第一話
入学式を終えて思うことは、俺達には必要ないということだ。その理由を説明するには学校について少々語る必要がある。
俺が通う学校は、常盤学園という中高一貫校である。中学と高校がつながっていて、中学入試を突破した生徒は高校までエスカレーター式に進学することができる。常磐学園には高校からも高校入学生という形で入ることが可能だ。
俺は紛うことなき、高校進学生との学力の差が顕著だと話題の内部進学生である。原因は中学時代の勉強サボタージュにあるのだから教師に文句は言えない。
入学式、入学ガイダンスがあっという間に過ぎ、いよいよ授業開始日を迎えた日のこと。
俺はある一通の手紙を見つけた。
久しぶりに授業を受けて、俺は首をガタガタ言わせていた。
下駄箱の最下段から靴を取り出すのでさえ苦痛であったので、首は上を向かせて、手だけで外靴を手繰り寄せた。靴の上にのっている封筒に気づいたのは靴を取り出した後だった。
それは、淡い青色の封筒。封筒に差出人の名前は書いておらず、ただボールペンで書かれた『冴島へ』という言葉だけが、妙に目立っていた。
不覚にもラブレター?と思ったのだが、今の時代こんな古い手段が使われるだろうか。
中を開けてみると、丁寧に二つ折りにされた一通の手紙が入っている。
『十五時三〇分に常磐公園で来てください。』
そのように書かれていた。
どうしたものか。部活にはなんて連絡しようか。案ずることはなかった。帰宅部であるから、親に遅くなるとだけ連絡すればよい。
常盤公園は、常磐学園のすぐ裏に位置する小さな公園で、通称裏公とされる。遊具は三つほどしかないし、辺り一帯に雑草が生い茂っている。小学生の子供達はいいものの、常磐学園のカップルどもが蔓延っているのであまり足を踏み入れたくはない。
よく一緒に帰宅する近藤には用事があるとだけ伝えて、放課後すぐに裏公へと向かった。
俺が正門からでてそこに向かう途中、ラブレターもどきについてのいくつかの意見が頭を巡っていた。
一、いたずら説。
文面からして可能性は低いだろう。その理由は二つある。まず、字が明朝体のように綺麗であること。もしこんないたずらするくらいバカな男子ならもっと丸めた字を書いて女子を演出するだろう。二つ目は、常盤公園という文中の言葉だ。周りで裏公を常盤公園と言っている人は見たことがない。
二、告白説。
消去法によると、告白という線も出てくる。そんな痛いことを言うのは癪であるから、ラノベや漫画という理由がほしい。誰かくれ。
三、生き別れた兄弟説
もしも純文学作品であれば、こんな可能性もあるんじゃないかと思う。確かによく考えてみれば、ないこともない、わけがないだろうバカ。
四、もうひとりの俺説
なんだかものすごいストーリーが始まるのは確実であるけど、現実的にありえない話なので、提唱はなかったことにしておく。
そんなことを妄想して、裏公へとたどりついた。四月の十五時と言うと、まだ暗くなっていないもののとにかく寒い。ブレザーを鞄にしまったのは誤りだったようだ。俺は鞄からそれを取り出して羽織る。
にしても四月にもなって息が白いというのはどういうことなんだろうか。近年問題になっている異常気象ってやつか?桜だって早く綺麗な花を咲かせてちやほやされたいだろうに。
まだ待ち合わせ時刻になっていない。否、文面は『待ってます』ではなく『来てください』となっていたから、俺の到着指定時刻というのが正しいのかもしれない。
正直、すでに誰か待っているんじゃないかとも期待していたので、疑い深くなってしまった。これは真面目な手紙なんだろうか。誰かがどこかで、寒い中待っている俺を見て面白がっているのではないか?
二組のカップルがやってきたかと思えば、ベンチの方を奇妙な目で見たり、嘲笑ったりして出ていった。
ベンチでスマホゲームを初めて十五分。そろそろメンタルも限界である。
ゲームの一戦一戦が終わるたびに、ホーム画面に戻して時間を確認する。なかなか進まないデジタル数字に苛つきを覚え始める。
公園出口付近に一本の木がある。そこに先程から鳥が出入りしているのは、巣があるからだろうか。寒い中お互い大変だな、と声をかけたくなるが、何かを失いそうなのでやめておく。
今度は野良猫と思える猫が足元にすりよってきた。寒いよなぁ、と声をかけたくなるが、やっぱり何かを失いそうなのでやめておく。
猫は少し経つと、こんな寒いのにお前ってバカだな、とでも言いたげな顔を見せながら近くの茂みに消えていった。
猫が去ってから三戦ほどして、確認した三時二五分。
「こんにちは。」
彼女は、現れた。