第十話
ボーリングを終えた俺達は、この後どうするかという話になった。
時計は十七時三十分を回っている。夕食をとるには少し早いかもしれないが、他にやることというものもない。
「夕食とか?俺は大丈夫だけど。」
俺がそう提案すると、
「俺も行ける。」
「僕も大丈夫。」
近藤と水無瀬の二人が賛同した。
残ったのは、三枝だった。
「私も大丈夫だと思う。」
大丈夫だと思う、とはまた揺らいだ答えである。
何かいいところはないだろうか、と三枝が探してくれたのだが、結局皆でファミレスに入ることにした。ファミレスの味を批判できるほど、肥えた舌を持つ人間はここにいないだろうしな。
座り方で少し困惑した。しかし三枝が先導することで、俺の向かいに水無瀬、その隣に三枝、その向かいに近藤という形で落ち着く。
窓際になった俺が窓に目を向けると、夕日が美しかった。
向かいに座る水無瀬も同じ感情を抱いたのか、彼女は静かに外を見つめていた。
「綺麗だね!」
そんな俺達に気づいた三枝が言った。
「ほんまやなあぁ。」
近藤が続いた。
それぞれが注文を済ませた。俺と三枝はいつも頼んでいるメニュー。水無瀬は、ドリア。近藤は割愛する。
太陽は、先程の感想で役目を終えたと安心したのか、注文を終える頃にはすっかり沈んでしまっていた。
「にしても、近藤くん本当に上手だったね。」
三枝が切り出すと、近藤もそれに応じた。
「まあ、昔からやってたからな。あんなん練習すれば誰でもできる。」
お前の辞書にも謙遜って言葉載っていたんだな。初めて見たよ、お前が心にもない言葉を口に出してるの。
「そんなことない。私も友達とよく行くけど、なかなか上達しないんだもの。」
やれやれと言ったふうに首を振る三枝に近藤はこう言い放った。
「回数が足りないんじゃないか?」
案外先程の言葉は心に秘めていたことなのかもしれない。彼の口調からして、真剣な彼女への分析が伺える。
「えー結構行ってるつもりだよ。」
三枝は少し上を向いて首をとんとんと叩く。。
「まあ回数を重ねれば嫌でも上手くなるから。それより二人共勉強できるって方がすごいわ。」
彼の口調は本当に敬いを含んでいた。
確かに、彼の成績はかなり酷いものである。どれくらいかと言うと、水星と海王星の距離くらい酷い。
「勉強こそやればできるものだよ。」
三枝がそう言った。
近藤が水無瀬の方を向き答えを求めると、
「同じく。」とだけ彼女は答えた。
意外にも近藤は女子と会話ができるらしい。不良のような見た目もあって、話しかけてくる女子は皆無に等しいが。
そんな具合に、俺の存在感が空気となり、料理がやってきた。
食べている最中に口を開く人はおらず、皆が黙って食べていた。
食べ終えた後の談笑の時間。事件が起きた。




