第十二話
「じゃあみんなありがとうな。」
そう云う近藤を見送って俺たちは、帰りの方面のホームへ上がった。
あのバカがいなくなるのはそれなりの痛手だった。
会話がなくなってしまったのだ。水無瀬はいつもどおり前を見つめていて、三枝は落ち込んで肩を落としている。
「生徒会、大変そうだな。」
俺が声をかけると、彼女はこう答えた。
「みんないい人だよ。ただ、今日のはタイミングが少し悪かった。」
「ああ。わかってるさ。」
彼女は誰かを悪いと指摘することがない。
あまりに優しいから自分か無生物を悪役として仕立てる。
もしかしたら、他人を傷つけないための論理が、いつしか理由を失って一人歩きしているのかもしれない。
容疑者は自分か無生物しかいない、そういう固定観念が彼女のなかにはあるのだろう。
そう俺が思索にふけているときだった。彼女は口を開いた。
「違う。」
水無瀬の声。いつもの静寂を強める声ではない。何かを断ち切るような声。
彼女は、向かいのホームの何かを見澄ましていた。
「タイミングが悪いんじゃなかった。」
彼女は、落ち着いた声で指摘する。
「悪いという言葉自体それぞれで解釈は異なるけれど、僕は彼の近藤への態度が全ての引き金だと思う。」
彼女は淡々と述べた。塩っけひとつない、淡々ぶりだったさ。
もちろんあの場で、三枝以外の皆がそう考えただろう。
しかし、三枝は人の悪口を好まない。だから指摘しなかった。
俺も三枝もしばらく黙っていた。ホームに電車のアナウンスが流れ始めてから、三枝が口を開いた。
「ありがとう、水無瀬さん。」
水無瀬はそれを聞いて、微かに首を左右に振った。
電車は帰宅時間のため少し混んでいた。水無瀬を真ん中にして三人で立つことになった。
誰も会話を切り出さなかった。窓の外の風景だけが変わっていき、ここの三人の時間だけが止まっているようだった。
真ん中の水無瀬が最も背が低かった。しかし彼女は手すりをしっかりと持つことで、電車が揺れても左右の二人に当たろうとはしなかった。倒れ込んできたってよかったんだけどな。
時の流れを感じないまでにボーッとしていたが、家に近づくにつれて時間も進んでいたらしい。改札を抜けるころには空に綺麗な満月が浮かんでいた。四月も後半である。




