第3話 めざせ自炊生活
自炊生活を夢見て俺はポイントを貯める事にした、頑張れば一日一食で650ポイント貯まる。絶食も考えたが万が一の時に体が動かなくなるのは困るのでやめておいた。兎に角無理をするなら体力が有る今の内なのだ。
「う~いてて」
地面の上に直で寝るのは結構辛い、自衛隊の野外演習でも空気で膨らますマット位は有ったのに今はそれ以下の生活なのだ。思い出せば自衛隊は楽で良かった、食物や寝るところはタダだったしな、オマケに食物は他人が作ってくれるのだ、余りの楽さ加減に体重が全く変化しなかったのは良い思い出だ。因みに自衛隊って所は田舎の小さな部隊は食物が悪いんだ、多分予算が少ないのだろうな、そして大きな部隊程食物が豪華で美味しくなって行くのだ、俺がいた師団は定員8000人の甲師団だったので結構良い物が食えたのだった。なにせ基地に寿司屋や電気屋やその他諸々の店が有った位だからな。多分あそこは最前線だったから優遇されていたのだろう、今では定員が半分の旅団になったらしいが。
まあどうでも良い事ばかり思い出すのは心が病んで来た兆候かも知れない、過去に思いが行くのは多分現実逃避って奴なんだろうな、過去は変えられないから考えても無駄なんだがな、考える暇が有るなら未来を考える方が有意義だと思うんだ。
「お~い、コア居るか~?」
「当然居ますよ、マスター」
「話し相手になってくれ」
「良いですけど、私はダンジョンの知識しかありませんよ。それでも良いならしますけど」
「何でも良いよ、何なら相槌をうってくれるだけでも有難いよ」
ほぼ6畳位の穴の中に閉じ込められて2日間、すごく静かで退屈な時間だった。社交的な人間とは程遠い俺だが、これは結構精神的にダメージが有る様な気がする。まあ働かなくても一応生きては行けそうな感じはするのだが退屈なのだ。どっかの誰かが(退屈は人を殺す)って言っていたが、もしかしたら本当かも知れない。少なくとも3ヶ月程続いたら性格が歪みそうな気がするな、これ以上歪んだら不味い様な気がする、俺は気をつけていないと直ぐにロクでもない事を考えるのだ。
「マスターそんなに暇なら何か創造なり召喚すれば良いのでは?」
「見てて楽しめる魔物とか居るのか?」
「高位魔獣は知能も高いし話し相手にもなれますよ、サキュバスとかなら夜のお相手も出来ますし」
「サキュバスって幾ら?」
「1000万ポイントです」
「ふざけるな! 絶食1万日って無理だろうが!」
ハフ~全く、どんだけ無理な事を言うんだ此奴は。そもそも一日650ポイント貯めるのが限界の俺に1000万ポイントなんて貯まる訳無いのだ。寿命が無くて何万年も生きられるなら可能かも知れないが、ポイントが貯まる前に気が狂ってコアを叩き割って自殺すると思う。
「仕方無い一番安いやつ召喚してくれ、動く奴な!」
「了解しました、スライム一匹召喚致します」
何だかプルプルしてる奴が目の前に現れた。大きさは握りこぶし位、色は青でプルプルしている。チョット触ってみる。うん、プルプルしている、なかなかの触り心地だ。今度は掴んで揉んでみる。うむ、いい感じの弾力が有るようだ。
「スライムって喋れ無いのか?」
「喋るスライムとか聞いたことが有りません、レベルアップして喋れる様になる可能性が有るかも知れませんが期待はしない方が良いと思います」
「まあそうだろうな、コイツがガンガン敵を倒してレベルアップするとは思えんからな」
スライムを見ていても余り面白くなかった、物凄く動きが鈍いのだ。例えるなら昆虫を飼っている様な感じかな、見ていて面白い物じゃ無かったな、でも床に落ちていたゴミを処分してくれているので非常に役に立つ魔物では有る様だ。
「どりゃ!」
ビタン
スライムを壁に投げつけてみる、駄目だ全然跳ね返ってこない壁に張り付いてぐったりしている。大きさ的にボールの代わりになるかと思ったらならない様だった。某有名映画で主人公が壁にボールを投げて独房で遊んでいたのを真似したかったのに無理なようだ。
「マスター、スライムが死にかけてますよ」
「スライムって物理耐性があるんじゃないのか?」
「ありますけど、マスターが馬鹿力で壁に投げつけるからですよ」
「そうか死なれるとゴミ掃除に困るからな、大事にしよう」
それから節約生活1週間、苦労の甲斐があって念願のカセットコンロと鍋を手に入れた。レトルトのご飯とレトルトのカレーを温めて食った時は幸せを感じた。
「あ~、温かい食べ物って美味しいよな」
「良かったですねマスター」
「でもな、コイツおかしくないか? 大きく成りすぎじゃないか?」
俺の出したゴミを食べさせていたスライムが僅か1週間でスイカサイズに成ったのだ。どうやらスライムにとって異世界のゴミは栄養が有るらしく急激に成長している。昨日からは何となく俺の言う事が分かる様になって来た様だ。
「チッチッチッ! ほ~れこっちに来い」
スイカサイズの青いスライムがプルプルしながらこっちに来る、言葉に反応しだすと少し面白い。
「お手!」
本体から棒状の物を伸ばしてお手をしている。もしかしたらコイツは賢いのかも知れない。
「お前に名前を付けてやろう、青いからブルーな! よろしくな」
「・・・・・・」
どうやらブルーは喋れない様だ、だがプルプル震えて喜んでいる・・・様な気がする。少し俺の言う事が分かる様なので平たくなって貰った。
「ブルー、伸びてくれ。具体的にhは長さ180センチ幅60センチ位で」
「何してるんですかマスター?」
「うむ、ブルーにマットレスになって貰ってるのだ。素晴らしく快適だぞ、ひんやりしたウオーターベットって感じだな」
スライムのマットレスは快適だった、久しぶりに快適な睡眠がとれた。このスライムをもっと育てて更に快適なマットレスを目指そうと思う。
女神に復讐だとか、呪うとかはすっかり忘れてしまった主人公。毎日を快適に暮らす事だけを考えて実行してしていた。取り合えず飯を食って寝れれば後はどうでも良いって考えらしい、それにこのダンジョンって所は温度が一定なので案外すごし易かったりするのだ。
どんどん自堕落になってゆく主人公、大丈夫なのか? これで世界を救えるのか? そう言えば主人公は世界を救う気なんて全然持って無かったかも知れない。