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3 接敵と初戦

 ふたりで警戒しながら進んだおかげか、森の中では誰とも出会うことなく僕たちは森を突っ切る道路に辿り着いた。明らかに舗装された道路で、近くには二階建ての一軒家も見える。


 見た目は、なんというかRPGに出てくる古びた木造建築。山奥の村のちょっと豪華な家って感じだ。


「こんなところまでゲームとそっくりか。さて」


 木の陰に隠れながら、とりあえず周囲を伺う。見える範囲に敵の影はない。お互いに遠距離武器を持ってるなら、遮蔽物のない開けた場所に出る時が一番危険だ。敵に先制攻撃を仕掛けられたら、最悪そのまま一方的にやられてしまう。


 次に、問題の建物に目をやる。ドアは開いてないし、見える範囲で窓が開いていたり破られたりもしていない。開けっ放しなら先客がいるのは当然だけど、僕なら閉める。


「ゲーム的には、あの建物の中には有利になるアイテムがあるはずだ。でも、敵が潜んでるかもしれない」

「ここからじゃわからないね」


 柊さんも僕の後ろから身を乗り出してそう言うけど、当たってる! 両肩に何か重量感のあるものが! 初めて会った時から思ってたけど、ちょっと無防備すぎやしないだろうか。


 内心穏やかじゃないものの、僕は努めて冷静を装って考えた。結局のところ、あの建物を無視することはできない。クリアリングは必要だ。この先どこに向かうにせよ、後ろから撃たれるのは勘弁してほしい。


「よし、このまま木を盾にして一気に近付こう」

「わかった」


 僕たちは中腰で草陰に隠れながら建物に近付き、周囲をよく確認してから一気に道路を横切った。走ってる最中、建物から狙撃されやしないかとひやひやしたけど、幸いにして僕たちは無事に建物の壁にとりつくことができた。


「私が開けるよ。ほら、私なら撃たれても平気でしょ?」


 柊木さんがドアノブに手をかけながら言った。

 確かにそうなんだけど、だとしても驚くほど肝が据わってる。自分が撃たれることを前提に動ける人間なんてそうはいないと思う。


 でも、柊木さんがドアノブを回し、押しても引いてもドアはびくともしなかった。鍵がかかってるみたいだ。


「内側からカギがかけられるシステムなのかな? それだと有利すぎる気がするけど……」


 首を傾げながら僕がドアを押してみると、あっさりと開いた。


「『死亡』したプレイヤーじゃ開けられないんだ。ズルはできないね」

「そうみたいだ」


 現状、柊木さんはゲームに干渉できないということがわかった。本当に参加権を失っているんだ。


 それでも、柊木さんに触れることはできる。もしも僕がやられてしまったら、柊木さんはまともに抵抗することも、スキルで死ぬこともできない。心無いプレイヤーに出くわしたとして、建物に逃げ込んでやり過ごすこともできない。


 その光景を想像して、ゾッとした。それだけは何としても避けたい。


「大丈夫だよ」


 不意に、柊木さんが優しい声を出した。


「え?」

「長谷川くんに全部預けるって決めてるから。それに、信じてる。私ひとりだったらもう死んでたはずだから。だから私のことは気にしないで」


 見透かされてるみたいで、ちょっと恥ずかしくなった。


「そんなに緊張してた?」

「もう、この世の終わりみたいな顔してたよ」


 照れ隠しに冗談めかして言ってみたら、柊木さんもちょっと笑いながら応えてくれた。

 ふう、おかげでリラックスできた。


「行こう」

「うん」


 柊さんを背中にかばいながら、薄暗い建物の中を慎重に探索する。


 入った場所はリビングのように開けていて、右手側の奥に2階に続く階段があり、左手側は小さな部屋になっている。とりあえず左手側の小部屋に向かって指を構えながら、そっと中を覗き込んでみた。


