第39話 マスター攻撃する
魔族攻撃の準備が整った俺は魔族の国の穀倉地帯に来ていた。広大な土地に麦が植えられている様だ、小麦と大麦の違いは見てもわからないが穂の形を見れば麦だと言う事は分かった。そして穂が見えるって事はもう直ぐ刈り入れ時期って事だ、これでパンでも造るのだろう。
「んじゃ頑張ってな!」
箱の中から取り出した虫、ダンジョン産の蝗。唯の虫とは言えダンジョンポイントで出したれっきとした魔物である、その証拠に普通の蝗より遥かに大きくて20センチ位あるのだ。それを1000匹程魔族の穀倉地帯にばら蒔いた。
「凄い数ですなマスター」
「うう、気持ち悪い」
「アイツ等物凄く食うからな、この穀倉地帯も何日持つかな? それに食えば食う程繁殖する連中だからな、穀倉地帯を食い尽くした後は森でも草原でも緑色の物は何でも食っちまうハズだ」
「たしかダンジョン蝗は生き物も食べますぞ、流石に魔族は食えないでしょうがこの辺りの小動物は全滅するでしょうな」
「へ~、凄いな。俺のダンジョンに現れたら直ぐに退治しないとヤバイな」
「そうですな、虫類は卵で増えますから1週間もすれば100倍位になりますぞ。この辺りは1面蝗の色に変わるでしょうな」
「ヒイィィ~! 気持ち悪い」
何をしているのかと言えば蝗を撒いて魔族の穀倉地帯の壊滅をしているのだ、軍隊を他国に出す程余裕が有るので余裕をなくしてやるのだ。侵略なんてものは何処でもやってる事なので今更どうとは思わないが、今回の魔族はやり過ぎた。住民を追いかけてまで虐殺するのはやり過ぎなのだ、そこで俺はチョットだけ人間族の手助けをしてやる事にしたのだ。
「さて、次行ってみよ~!」
「次は山の方でしたな?」
「そうそう、ハイキングだな。昼飯もそこで食べようかな、景色が良いといいな!」
そしてキングの馬車に乗って山の方へ移動する。山の方は空気が綺麗で気持ちよかったが少し肌寒い感じだった。ここもダンジョンとは違い紅葉している木が有ったりして中々良い風景だ、ダンジョンには季節が無いので季節を感じられる事は新鮮だったのだ。
「良い景色だな~、秋って感じだ。素晴らしい!」
「風流ですなマスター、流石はワビサビを理解してる方は違います」
「マスター、次は何をいたしますか?」
「お昼にしよう、風景の良いところで食べるご飯は美味しいからな!それに・・・・・・今食べないとヤバイしな!」
「ハッハッハ、それもそうですな」
「????」
独りで食べるのは寂しいので3人でバーベキューをする、肌寒い屋外でするバーベキューは最高だった、体が温まるし3割増で室内で食べるより美味いのだ。
「さて、飯も食ったし始めるか」
「御意」
「??????」
キングに運んでもらった箱の中から禍々しい色をした小瓶を取り出す。ダンジョン特性超強力毒薬である、1滴で千人殺せると言う猛毒なのだ。それを魔族の水源にドンドン投げ込んでいく、肌に触れれば俺など即死するだろう。食料の次は彼等の水を奪うのだ、水と食料が無ければ彼等は戦争どころでは無くなるからな。そして他所に食料や水を求めても、既に人間族の街も物資も全てアイツ等は破壊した後なので纏まった物資は手に入らないのだ。まあ自業自得って奴だな、普段から仲良くしておけば困ったときに助けて貰えるのが人や国の付き合いなのだが、そんな事も分からない連中は滅びるしか無い訳だ。
「さてついでに木も枯らすか! キング出来るか?」
「はて? 何をすれば宜しいのでしょう、邪王様」
「この毒薬を霧状にして山に撒いて欲しいんだ、もう直ぐ冬になるからな!」
「冬と木が何か関係有るのですか? いたらぬ吾輩に御教え下され」
「木ノ実でも枯らすのでしょうか? マスター」
「寒くなったら薪がいるんだ、料理をするだけじゃなくて部屋を温めないと寒いからな。そこで山の木を全て枯らす、毒薬を使ってるから枯れた木を使って火を起こすと、中の毒が撒き散らされて皆死んじゃう訳だ」
