第29話 マスターVS勇者 その3
いや~落ち着く。物を作ってると心が満たされると言うか満足すると言うか、楽しいのだ。今作ってるのは勇者用の奴だが、日曜大工で作れるのだ。材料は釘やネジ、ボルト等とそれを貼り付けるガムテープ、そして起爆用の百円ライター、そして小部屋とプロパンガス。あとは今造った木製のドアだけだ、安いもんだな。
「マスター、何ですかそれ? 釘やネジ何かを綺麗に並べて貼り付けてますけど?」
「けっけっけ、これは大型クレイモア。これで勇者を吹き飛ばす」
「コア、小部屋を作ってくれ。宝箱設置用の小さなヤツを2部屋」
「了解しました」
何だか知らないが、ラノベ小説の主人公達はチート能力とやらを欲しがる。他人より強い力、相手を苦もなく倒せる力ってヤツを、だがそんな物はどうでもいい物なんだ、戦いの一番必要なのは戦う意思なんだがな、武器なんて造れば良い、勝てないなら勝てる様に工夫すれば良いのだ。チートなんぞに頼ってる馬鹿はチートが通用しない時には敗北しか無い無能連中なのだ。
地下8階層に小部屋を造る、この部屋を抜けると地下9階へと行ける様にしている。つまり必ずこの部屋を通らなければ成らないのだ。
「よ~し、スケルトン。その扉はここに置いてくれ」
「・・・・・・」
そして小部屋の扉は俺が造った木製の扉、切込をたくさん入れて脆くしている。そして小部屋の中に仕掛けをして中にスケルトンを1体残しておく、彼は小部屋の落とし穴の中に隠れて居てもらうのだ。
「頼んだぞmarkⅡ! 全ては君に掛かっている!」
「!!」
部屋に残すスケルトンに向かって敬礼をする、スケルトンも答礼で返してくれた、彼ならきっと役目を果たしてくれるだろう、一緒に厳しい訓練を積んできた仲間なのだ。
その後の準備も済ませて俺達は下の階層へと移動する、ここで俺達がする事はもうない。
「コア、勇者チームが8階層に入ったら教えてくれ、今作戦はタイミングが重要なのだ」
「ハイ、マスター」
「作戦とか言うと格好良いな! 唯の罠なのにな」
今回の作戦はタイミングが命なのだ、勇者チーム全員を一撃で倒せる等と思っているわけではないが、チームの中の罠を感知する奴だけはどうしても始末しなくては成らない。あの人間を始末すれば落とし穴や罠が再び使える様になるのだ。
「マスター、勇者チームが地下8階層に入って来ました」
「良々、このまま扉の前まで素直に通してやれ、相手を油断させるのだ」
地下9階層で息を潜めて上の様子を伺っていると、勇者チームがノコノコと現れた。ここまで魔物も居ないし罠も簡単に躱したせいで油断しきって居る様だ。彼らにとってこのダンジョンは散歩するみたいなものなのだろう。敵地を移動するときは隊員間を詰めると一度にやられる恐れが有るのでかなりの距離を取って歩くのだが、油断した彼等はかなり固まって歩いていた、暇だから話でもしていたのだろうな、それが彼等の命取りになるのだ。
「何だこのダンジョン、やる気でね~な。魔物も宝箱も何にもないじゃん」
「本当、詰まらないダンジョン!」
「ここじゃ稼ぎもレベルアップもしないな」
「ダンジョンマスターがカスなんだろうね!」
勇者チームが俺やダンジョンの悪口を言いながら歩いて来る。とても良い感じだ、人間は油断している時が一番脆いのだ、ある程度構えていると信じられない位の衝撃にも耐えるのが人間って奴なのだ。例えば2階から飛び降りても平気な鍛えた人間が、僅か10センチ位の段差でも意識してない場合は足首を骨折したりするのだ。
「おっ! 扉がある、鍵が掛かってるみたいだな。チョット待っててくれ、今から開ける」
「どうせ大した鍵じゃないよ、扉ごとぶち破れば良いじゃん!」
勇者チームが盗賊らしき奴を先頭に扉に近づいてきたので俺はスケルトンに命令を出す、ダンジョンマスターの基本的な能力である念話である、ダンジョン内の配下に直接命令を出せるのだ。
「やれ! スケルトン」
俺が扉の前に付けていた何の意味もない南京錠を外そうと盗賊が近づいた瞬間、木製の扉が轟音と共に外に吹き飛ばされた。バラバラに成るように切れ込みを入れた木製の扉と中に仕込んでいた釘やネジ、ボルト等が銃弾に匹敵する速度で勇者チームに襲いかかる。
ズオオォ~ン!!!
