第8話 僕の考えた最強の戦術
あれから俺は考えた、本気を出せば俺は凄い子なのだ、問題点は本気を出すのが何時も遅すぎただけなのだ。そう俺は悪くない世の中が悪いのだ。
「いかんいかん、又現実逃避モードに入る所だったぜ」
「コア君、スライムGOGO作戦を実施する。毒スライムを10匹出してくれたまえ」
「え~、マスター良いのですか? オーク1匹の方が安くて戦力になりますよ。ポイントの無駄使いですよ」
「な~に良いのだ、俺に考えが有る」
俺の考えた最強の部隊はスライム部隊だ、現時点のポヨポヨでさえオークよりも強いのだ。このポヨポヨを育てて10t程にすればドラゴンにだって勝てるかも知れない、何なら100t位にまで育てれば無敵になるだろうって作戦なのだ。どうだい?完璧な作戦だろう。
それに1000ポイントのポヨポヨがあんなに強いのだから3000ポイントの毒スライムは3倍位強いのではないかと思うのだ。
「わははは~、見ろ我の軍団を! 無敵の軍団の完成だ~!」
召喚した毒スライム10匹、合計3万ポイントも使ったスライム軍団である。今は小さくて頼りないが魔物やゴミを食わせれば直ぐに大きくなって強くなるのだ。俺はスライム達を戦わせて後ろで応援しておく完璧な作戦なのだ。
「うえ~っへっへ、スケルトン。干物を焼くのだ!」
「全部隊配置に着け! 総員戦闘配置!」
総員戦闘配置、ポヨポヨは天井に、毒スライムたちは入口の直ぐ傍に。そしてスケルトンは団扇を扇いで煙をダンジョンの外に出している、俺はと言えば毒槍を持って後ろに控えている。
パタパタパタ
「相変わらずシュールな光景だな、スケルトンが魚を焼いているってのは」
「侵入者!侵入者! オーク3体です、迎撃して下さい」
「よし行け! スライム軍団!」
ダンジョンに侵入してきたオーク3体に俺のスライム軍団が向かって行く。ポヨポヨは天井からオークに襲いかかり既に地面に倒して仕留めに掛かっている、そして毒スライム達は残りの2体のオーク達に毒を吐きながら近づいて行く。
「あ~! チョット! 」
俺の3000ポイント達がオークに踏み潰されて次々に倒されていく、毒スライムは小さいので踏まれただけで核が潰されて死んでしまう様だ。俺の無敵の計画が一瞬で崩壊した様だ。
「チクショウ~!」
俺の大事なスライムを踏み潰しているオークに向かって俺は突進した、なんの事はない何時もの様に俺が戦うだけなのだ。毒をたっぷり塗った槍を思い切りオークの腹に突き刺す、体重を乗せて体ごと突くのがコツなのだ。この時に喉や手足を狙うと目標が小さかったり動いたりして外しやすいのだ、狙うのは一番動きが少なく的の大きい腹を狙う。
「ブキィ~!!!!」
俺の怒りのこもった槍はオークの腹を突き破り背中から穂先が出ていた、そしてこれを抜くときは相手を蹴って抜くのがコツなのだ。槍を刺すと相手の筋肉が収縮して槍が抜けなくなるのだ。えっ、何故知ってるのかって、銃剣突撃の訓練で教官に習ったのだ。
痛みにのたうち回っているオークを滅多刺しにした俺はもう1匹のオークも突きまくる、槍相手に怯んだオークは良い的だった、槍を相手にする場合は間合いを縮めなくては相手に良い様にされるのだ、怯んだら負けなのだ。
「オーク3体の殲滅を確認、3万ポイント入りました」
「畜生!全然嬉しくね~、毒スライムが全滅したじゃね~か儲けはゼロだぜ」
「だから言ったじゃないですか、馬鹿なことは辞めてオークを呼び出した方が戦力になりますよ。素直にセオリー通りに戦力アップを図りましょうよ」
