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水無瀬さんの告白  作者: 佐渡
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第五話

 実はそれからわかったことがある。水無瀬さんは、毎朝同じ電車に乗り、毎放課後同じ電車で帰っていた。


 規則正しいと言うか、それ以外の電車に乗ったら死にでもするのかもしれない。そんな口調をされたので、俺はそう答えるしかできない。


 このようなことを聞く機会があったのは、放課後同じ電車に乗り合わせたからである。

 

 最寄り駅までは近藤と話して帰るのだが、そこからは反対方面である。その日もいつもと変わらず「じゃーな」と声を掛け合い、ホームに上がると見たことのある影があった。


 はてさて声をかけるべきだろうか。


 そう考えを深める必要はなかった。


 俺の気配に気づいた彼女は、固めたばかりの話しかけようという決意に二秒ほど遅れて振り返ったのだ。決意から二秒ほどの迷いに陥っていたのは、俺のよくない優柔不断な性格が出てしまったのだろう。


 「こんにちは。」

 声をかけるのは俺のほうが早かった。


 「こんにちは。」

 彼女は、一切表情を変えずに相変わらず静かな声で話した。


 「みなせゆうきさん、だよね?」

 早速会話の役にたった。あの幼馴染には感謝せねばならない。


 「そう。」


 「いつもこの電車?」


 「うん。」

 もしバラエティ番組だったら中堅芸人にどつかれていそうな微かな頷きを返してくれた。


 「へー。そう言えば、名前の漢字ってどう書くの?」

 同音の名前を持つものとして気になるところである。


 彼女は待って、と必要最低限の口の動きで話したあと、スカートのポケットから携帯を取り出した。

 携帯は黒いスマートフォンがクリアケースに入ったものだったとも補足しておこう。

 少しかちゃかちゃといじり、画面をこちらに見せてきた。


 メモ帳

  水無瀬祐希

 

 そう書かれていた。


 「かっこいい名前だね。」

 言ったあとで女の子にかっこいいと言うのは失礼に値するのではないか、と思った。というか、同音の名前のやつが言うべきじゃないだろう。まるで自画自賛をしているみたいだだ。


 しかし彼女は、「ありがとう」と言って少々嬉しそうな顔をしていた、ような気がするので結果オーライだ。


 「そうだ、携帯の連絡先を交換しない?」

 それを聞いた彼女は一度携帯を引っ込め、少し操作した後にもう一度示してきた。

 そこには先ほどと同じように電話番号が書かれていた。残念ながら近藤のは晒しても、彼女の連絡先を載せるつもりはないのでご了承願いたい。


 「ありがとう。」

 俺が礼を言って、登録すると彼女はこちらこそ、と軽い会釈をした。


 そこで駅に電車の放送が流れたので、俺は彼女の隣に並んだ。


 もしかしたら、今日あの返事を伝える流れなのではないか、と会話が止まってから気づいた。


 隣を見ると、彼女は話すことなどない、というような佇まいで前を見据えて立っている。


 やがて、電車が到着し、二人で乗り込んだ。


 この時間の電車はほとんど客がおらず、ガラガラであった。


 彼女がずんずんと進んでしまうのだから、俺はそれについていくしかない。結局、がら空きの車内で席の端っこに二人で隣同士座ることとなった


 「水無瀬さんって休日は何してるの?」


 以前と異なり、彼女は前を見据えたまま答えた。流石にこの距離でこちらを見つめられたら、俺もどうにかなってしまうだろう。だからむしろ前を見ていてくれて助かった。

 「読書か勉強。」

 彼女の変わらずしめやかな声。


 「そっか。俺なんてゲームか遊びに行くしかしてないからすごい尊敬する。」

 ほとんどの休日が前者に当たってしまうのは秘密である。


 よくある話だろう?

 休日なにしてる?って聞かれて『勉強とか遊びに行くとか』って答えてみたけど、実は家でゲームしかしてないという無謀な取り繕いが。

 そこ!無駄な抵抗はやめて、『音ゲーとかアイドルプロデュースしてるですよ親戚氏wwwwww』って答えなさい!


 「そう。」

 彼女は電車の揺れに身を任せていたものだから、彼女の肩が俺の体に当たるたびに、余計な緊張が積み重なってしまった。


 いろいろ聞きたい話はあった。でもどれも、触れて良い話題なのか?ってのが不透明だったんだ。

 例えば、一人称どうした?とか、なんで告白?とか。


 ミステリアスな彼女には質問の山が積もっていた。

 だからできるだけ、当たり障りのない質問からしていこうと心がけるようにした。


 「中学はどこ通ってたの?」

 「第三中学校。」


 地元の中学だが、最寄り駅から自宅のちょうど反対側に住んでいることがわかった。小学校の頃も学区が違かったのだろう。


 「あそこか。うちの学校、高校の偏差値だけは高いから受かるなんてすごいね。」

 素直な祝福に彼女はありがとう、と答えた。


 向かいの車窓からは大きくパチンコと書かれた看板が光っているのが見えた。それはすぐに過ぎ去っていき、次にイオンが見えた。いくつもの店が入ってるのが外装でわかる。東急ハンズやシネマ、ラウンドワンの看板までもある。


 言わなくてはいけないのはわかっている。だが、相手は女子。女子を遊びに誘うなんて勇気がなきゃできないことだ。ゆうきはここに二人いる、なんてジョークをかますやつがいるなら窓から捨ててやるから今すぐ出てこい。


 だが、会話してきたなかで不思議と俺はもっと彼女を知りたいとも思っていた。


 可愛いから?ショートだから?理由はわからない。マイペースな部分も随分と萌ポイントと俺は思うけどな。


 電車はいくつかの駅に止まっては、発車した。その間どうでもいい話ばかりしていたので割愛するとして。

 


 最寄り駅一個手前の駅を発車したとき、意を決して俺は彼女にこう言ってみた。


 「ボーリング行かない?」


 彼女は、驚いた素振りも特に見せなかったが、こちらを向いた。


 彼女の目は落ち着いていたが、少し幼くも見え、俺の心臓はバクバクしていた。


 「今から?」


 「いや週末に周りも誘っていかないかなーって思って。」


 俺がそう言うと、彼女はつぶやいた。


 「行きたい。」


 彼女が自分の感情に基づいて発した今日初めての言葉、あるいは出会って初めての言葉だった。


 なぜボーリングにしたかって?


 見たい映画がなかったことと魚共に興味がなかったことが理由にあがる。



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