「素晴らしい! 素晴らしいですぞ邪王様! 吾輩、感動しました」
「ヒイィ~!!!!」
感動に涙を流しながら猛毒を霧状にして撒きまくるキング、猛毒を吸うと俺が即死してしまうので俺はキュウちゃんに抱えられて避難している。そしてキュウちゃんはガタガタ震えていた、彼女は薄着だから寒いのかも知れない。
「キュウちゃん大丈夫か? 寒いのか? 上着でも出そうか」
「あ、有難うございます。寒さは大丈夫です」
「そうか・・・・・・」
キュウちゃんは元が青白いので良く分からないのだ、吸血鬼って寒さに弱いのかな? 変温動物みたいだから多分弱いのだろうな。手なんか凄く冷たいしな、今の体温で布団に入って来られたら困るのでカイロや上着を渡して体を温めて貰う事にした。
「邪王様、終わりました」
「御苦労さん、流石はキング! 仕事が早いな」
「お褒めくだり有難うございます、吾輩の甘さを気がつかせて頂き感謝しております。吾輩だけならば水源に毒を撒いただけで満足していたでしょう。邪王様の全てを殺し尽くす邪悪さに感動致しました」
「ヒイィ・・・・・・」
「なんか嬉しく無いな、まあ良いや! 次行ってみよ~」
「まだ有るのですか?」
「何言ってるんだ、次が本番だぞ!」
「何と、食料、水、燃料の他にもまだ有るとは・・・・・・」
「・・・・・・」
そして魔族の首都を見下ろす上空、俺はキュウちゃんに抱えられて飛んでいた。上空から攻撃目標を探して指示を出す為だ。水、食料、燃料を奪った後は人心の混乱を狙うのがセオリーなのだ、魔族の不安を煽り現在の指導者達に不満を向けるのだ、ついでに仲間割れしてくれると嬉しい。
「キング、食料貯蔵施設にダンジョン鼠を放て、あいつらの溜め込んだ食料を汚染、壊滅する」
「はい!直ちに」
「キュウちゃん、街に行って眷属を増やせ。同士討ちさせて疑心暗鬼を増大させる」
「はい、邪王様」
今度は首都を攻撃する、街の四隅から火災を起こして包囲殲滅しようかと思ったが、生き残った魔族が多い方が食糧難に成ってくれるので辞めたのだ。どうせならジワジワと恐怖と絶望を与えてやるのだ、俺が敵で残念だったねって奴だ、俺は性格が悪いのだ。
「邪王様、鼠作戦終了です。彼等は食料を食いつくし、疫病をばら蒔く事でしょう」
「うむ、ご苦労」
「邪王様、眷属を作って来ました。彼等は爆発的に増えます、魔族制圧も時間の問題だと思われます」
「有難うキュウちゃん、でもまあ、そう上手くは行かないと思うよ。その内対策を取られれだろうね」
キングに頼んだ鼠作戦、ダンジョン産の魔物鼠、これも蝗と同じで魔物だった。体長も20センチ程の小型だが良く食べて増えるのだ、そして小型だからどんな場所にでも入り込んで討伐しにくいのだ、そして疫病をばら蒔く凶悪な魔物なのだ。この魔族の町は彼らによって滅ぶ事だろう。
そして吸血鬼のキュウちゃん、青白い顔をして何時もは怯えているが彼女も実はかなり強いのだ。彼女は上位の吸血鬼なので日光も平気だし夜になれば不死身に近くなる、首を落とされた位では死なないらしい。そして彼女の最大の武器は眷属を創り出す能力だ、彼女に噛まれると吸血鬼に成ってしまうのだ、そしてその吸血鬼が噛み付いた相手も吸血鬼になるという、非常に凶悪な能力を持っている。まあ眷属は日光に弱くて夜しか活動出来ないから、初期なら相手も対応出来るのだが。
「邪王様、次はいかが致しましょう?」
「逃げるぞ、キング。大急ぎでダンジョンに帰る」
「えっ! 攻撃魔法で焼き払うとかは?」
「????」
「馬鹿だなキング、そんな事したら相手がバレちゃうだろ。さっさと消えて不安を煽るんだよ!」
「お~! 凄く卑怯ですな! 姿すら見せない卑怯さ!」
「うるせ~、帰るぞ。ここは寒くてかなわん」
こうして魔族の国に攻撃を仕掛けた俺はすんなりとダンジョンに帰ってきた。表立って攻撃したら追っ手が来たかもしれないが、姿を見せてないので誰も追いかけてこなかったのだ。