第十三話
さて、どうしたものだろう。
水無瀬と三枝は反対方向の帰り道である。
普段三枝と食事したあとは基本家まで送っていくのだが、今日はどうすべきなんだろう。
それに水無瀬とは話さなくてはならないこともある。
そう考え事をしながら駅の出口を抜けると、三枝が俺に耳打ちした。
「ごめん、私一人で帰る。」
三枝はひどく疲弊した様子だった。
俺に気を遣ったのかもしれない。しかし、ここで俺が無理に同行したところで相手に無理させるだけというのも見て取れた。
「わかった。また学校でな。」
俺がそう言うと、水無瀬もそれに続き声をかけた。
「さようなら。」
三枝は「二人共、また。」と言い、帰ってしまった。
「帰るか。」
俺が言うと、水無瀬は微々たる首肯を見せて、歩き出した。
最初の赤信号で立ち止まったとき、水無瀬が沈黙を破った。
「家は?」
こちらを向いて、尋ねる彼女に俺は答えた。
「反対方面。三枝もあんな様子だし送ってくよ。」
俺が夜空を仰いで嘆息をつくと、彼女はこちらに視線を固定したまま言った。
「大丈夫。」
「いや、送ってくってのもあるけど、話さなきゃいけないことがあるから。」
俺が言うと、彼女は「そう」と言い、歩みを再開する。青信号に気づき、俺も急いで追いつく。
「水無瀬、どうして俺なんかに告白してくれたの?」
これだけでは以前の質問と変わらないことに気づき、慌てて付け足す。
「俺のこと好きじゃないのに、告白した理由を教えてほしい。」
何度か避けてきたこの質問を俺はどうしても聞きたかった。
彼女は、俺なんかには似合わない人間だ。
人に忖度せず、媚びない。そういう真っ直ぐでかっこいい人間。
「恋を知りたいから。」
彼女は真っ直ぐと前を見据えたまま答えた。
「恋をしたことがないから、したいってこと?」
「そう。」
彼女は交差点を渡り終えると、右に曲がった。暗い住宅街が広がっている。等間隔に立つ電灯と家々の明かりが道を照らす。
「恋は自然にするものだから、慌ててすることもないんじゃないかな。」
こういうことを伝えたいんじゃないだろうが、俺。もどかしさを感じる。
しかし彼女はそれに答えた。
「だからこそ早くしたい。」
そう言い終えると、彼女は突然立ち止まった。家についたのかと横を見たが、そこは空き地であった。
「どうしたの?」
俺が声をかけると、彼女はこちらを見上げた。
「誘ってくれて、ありがとう。」
俺の目を見てそう言った彼女は、頬をほんのり赤く染めていた。いや、寒かっただけかもしれない。
そう礼を言われた俺も、ビシッと決めるべきだ。
「俺からも一ついいか?」
俺がそう言うと、彼女はこちらを見たまま浅く頷いた。
「付き合うのはやっぱ恋したときに取っておくべきだ。」
俺はそこで一つ区切り、こう続けた。
「だから友達になってほしい。」
手を差し出した。
彼女は少し奇妙な表情を浮かべた後、普段の顔に戻り頷いた。その顔つきの変化は何か納得したことを見せているようだった。
そして「よろしく。」と一言述べた。
「ああ。」
しかし。パンッという音で俺の手は弾かれた。
「え?」
俺は状況を理解できずに言葉を漏らした。
「ハイタッチ。」
…………。
握手を説明し、握った彼女の手は周りの気温に比べて少々温かった。
ただ、である。あれが彼女の冗談だったのか、本気であったのか、に関しては今も真相は闇の中だ。
一旦終了です。ありがとうございました。




