第38話 マスター偵察する
「ひでえな」
「ふむ、魔族は余り頭が宜しく無い様ですな」
王国内の偵察をしていたのだが状況は非常に悪い。国中が魔族に荒らされているのだ。魔族は王国を滅ぼすだけでは飽き足らず住民も虐殺していた。戦争なので戦闘員が死ぬのはしょうがないが、民間人や民間人が住む家まで丸々破壊するのはやり過ぎなのだ。
「こりゃあ遠慮する必要はないな、殲滅戦だな」
「ふふふ、邪王様の得意技ですな」
「ヒイィ~!!」
今まではダンジョンの中に入って来る魔族を迎撃していた訳だが、ダンジョンの外の様子を見て予想以上に酷い状態なのに気がついた。姫や人間達が魔族を嬉々として殲滅するのも当然だ、これまで虐殺されて追い回されてきたから仕返しをしているのだ。戦争するのは構わないがこれでは終わりが見えない戦いになる事に魔族側は気がついていない様だ、ある程度の所で手を引かなければ相手が全滅するまで終わらなくなるのだ。だから戦争を始める人間は終わる時の事を考えて始めなくては成らない、これが出来ない無能が戦争を始めると被害がドンドン大きくなって行くのだ。
「どうされますか邪王様?」
「魔族の国を偵察だな、相手の国の事を知りたいな。弱点を探らないとな」
「ならばこのまま進みますかな、吾輩の馬車なら5日も有れば着きますぞ」
そしてキングの馬車で魔族の国へと来た俺達は密かに魔族の国のを探る。魔族の国は魔王と呼ばれている一番強い奴が治めている国なのだそうだ。魔族自体は大した数が居ないのだが、魔物と一緒になって攻めて来るので厄介な連中だった。まあ他にも人間よりも魔力が大きくて強いと言うのも厄介なのだが。
「キュウちゃん頼む」
「はい」
吸血鬼のキュウちゃんに抱えられて俺は上空へと飛び上がる。吸血鬼のキュウちゃんは蝙蝠の羽の様なものを出して空を飛べるのだ。相手の都市を見るのに一番良いのは上空から見る事、なのでキュウちゃんに頼んで飛んでもらっているのだ。
「重く無いか?」
「何とか大丈夫です、ですがあまり早くは飛べません」
「吾輩ならもっと早く運べますぞ! 邪王様、ぜひ吾輩に乗って下され!」
「嫌だ! キュウちゃんが良い」
上空から見る為に抱えて飛んでもらっているのだが、キングは全身骨なので抱えられると痛そうなのだ、どう考えても骨に抱きしめられるよりは綺麗なねーちゃんに抱かれる方が良いと思う。
「ぐぬ~」
「ヒイイ・・・・・・」
キングに睨まれて涙目になるキュウちゃん。何故か俺を運びたがるキング、大体キングも男なら男同士で体に触れるとか気持ち悪いはずなんだが、俺が変なのか? 男に体を触られると気持ち悪いのだ、綺麗なねーちゃんなら幾らでも触らせてやる、というか触ってくれ・・・・・・いやいやこんな事は今はどうでも良い問題だった。
「あそこが貯水池、あそこが橋・・・・・・」
「何を調べておるのですかな?」
「貯水施設、橋、発電施設・・・・・・は無いな、通信施設とあとは食料の保存場に・・・・・・」
「凄い数ですな? 何の為に調べるのですか。敵を殺すだけではいかんのですか?」
「効率が悪い、一度に大ダメージを与えて戦争する能力を奪う方が楽に勝てるんだ。一々相手をするのが怠いからな」
「成程」
キングは俺の言ってる事が良く分からない様で首をかしげていた、まあそうだろうな。だがこれらの施設は生き物が生きる上で重要な施設なのだ。軍隊が戦えるのは後方から補給があるお陰で戦えるので後方を破壊して補給が出来ない状態にするのが楽に勝つ方法なのだ。今なら魔族は油断しているので簡単に大ダメージを与える事が出来そうだ。
「よ~し、後は穀倉地帯を探すぞ」
「あっちに大きな畑の様なものが見えますぞ」
「向こうにも有りますわ」
キングやキュウちゃんは俺よりも遥かに目が良いので、色々な物を見つけてくれる。俺はメモ帳に簡単に色々見つけた施設や場所の位置を書き込む。持って帰ってゆっくり作戦を考えなくては成らない為だ。
「キング、ダンジョンに帰るぞ」
「おや、このまま魔族を見逃すのですかな?」
「全ての場所を同時に破壊する為に準備がいるんだ、道具が無いと無理」
「同時にする事が必要なのですな」
「そうそう、防御されると面倒だから、相手が油断してる隙に全部を一度に壊す」
「成程、不意打ちですな」
「ヒイイイ」
幾ら重要施設でも一つ一つ破壊していれば相手が気づいて警備されてしまう、攻撃が難しくなったり攻撃が失敗すると面倒なので相手が警備していない今、同時多発でケリをつけてやるのだ。普通はあまりやりたくない作戦なんだが、今回は手加減なしで行くので魔族の市民にも地獄を見てもらう事にしたのだ。
そして一旦ダンジョンに帰った俺は、せっせと必要物資を集めだしたのだ。
「え~と、猛毒と猛毒と猛毒・・・・・・」
「ヒイイ~!」
手伝いのキュウちゃんは青い顔をして俺の集めた物資を箱に詰めていた、キングは笑いながら俺の必要物資を造ってくれている。コア子やバル子は呆れた顔で俺達を見ていた。




