第四話
あいつとは誰なのか。ここだけは、以前からラノベっぽいと認めて良い関係性である。
そう、幼馴染である。それも常盤高校では超有名人。生徒会に属してる上に成績優秀。さらに誰にでも優しいと来たのだから、俺はどうしようもなく彼女を人間として尊敬している。
彼女の名は、三枝柚葉と言う。名前まで可愛らしいじゃないか!
スマホで時間を尋ねると、いつでも大丈夫だよ、と返信が来たので今日の放課後に学校近くのファミレスで待ち合わせをすることにした。
授業を終えてすぐに向かったのだが、ファミレスに入ると彼女が既に来ていることがわかった。
彼女はにこにこ顔でこちらに手を振っていたのだ。なぜ同じような環境で育ってきた俺がこうも無愛想であるんだろうか、俺の遺伝子に問題でもあるんじゃないだろうか。そう疑えたくなるほどに、彼女は季節に似合わぬひまわりのような笑顔を咲かせていた。
俺は手を挙げて応じる。席につくと、こう言った。
「まずは選抜おめでとうな。」
彼女は、一年一組。選抜クラスである。高校入学生では高校入試、内部進学生では定期考査でそれぞれ優秀な成績を収めた生徒だけが入れる。
まあ早い話、俺や近藤にとっては宝くじを当てるように難しいものだということ。
彼女は少し照れ笑いを浮かべて礼を述べた。
「ありがと!」
「生徒会の方の活動と学業をこなすって本当にすごいと思うぞ。流石自慢の幼馴染だ。」
彼女はそれを聞くと、手をブンブンと左右に振って否定した。
「そんなことない。それに私も優希のこと同じように思ってるからお互い様だよ。」
下の名前で、同じように思ってるなんて嬉しいことを言ってくれるものだ。
昔は俺も彼女を名前で呼んでいたが、いつしか彼女を指し示すこと自体減ってしまった。
「それはいいことだな。」
俺は彼女の言葉を丁寧に払い除けた。俺と彼女は幼馴染である。
何度も『こいつ俺のことスキでしょ?』という思考に陥ったがその度に抜け出してきた。俺に怖いものはない。
「で、実は相談がある。」
「うん、言ってたね。私にできることならいくらでものるよ。」
彼女はそう言って運ばれてきたお冷を、ありがとうございますと受け取り一口飲んだ。
どこから話そうかと、迷い彼女から机の上へと視線をスライドさせる。そこでメニューの存在に気づき、俺は尋ねた。
「その前に、注文した?」
「あ、忘れてた。」
好きなものをそれぞれ注文する。
店員さんが離れていくのを見届けて、切り出した。
「続きだけど、俺は実は告白をされたんだ。」
俺がそう言うと、彼女はえっと驚いた顔をした後、ニコっと笑い、こう言った。
「おめでとー!まさか今日はその自慢?」
そんなのをお前にしたら、俺は常磐の男子生徒に集団リンチの後撲殺されてしまう。
「そんなんじゃない。受け入れるか、受け入れないか迷ってるんだ。」
俺はあったことをできるだけ全て話した。
彼女は、コクリコクリと頷いて聞いてくれた。
「……ってわけだ。」
俺は全てを話し終えると、一口お冷を飲んで息をつく。窓に目を向けると、多くの常磐学園生が駅へと向かっているのが見える。
「なるほどね。」
彼女がそう言うと同時に、料理が到着したので、続きは食べてから、となった。
彼女は食べ終えると、こう尋ねてきた。
「その子に名前とか聞いた?」
……そう言えば、聞いていない。
「聞いてない。」
「多分だけど、私同じクラスかもしれない。」
彼女はそう言うと、鞄を開けて薄いクリアファイルを取り出した。
「この子でしょ?」
彼女が示すのは一年一組のクラス写真。指先には確かに前見た子が無表情で写っていた。
「確かにこの子だ。あの子選抜だったのか。」