「「「「「ウギャ~ア~!!!」」」」」
狭い部屋にプロパンガスを10%程満たし、最大火力を出せるようにした密室。スケルトンが合図と共にライターに火を付けて内部を爆発させたのだ、簡単に言えばガス爆発だ、そして爆発のエネルギーは一番弱い扉に向かって扉を吹き飛ばしたって訳だ、日常でも起こることを人為的に起こしただけ、爆発のエネルギーを有効に使うために金属片を扉に仕込んだだけの簡単な罠だ。まあ威力はクレイモアを超えると思うが。
「マスター2名の殲滅を確認、430万ポイント入ります」
「ラッキーだな、盗賊だけでも良いと思ってたんだがな、やっぱ俺ってツキがあるよな! 日頃の行いが良いからな」
「日頃の行いはどうか知らんが、盗賊と僧侶みたいな奴がバラバラになったぞ、魔法使いもボロボロだ」
「装甲の薄いやつは被害甚大だな、魔法の攻撃じゃないからアイツ等に感知出来ないしな。それにしても僧侶が居なくなったのはラッキーだ、回復とか復活とかされたら厄介だからな」
2人バラバラになり、もう一人の魔法使いみたいな奴は呻いていた。勇者と重騎士は鎧に守られていたせいか大した被害では無い様だ、ポーションの様な物を出して仲間を治療しようとしていた。
「スケルトン部隊前え! 投擲開始!」
折角やっつけた奴を回復されては面倒なので邪魔をする、俺の鍛え上げたスケルトン部隊は素早い動きが持ち味なのだ。そして数が多いのだ。
俺のスケルトン部隊60体が一斉に勇者達に火炎瓶を投擲する、まあ瓶じゃなくてペットボトルなんだが、中身はガソリンと詳しく言えない奴を混ぜた凶悪な性能のヤツだ。こいつは普通の火炎瓶と違って粘性が有るので体に付着すると簡単には取れない、そして何時までも燃え続けるのだ。
「「うわ~!!!」」
勇者は水魔法で消そうとしていたが無駄だ、ガソリンは海の上でも燃えるように水を掛けた位では消えないのだ。彼が真面目に勉強していたら、火が唯の化学反応だと知っていたら、もしかしたら今燃えている重騎士を助けられたかも知れないが、彼は勉強せずに家でゲームをしていたので知能も知識も全く無かった。
「退却~! 後方に撤退!」
パフパフ!ピ~!ピ~!
この程度で勇者がくたばるとは思えないので一旦地下に下がる。何せ2千万の奴だ普通の奴より体力や防御力が高いだろう。バルキリー並の頑丈さならば火を付けた位では死なないハズなのだ。
「マスター更に2名の殲滅を確認、410万ポイント入ります」
「なんだ、脆いな。あいつ等本当に勇者チームか? あんなんじゃ魔王に簡単に負けるんじゃないか」
「脆いか? マスターの攻撃がエグいと思うぞ。油断させていきなり爆破だからな、それに何だあの火! 水を掛けても消えないじゃないか!」
念のためにクレイモアを沢山作っていたのだが、あっけなく勇者チームは消滅して勇者だけになってしまった。俺としては1箇所で一人位の計算をしていたのだが、拍子抜けだった。どうやら勇者は死者を復活させる魔法は使えない様だしこれなら何とか成りそうだ。駄目なら落とし穴を作りまくってダンジョン内を逃げ回る予定だ。