である。余談であるが、近藤と交わした週末の予定についての会話もここに記しておこう。
「この前言ってた一年一組の女子って誰なんだ?」
朝のホームルーム終わりのことである。あいつは振り向き、話しかけてきた。朝からお前との会話は重い。朝ごはんうな重並に重い。
「幼馴染と水無瀬っていう女の子だ。」
「なんやとお前!」
俺がわざわざ声を潜めたにも関わらず近藤は机を叩いて乗り出した。
「幼馴染ってあのお前にはどうしようもなく似合わない美少女か?」
俺の前でよくそれを言えるな。自虐と人に言われるのは違うんだぞ。あとでこいつがちょっとした不幸にあいますように。
「そうだ。」
はぁ、とため息をつき周りの視線を気にしながらロッカーに向かうため立ち上がる。
「まさかだけど、お前いい感じなのか?」
「別にそんなんねえよ。」
近藤も、立ち上がり俺の横をついてきた。
お前の図体のデカさで俺が身長低いみたいになるからやめてもらいたい。あと、机の引き出しに全教科のノートと教本入れてるお前はロッカーに用ねえだろうが。
そのように伝えると彼は、最後に言いたいことがある、と俺を立ち止まらせた。
「ばっこり決めてこい。」
親指を立てている近藤は中指を立ててやりたいほどうざかったが、彼にも悪気はないので、気持ちだけ受け取っておくと言ってロッカーに向かった。
何かを知った気になった彼は何かを勘違いしているようだ、と書きたいところだが、そうでもないかもしれない。告白の返事がまだである。
何にせよ、今週末には彼女への答えを決めて伝えなければならないだろう。