「嫌だ! 俺は普通は嫌いなんだ。意地でもセオリー通りに何かするもんか」
「侵入者! 侵入者! 危険です、マーダーグリズリー推定レベル25!」
「えええ~!!!!」
入口を塞ぐ巨大な魔物、3mはある入口に頭がつきそうな位でかい。見た瞬間に俺では勝てない事に気がついた、戦闘力も防御力も俺とは桁が違う。何だか目が赤く光ってるし腕が4本も有る化物だ。元の世界でもクマって奴は危険な生き物だったが此奴は更に危険な匂いがする。熊には拳銃弾なんて効かないし殺すにはNATO弾が要る位防御力が高いのだ。
「ヒエ~エ~!!」
俺は一目散に奥の部屋へと走ってゆく、対大型魔物用に落とし穴を掘っているからだ。直ぐに熊に攻撃されなかったのは運が良かった、多分ダンジョンの暗さに目が慣れていないから立ち止まったのだろう、こういう事も有ろうかとダンジョン内を薄暗くしていたのだ・・・・・・まあ・・・・・・嘘だけど。
「コア~!銃くれ!銃!」
「銃器は認められていません! この世界の武器で戦って下さい」
「だよな~」
近代兵器を使うと異世界はヌルゲーになるのだ、ダンジョンの奥に戦車や戦艦があったりしたらクリア出来る奴は居ない、ドラゴンなんて主砲の一発でバラバラになるだろうしな。世界征服なんて楽勝って感じだな。
いかんいかん又現実逃避してしまった、正気に帰った俺は落とし穴の向こう側で仁王立ちする。
「さあ来るがいい、マーダーグリズリーとやら。俺様の恐ろしさを思い知らせてやる」
地響きを立てて走ってくるマーダーグリズリー、軽自動程の大きさで1トン近い体重が有る化物だ。その巨体でこの付近では無敵だったのだろう。俺を食おうとして追いかけて来た、人間を全く恐る様子が無いのは人間等は歯牙にも掛けないだけの力が有るからなのだろう。
「死ね! 化物」
俺はグリズリーに向かって親指を下向きにして差し出す、そして同時に罠が作動してグリズリーは落とし穴に落下した。そして穴の仲から物凄い叫び声が聞こえる。
「愚かだなグリズリー」
大きくて重いって事は落ちた時に衝撃が大きいという事でもあるのだ、俺の現在のレベルは6。つまり落とし穴の深さは6m、3階から落ちたのと同じなのだ、そして落とし穴の底には石で出来た逆遂げ付きで更に毒まで塗っている長さ1mの鍾乳石。マーダーグリズリーは鋭い鍾乳石に全身を貫かれて虫の息だった。
グリズリーの重さが逆に弱点になったのだ、物事って奴は良い事ばかりでは無いってことだ。必ず裏があるのだ。例えば女にモテ過ぎると断るのが面倒だったり、仕事が出来すぎると余計な仕事を押し付けられたりするのだ、出来れば良いってものでは無いのだ。常に手を抜いて目立たない様にするのが楽に生きる秘訣だったりするのだ。
あれ? 何言ってるんだ俺・・・・・・
「ポヨポヨ殺れ!」
虫の息のマーダーグリズリーに止めを刺させる、ポヨポヨを育てて大きくするのだ。
「マーダーグリズリーの討伐確認、10万ポイント入りました。ポヨポヨのレベルアップ確認、最高レベルに達しました」
「グリズリーの討伐は良いとして、何だ最高レベルって?」
「ポヨポヨはスライムの最高レベルに到達しました、これ以上のレベルアップは致しません」
「え~、そんなの困るんだが」
毒スライム軍団は開始早々に全滅させられて、ポヨポヨ育成計画も早くも頓挫した様だ。俺の立てた最凶戦術は両方共あっけなく駄目になってしまった。