第34話 備えあれば憂いなし
知らぬうちに油断していた俺は深く反省した。そこで防衛の責任者にしたグロリアの所に話し合いに出かけた。彼女の軍隊を強化すればダンジョンが更に安全になるのだ、そして彼女は人間達に凄く人気が有った、元王族が皆の為に先頭に立って戦うと言うのだからそれも当然だった。それに彼女はまだ10代という若さなのだ、でも俺は彼女の人気の半分位は見た目の良さではないかと思っていた。残りの半分は性格が真面目で本気で民を守ろうとするその精神なのだと思う。
「息災であるか? グロリア将軍」
「良くいらっしゃいました、賢者様」
流石に上流階級の人間だけあってソツのない対応だった。付き人のメイドさんがお茶を出してくれくれたので俺はチョコレートやスナック菓子を出して対抗した。俺の付き人のコア子はメイドの格好をしているが全くメイドの仕事はしないので羨ましい。まあダンジョンコアがメイドさんの仕事を知らないのは仕方がないから諦めてるのだが。
「まあ、素敵な食べ物ですわ、始めてですが美味しいです」
「それは良かった、幾らでも有るから好きなだけ食べると良い」
友好的な雰囲気を作りながら情報集だ、人間達の事は彼女に任せているので俺には良く分からないのだ、俺は君臨すれども統治しない、なにせどんなに良い統治をしても必ず不満が出ることを知っているからだ、こんな貧乏くじはやりたい人にやって貰う方が楽なのだ。俺が人の上に立っても直ぐに疲れるのだが、彼女の様な生まれつき高貴な人間は疲れない様なのだ、そして愛想笑いが凄く上手い、まるで本当に笑っているような印象を与える事が出来るのだな、生まれつきの俳優って奴だ。
「ところで国に居た勇者たちはどうなったのかね?」
「王都防衛戦で2人共帰らぬ人となったようです、その時に国王や王国軍も皆、討ち死にしたと聞いております」
「そうか、残念であったな。しかし、魔王軍は何故ここに攻めて来ないのだろうな?」
「多分、ここを重視していない為かと思われます、ただの洞穴に100万人が住む街が有る等誰も考えませぬゆえ」
「成程・・・・・・確かにな」
勇者も魔王も来ないので何故だろうと思っていたのだが、勇者は討ち死、魔王軍はここの事を知らなかった様だ。成程それなら納得できる、このダンジョンは辺境に出来たばかりで誰も知らなかったし、カレーで有名になったが、それは国内だけのことで魔族に知られて居なかったのだ。
だが安心は出来ない、魔王に教える奴に心当たりが有るのだ。そうあの邪神だ、自分の玩具が軒並み戦死したから今度は俺で遊ぶ気なのは間違いないのだ。それどころか勇者から魔王に乗り換えて人間達を滅ぼす事くらいはやりそうな奴だと俺は思っていた。
「だがそれも長くは続かないと思っているのだな」
「勿論です、魔族は人間を滅ぼす気です。理由は分かりませんが1年前から急に好戦的になりました」
「もしかしてそれは勇者が現れた時期ではないかね?」
「・・・・・・そう言われて見れば・・・・・・」
多分最悪の予想が当たると思う、魔王も勇者もあの邪神が創り出したって予想が。そして俺は邪神のゲームに参加させられたメンバーの一人だって予想だ。俺が今まで放置されていたのは、ダンジョンマスターが逃げられない事とダンジョンは本来短期間で強く成らない為だと思う。普通のダンジョンは人間や獣人の街を中に造ったりしない、人間や獣人を誘い出して殺すのがダンジョンなのだ。
「兵士の訓練は順調かね? 何か困った事が有れば言うと良い」
「兵士の訓練は元国軍の指揮官に任せています、私は唯の飾りです。でも私は絶対に逃げません、最後まで先頭に立つつもりですわ賢者様」
「良い心がけだ、兵士が良く戦うだろう、姫に良い物をやろう」
「有り難く頂戴いたしますわ、何でございます?」
「来るが良い」
地下2階層入口正面に来た俺は早速彼女にプレゼントを渡すことにした。彼女の必要としている魔王と戦う為の力だ。
「コア、ダンジョンの内部構造の変化を使う、俺のイメージに合わせて地面を改変してくれ」
「了解ですマスター」
ズゴゴゴと言う音と振動と共に地面が大きく盛り上がっていく、そして高さ10m厚さ5mの壁が出来上がってゆく。普通の城壁は城や街を囲む形をしているがこの壁はそれとは違う、相手を殲滅する為にV字型をしているのだ。侵入してきた敵を2方向から射撃する為にこのような形をしている、これはダンジョンの入口が1箇所しかない為に出来る構造なのだ。
「流石は賢者様、素晴らしい土魔法でございます」
「ふふ、喜ぶのはまだ早い。ただの壁など何の役にも立たぬからな、これからが大事なのだ」
コアに更に注文を付けて城壁の上にバリスタをズラリと並べる、バリスタだけで300機程、このバリスタの間に弓兵を置けば人型の魔物部隊なら一度に千人位は楽に相手が出来るだろう。戦いは数なのだ、そして遠距離攻撃が一番味方の損失が少なく済む経済的な戦い方なのだ。
「・・・・・・凄い」
「ついでに弓や剣、槍等も千セット程渡しておこう、これで戦うが良いぞ。頑張るのじゃ姫」
「有難うございます賢者様、ご期待に添えるように頑張ります」
いきなり出来上がった巨大な防御壁とズラリと並んだバリスタ。そして山と積まれた武器をみて姫の周りにいた人間達は心底驚いていた、簡単にこれだけの事が出来る大賢者が付いているのだから負ける訳は無いと言う希望が出て来た様だ。
キラキラした瞳で俺を見上げている姫に、更に力を与える。やる気を出した人間達に更にやる気を出してもらうのだ。
「姫、これを着て戦うが良い」
「こ、これは!」
金色に光り輝くオリハルコン製の鎧と光り輝く神剣エクスカリバー、本来はダンジョンの最下層付近の宝箱から出てくる非常に高価なものだが、防衛軍の象徴になってもらうには丁度用装備なので彼女に惜しげもなく渡したのだ。金色にピカピカ光る彼女は立派な象徴として活躍してくれるに違いない。他にも活躍する連中がいたら良い武器や鎧を出してやることにしよう。
「マスター、私にもくれ。神剣が有れば私の戦闘力も上がるぞ」
「そんじゃバル子にはバルムンクな、コア子にはゲイボルクでも出しとくか?」
「良いのですか?両方1億ポイント程しますよ。高すぎでしょう」
「良いって、剣は飯食わないからな!」
「相変わらず変な基準だな、気前が良いのかセコイのか・・・・・・」
こうして俺はダンジョンの強化を全力でしていったのだ、全ては魔王軍と戦う為に。そしてその日は直ぐに来ることになった。備えあれば憂い無しって昔の人も言っていたしな。だが、幾ら備えても不満って奴は必ず出てくる訳で、まあ贅沢な不満なんだが。