第37話 SS 姫将軍グロリア
私の名前はグロリア、元はこの国の第2王女だった者、今は聖者の国を護る将軍をしています。思い起こせばあれは半年前でしたか、私の国が魔王軍に滅ぼされ、私だけが数名の従者と共に都を逃げ出したのは。
魔王による人間族への攻撃が始まったのが約1年前、そして同時期に我が国に勇者が3人現れたのです。国王は素晴らしい強さを持つ勇者3人と共に魔族と戦う事になったのですが、勇者3人は戦いよりも女性の方に興味が有るらしく色々な理由を付けて若い女性を欲しがりました。女性の親や親戚等は激怒しましたが、彼等が居ないと魔族との戦いに支障が出るため、国王や貴族たちは頭を抱えていました。
それでも何とか国軍は国境付近で魔族達を足止め出来ていたのですが、勇者の中の一人が突然いなくなりました、そしてそれ位後帰ってきませんでした。彼が抜けたため徐々に国軍は劣勢になり、ズルズルと王都まで下がってしまいました。篭城戦は援軍が無ければ何の意味も有りません、時間を稼ぐしかない戦い方なのです。そこで国王は王族の血を絶やさない為に私を逃がす事に決めました、兄達2人は王族として民を守る時間を稼ぐ為に最後まで戦うそうです。
魔族が来れば何処にも逃げる場所等無いと思うのですが、王城に居るよりはマシだろうという理由で私は従者2人を連れて王城を脱出する事になったのでした。
「私達を受け入れてくれる場所等有るのかしら?」
「勿論ですグロリア様、王女様を受け入れない民など居るはず有りません」
「元気をお出しください姫様。必ず受け入れ先を探して見せます」
私の護衛は親衛隊の中隊長をしていたダットサンと付き人のシルビアの2人です。2人は私を元気付けようとして希望の有るフリをしていますが、私も馬鹿では有りません。亡国の姫を受け入れる様な者は居ない事を知っています。
「でも私を受け入れると言う事は魔族に逆らう事ですよ、そんな領主や貴族はいないでしょう。それに国軍が勝てない魔族と戦える者はいないでしょうね」
「姫様希望を捨ててはいけません! 必ず希望は有ります」
「そうです、私は何が有っても姫を守ります」
「有難う2人共、でも私が足でまといになったら何時でも見捨てて良いわ。2人だけなら逃げやすいでしょう」
何の希望もなく難民の中に混じって3人で旅を続けます、食べるものも無く休む時間も惜しんで魔族達から逃げるだけの毎日です。毎日の辛い逃避行で難民達の心が荒んで行くのが感じられます、人は希望が無ければ容易く悪の道へと落ちて行きます、私には護衛が付いていますから大丈夫ですが、普通の年若い女性は危険です、それで私の周りに若い女性達が集まって来る様になりました。勿論腐っても元王族、私は民を守ります、難民の中に混じっていた元貴族や兵士を集めて移動する事にしました。甘い顔をしていると秩序を保てなくなるので、やりたくは無かったのですが目に余る者は首を切り落とし見せしめにします、こうしなければ被害が増える一方なのです。
「姫様、聞きましたか?」
「何の事でしょうか?」
「賢者の町が有るそうです、何でも困っている人達を受け入れる為に賢者様が造った街だそうです」
「そう言えば、そんな噂を私も聞いた事が有ります。夢のような話でしたから忘れていました」
「夢でも何でも構いません、そこに行きましょう。このままでは私達も長くは持たないでしょう」
辛い旅の途中で聞いた夢物語、しかし夢にでもすがらなければ我々は生きていけません。そこで夢の町を目指して進むことにします、夢の町は辺境に有ると言う噂です、そしてそこは丁度私達が目指していた場所でも有りました。
「ここが夢の町ですか?」
「唯の洞窟ですよね」
「やはり、唯の夢物語でしたか・・・・・・」
苦労をしてたどり着いた辺境、そして夢の町に着いたのですが、そこには唯洞窟が有るだけでした。ここまで辛い旅を続けてきた私達は全員絶望に陥りました、もう1歩も歩けません、歩いてもしょうがないですから、もういっそここで自決でもした方が楽かも知れません。
難民全員が絶望に沈んでいた時に、洞窟から一人の若い男が出てきました。身なりも小奇麗で薄汚れた私達とは全然違います、ニコニコして幸せそうです、私達が最後に笑ったのは何時だったでしょう?もう何時だったか思い出せません。
「いらっしゃいませ、何処からですか?」
「お、王都からです」
「へ~、そりゃまた遠い所からようこそ。私、村長のアーサーです、よろしく」
「村長さん?」
洞窟の中から出て来た人は村長だと名乗りました、洞窟の中に何人か住んで村でも作ってるのでしょうか、ウサギなら穴の中に住んでいますが穴の中に済む人間は珍しいですね。
「え~と、アーサーさんはその洞窟に住んでいるのでしょうか?」
「えっ、洞窟? ああまあ外から見たら洞窟ですよね。皆さんどうぞ中に入ってください」
洞窟の中に入った私達は愕然とします、そこは向こう側が見えないほど広く大勢の人間が生活していました。高い天井にはお日様の様な物まで有ります、そして中は暖かく快適な住処でした。洞窟の中にこんな街が有るとは信じられません。
「皆さんようこそ、賢者の街へ」
私達を案内した村長はここが賢者様の創った街だとおっしゃいました、我々を受け入れてくれるそうです。絶望から希望へ、私達は皆涙を流して賢者様の慈悲ぶかさに感謝しました。そして私は難民の代表として賢者様にお目通りする事になりました。
「お初にお目にかかります、私王国第2王女のグローリアと申します」
「おお、宜しく、ゆっくり休んでくれ。何か困った事が有れば言ってくれ」
賢者様はとても気さくな方でした、私を受け入れると魔族の不興を買う恐れが有ると申したのですが、不敵な笑いをしただけでした。後で聞いた所では賢者様は魔物が好物で魔物と食べ物を交換して下さるということでした、賢者様にとってあの恐ろしい魔族や魔物も唯の食べ物に過ぎないのでしょう。
しかし賢者様にばかり甘えては居られません、私は魔族と戦う為の軍隊を作ることにしました。自分の住処は時分達で守るのです。人間や下の階層に済む獣人達とも協力して、賢者の街防衛軍を創りました。
防衛軍を創った所ろで賢者様が現れ、私に素晴らしい砦と武器を与えて下さいました。これで街を守れと言うことでしょう。賢者様がおっしゃるなら私は全力を持って戦います、賢者様の街に入る不届きものには死を与えるのが私の仕事です。賢者様は自分では言いませんが、あの方は賢者ではありません。地下にこのような広大な街を創り出し、私に神剣を簡単に渡すその力、それを聞いたものは直ぐに賢者様の正体に気づきました、そうですあのお方は神です! 我ら哀れな者達を救う救世主様なのです。
そして今日も愚かなる魔族が神の街に攻めてきました、愚か者達です神に勝てる訳も無いのに。さて、では全軍に気合をいれましょうか、私は一応将軍ですから。
「貴様ら! 気合を入れろ! 勝利を神に捧げるのだ!!!!」
「「「「「「おお~!!!」」」」」
さて今日も神に生贄を捧げましょう。