 寝室みたいだ。ベッドがひとつと、サイドテーブルがひとつ。屈んでベッドの下も確認してみるけど、何もない。


「誰もいないみたいだけど、漁られた後かな」


 あまり期待せずにサイドテーブルの引き出しを開けたら、青い石が嵌まった指輪が入っていた。


「また色が違うね」

「レアリティかな? さっきの指輪はレアアイテムっぽかったし。だとしたら青はあんまり期待できないかもね」


 とにかく指輪の効果を確かめるため、僕は指輪を嵌めてみた。


『サブリング、射撃補正ポインターを獲得しました』


 んん? サブリングっていうのは、メインの拡張パーツみたいなものなのか。それにしても、ポインターってどうやるんだろう。


 試しに指を構えてみると、伸ばした指の先に小さな点が浮かび上がった。なるほど、レーザーポインターみたいなものか。咄嗟の狙いが付けやすくなって便利だね。


「指輪が残ってたってことは、まだ誰も来てなかったのかな」


 柊さんの表情が少しだけ明るくなる。やっぱり緊張してたのかもしれない。


「どうだろう。あんまり重要なアイテムじゃないから、油断させるために残しておいたのかも」


 まだ2階の探索が残ってる。


 古びた木の階段は踏みしめるたびにどうしても軋んだ音を立ててしまい、もしも上で待ち伏せされているなら僕が階段を上っていることがバレてしまうだろう。


 自分の呼吸の音すらうるさい気がする。全身の神経をとがらせながら、頭だけをそっと出して2階の様子を伺った。


 2階というよりは、大きな屋根裏といった感じだった。明かり取りの窓から差し込む光で1階よりも明るいくらいだけど、とにかく埃っぽい上にシーツをかけられた荷物がごちゃごちゃ置いてあって視界が悪い。


「隠れるには絶好か」


 誰もいないならそれに越したことはない。僕は警戒の度合いを上げてから2階に踏み込み、物陰をくまなく覗き込んで行った。


 やはり、誰もいない。


「ふう、もしかしたら、本当に誰も来なかったのかもね。だとしたらちょっと休めそうだ」

「本当? だったらちょっと座りたいかも」


 柊さんはそう言って、スカートの裾を手で押さえながら手頃な高さの荷物に腰を下ろした。


 僕も少しだけ緊張の糸を緩め、窓の外に視線を移そうとした時だった。


 ゲーマーの勘としか言いようのない、一種のアラームが僕の頭の中で鳴り響く。その正体はすぐに分かった。


 柊さんの後ろでじっとしていたシーツの塊が突然立ち上がり、中から人影が現れた。僕たちが気を抜くその瞬間を、気配を殺してじっと待っていたんだ。


「柊木さん!」


 そう叫ぶと同時に、半ば祈るような気持ちでアクティブスキル刹那の見切りを発動させる。


『アクティブスキル、刹那の見切り(フルアドレナリン)を発動します。カウントスタート。10……9……』


 機械音声が流れると同時に、すべての時間が制止した。カウントダウンから察するに、刹那の見切りは10秒間時間を止めるスキルだ。スローモーションより強力だけど、計算違いだったのは僕も動けないということ。


 とりあえず、能力の正体はわかった。こうして考えることはできるんだから、『一時停止して考える時間を稼ぐスキル』ということだ。


 とにかく、与えられた時間を有効活用するために僕は敵の情報を集めた。


 敵は若い女の人。ジーパンにTシャツというシンプルな服装だけど、たぶんそれは素材に自信があるからだろう。長い黒髪をうなじのところで括り、切れ長の目はしっかりと標的である柊木さんを捉えている。


 そして、まずいことに敵はその手に拳よりもひと回り大きい石を握り込んでいた。あんなもので無防備な背後から殴られたらまず間違いなく致命傷になる。クソっ! スキルなら柊木さんには影響がないのに!


『4……3……』


 敵は僕たちが2人組なのは気付いていたはずだ。でも、シーツを被っていたから僕の位置は大体しか把握できていないはず。だから、近くの柊木さんに対してスキルを使えなかったんだ。


 さっきのポインターが早速役に立つ時が来た。


 早撃ち勝負だ。敵の攻撃が柊木さんに届くのが先か、僕の攻撃が敵を捉えるのが先か。この距離なら2回見た魔弾の速度でギリギリ間に合う。


『2……1……』


 僕は心の中で呼吸を整える。

 大丈夫、やれる。僕を信じてくれた柊木さんを、絶対守って見せる。


『0』


 時が動き出すと同時に、僕の声に気付いた柊木さんが驚いたような表情を浮かべた。


 そんな柊木さんの後頭部めがけて凶器が振り下ろされる。


 僕は右手を突き出し、ポインターが敵を捉えているのを確認するのとほぼ同時に引き金を引いた。この反射神経だけはゲームで鍛えてて本当によかったと思う。


 僕の指先から放たれた魔弾は狙い違わず敵の脇腹に命中し、地面に穴を空けるほどの衝撃が敵の体を不自然に折り曲げる。


「ぐああっ!」


 苦悶の声をあげながら敵は荷物を薙ぎ倒して吹っ飛んでいき、舞い上がった埃がまるで煙のようにたちこめる。そして、彼女の手から転がり落ちた石が少し遅れてごとん、と、重い音を立てた。


「はぁっ、はぁっ」


 現実の時間ではほんの一瞬の出来事だったけど、僕にとっては永遠にも感じるほどの10秒間だった。


「長谷川くんっ!」


 柊木さんが僕の胸に飛び込んでくる。当たり前だけど、震えていた。僕もだ。


「よかった、無事で……」


 震える肩を抱き締める。


 この場は何とか切り抜けたけど、これから先、僕たちはどうなるんだろうか。

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