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マザー  作者: スコルピオ
仮説と検証
3/8

外円定義

 ハイネの話を要約するとこうだ。

 この世界にはプレーヤーと呼ばれる特殊な能力を持った人間が存在する。

 逆にククルのようなこの世界で生まれた住人はNPCと呼ばれている。

 プレイヤーは現実世界と呼称される、西暦二千年台の住人が多く、彼らはバーチャルリアリティと呼ばれる技術を応用して脳のチャンネルを調整し、まるで夢を見ているような状態でこの世界を訪れていると。

 であるならば、僕にもハイネのような特殊な能力が備わっているのだろうか。

 答えはイエスだった。

「やはり、あなたはプレイヤーですね」

 僕は解錠の言葉で、専用のデバイスを呼び出すことができた

 デバイスは記録装置のようなもので、この世界で起きる現象の記録、カード化によるアイテムの保存、また自分自身の成長の度合いを確認できるようなのだが。

「いまいち納得が行かないんだけど、僕は何故記憶を失っているの」

「私も最初はそうでした。ですが、だんだんと記憶を取り戻していきますよ」

「ハイネは現実世界からやってきたんだよね。何しに来たの?」

 ハイネは静かに目を瞑った。

「この世界は有志の団体によって製作されたバーチャルリアリティのソフトでした。脳科学は私の時代ではまだ未熟でシナプスを解した人間の脳の記憶については未定義な状態です」

 何故だかわからないが僕はこの内容を把握できた

「ハイネはただ純粋にこのゲームを遊びに来た、と?」

「そういうことになりますね、サーバーエラーによって、私の記憶野に障害が残り、結果私は半身が不随になりました」

 半身不随、それよりももっと大きな問題点がある気がするが。

「ひょっとするけどさ、ハイネ。元の世界に戻れてない、よね」

「ええ、わたしは既に三年間、この世界で暮らしています」

 事は重大だ。僕が現実世界からやってきているのだとしたら、既に戻れない可能性がある。

「通常はプレイヤーはどうやったら現実世界に戻れるの」

「デバイス上からログアウトを行います。ですが、私の端末にはログアウトがグレーアウトされています」

 選択できないってことか。僕はどうだろうか。

「うん、グレーアウトされてるね。これ他のプレイヤー皆ってことかな。この村に他にプレイヤーっているのだろうか」

「この村のプレーヤーは私だけです」

 そうなのか、彼女がプレイヤーの定義を知っているのは単純に思い出しただけなのだろう。

 そもそも壮大な幻想話に巻き込まれたもんだ。

 だが、僕は彼女の話を理解できている、という前提がある。何故ならば僕はバーチャルリアリティやゲーム、脳科学やシナプスといった言葉を理解している。

 僕の出世は彼女より未来なのか過去なのか、同時期なのか。いずれにせよ、同じソフトウェアを利用していることは確かだから、僕らは近い時代に存在していた人間なのだろう。

「ところで、このゲームにおける売り文句って何だったの?」

「現実世界とは異なるファンタジーな世界で、圧倒的なプレゼンスを味わえる二次社会、従来はジャイロやヘッドマウントディスプレイであくまで現実世界でのプレイが原則でしたが、遂に脳内(ローカル)で完全同期型のVRMMORPGが遊べます、だったかな」

 思わずそれを聞いて僕は笑ってしまった。

「すごいね、まるで開発者かと思うほどのベネフィットの説明ありがとう」

 だが、もう一個気になるのはプレーヤーがこのゲームを遊ぶにあたってのメリットだ。

「ところで、プレーヤーって何が特別なのかな? セルフノードってさ、実際確認したけど、ただのステータス確認でしょ。それって別にNPCもパラメーターとしては定義されてるものだと思うし、僕らとNPCとの違いって何?」

 ハイネは面白そうに微笑を浮かべていた。

「概念遊びです」

 言葉の意味がわからず僕は思わず聞き返してしまったんだろうか

 気づいたときにはハイネが口を開いていた

「概念というのは、遊びの本質だけでなく、世界を司る分類、枠みたいものも含まれますね」

 ちょっと意味がわからないな。具体的に言って欲しいが。

「このゲームでは、ユーザーは初めに要素を組み合わせて、オリジナルの概念を扱える、というのが売りだったんですよ。具体的に私の概念知りたいですか。何だと思います?」

 ハイネの微笑は崩れない。

 どういうことだ、概念のイメージがまだいまいち掴めない。

 炎とか氷とか、土風雷のような五元素のようなものを指しているのか?

「そうですね、それも概念ではあります。実際そういう能力を概念化したプレーヤーもきっといると思いますよ」

 ハイネとの会話で少しずつ僕は違和感を覚え始めていた。

 僕今、喋ったか? ハイネの言葉で質問を投げ掛けた記憶が無い。

「だいぶ、答えに近づいてきてますよ」

 なるほど、ハイネの概念がようやく分かってきた。

「心を読めるのか」

 彼女が微笑みが悪戯に変わる。

 そんな馬鹿げた能力が実際に目の前で行使されている。

 疑問は次々と湧いてくるが、優先度の高い問題から処理して行こう。

 となると次に気になるのは当然、僕自身の概念だ。

「概念って確認できるの?」

「残念ながら、できません。概念はプレーヤーの貴重な情報なので、各自暗号化されて隠されています」

 なるほど、だからセルフノードからは確認できないのか。

 だが心を読むなんて、とてつもない能力が許されたゲームがあったとしたら、僕はどんな概念をパズリングしただろうか。

 悔しいな、これじゃ僕はこのゲームを楽しめないじゃないか。

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