今思い出せば、彼女はどこか知性を漂わせていた。
「名前はみなせゆうきだったと思う。」
首をとんとんと人差し指で叩きながら彼女は話す。
「もうクラスの子の名前覚えてるのか。」
俺なんて目の前の茶髪と担任の名前しか覚えてないぜ。
「いや、一人称が僕だったり、すごい中性的で整った顔だったからすぐに覚えたよ。それに優希の好きなショートだしね。」
どうしてそれを知っているんだ……。
動揺を悟られないようにして、秘技話題転換を発動する。異性の幼馴染にそういうのを指摘されるのは結構恥ずかしいのだ。
「そんなことはどーでもいいよ。ゆうきって俺と同じ名前なんだな。」
俺が頬杖をついて、言うと、
「彼女の場合は漢字が違ってた気がするなぁ。」
天井を仰いで彼女は答えた。
そんなところまで覚えてるのか、と感心してしまったが重要なのはそこじゃない。
「で、何かアドバイスが欲しい。客観的な目線で。」
彼女は、先程までと一転して真面目な顔になった。
「関係は持ったほうがいいと思う。」
「それはまたどうして?」
「小学校の頃から、一度も優希が好きっていう話を聞いたことがないから心配。」
……夢ならばどれほどよかったでしょう。あぁ夢であってくれよ。
心のどこかでパリーンと何かが割れた音がした。そうか。そうなのか。小学生からってのと女子の意見ってのがすごいリアルで怖い。
「きっと、優希はどこかで真面目で誠実だから、こんな中途半端で付き合っていいのか、ってなると思う。だから、関係は持ったほうがいいってこと。というか、まずは相手のこと知ろうとしないとだめじゃん!」
語尾が強まって叱られるような形になった。真面目で誠実?デヘヘ。
「確かに……。名前聞かなかったのは不覚でした。」
クラスでさえも聞かなかった。でもあのシチュエーションは本当に緊張してたっていうかアゲポヨすぎて、頭が回らなかったのだ。言い訳がましいから黙っておくけど。
「わかったならよろしい。」
彼女は頬を膨らませてお怒りのようだ。
「で、これからどうするの?」
生徒を諭す先生のような口調で聞いてきた。
「遊びにでも誘おうかと。」
俺は項垂れてて落ち込んだ様子を見せながら答える。
「それはいいと思うよ!」
彼女は先程までと打って変わって微笑み、元気な声を出す。
アメとムチの使い分けがしっかりできてる三枝さん素敵!
「できれば、それについてもアドバイスをもらえませんか?」
ほら、俺なんかが女子誘うってなったらアニメイトかゲーマーズになっちゃいますから……デュフフ。秋葉原を大喜びするツンデレ妹がいるならまだしも、俺は残念ながら姉貴しか持たないからな。
うーんと少し考え込み、彼女はこう答えを告げた。
「映画とかベタだけどどうかな。あるいはボーリングとか。水族館もいいと思うし……ここらへんは私が誘われたら嬉しいところだけど。」
最後の方はもじもじする彼女を見て、あー可愛らしいなぁという感想を素直に抱いた。
なるほど。とても参考になります。
みなせさんはあまり感情を表に出さないタイプの人っぽいから喜んでくれるかはわからない。だが、誘ってみる価値はある。
もしかしたら告白してくれた理由もわかるかもしれないし。
ただし、俺は一つだけ危惧していることがあった。
「あのー二人きりじゃないとだめですか?」
会話が続かない気がしてならない。そのための映画やボーリングだとは思うけど。
「確かにそこは考えどこかもね。他の人を誘うのもいいかもしれない。」
うーんと腕を組み彼女は悩んでいた。
もはや答えは一つである。
「お願いです。サポートしていただけませんか?」
「構わんよ。」
えっへんと胸を張る彼女に俺が頭を下げるのは必然的展開であった。