第21話 ダンジョン村
お先真っ暗な感じだが落ち込んでいてもしょうがない。将来の魔王との対決の為に備えなくては成らない、と言っても出来ることと言えばポイントを貯めてダンジョンを強化するだけなのだ、
「ううう・・・・・・無理・・・・・・」
「どうしたんですマスター? ため息をつくと幸せが逃げますよ」
「だって~、最近魔物が少ないし、このまま魔物がゼロになったら俺達ご飯も食べられないぞ。魔王と戦う前に飢え死にするかも」
「大丈夫ですマスター、実は微妙にポイントが増え始めています。このまま伸びればこのダンジョンは安泰なのです」
「どういう事だね、コア君」
「魔物は確かに激減しているのですが、ダンジョンの地下2階に住み着いた人達がいるようなのです。オマケにその人達は普通の人間よりも高ポイントなので滞在ポイントが美味しいのです」
「住み着いた人達? 宿屋に泊まってる人達じゃなくて住んでる人?」
コアが気になる事を言っていたので地下2階を見に行く事にした、護衛は何時ものバル子に何故かコア子まで付いて来ている。俺の護衛の為と言っていたが、美味い物が有れば食う気なのが丸分かりだった。
「一体誰が住んでるんだ?」
「尻尾の生えた人達です」
「ふ~ん、俺も子供の頃は尻尾が欲しかったんだ。有ると便利良さそうだもんな」
「そう言う問題なんですかね?」
「そう言う問題だろ? 人間の尻尾は退化したけど名残は残ってるぞ。頑張って動かそうとしたけど無理だった」
地下2階層に行った俺は3人でブラブラ歩いて周りを見てみる。地下2階層は今ではかなりの広さになっていた大体3キロ四方程かな、口で言えば大した事無いように聞こえるが実際には相当な広さなのだ。前に造った宿泊用の小部屋や食堂等は階層入口のほんの一部で、あとは広い草原が広がっているだけの空間なのだ。
「あっ、いました。あのテントに住んでる人達です」
ふむふむ、草原のあちこちにテントが造られていた、遊牧民か何かが住み着いたのかな? ここは雨が降らないから暮らし易いのだ、雑草が一面に生えているから放牧しても良い様な気がする。問題は水だな、人間用に噴水を造ってあげたけど動物を飼いだしたら足らないだろうな。
テント生活の人達は少しの動物を連れているようだから、生活空間を此処に移したのかも知れないな。まあ飽きたらどっかに行くだろうと思っていたのだが、そういう話では無い様だ。
その日の午後に獣人の代表って人が俺を訪ねてやって来た、何でも俺にお願いが有るのだそうだ。
「賢者様、ご挨拶が遅れてすいません。私獣人の代表の犬族のタロウと申します」
「よお、俺がここの主の賢者だ! 宜しくな。隣に居るのは俺の護衛だよ」
俺の目の前に頭に犬の耳、そして尻尾の生えている人間が立って居た。見た目はコスプレした人間にしか見えないが目が犬の用に丸くてクリクリしていた。そして羨ましい事に耳や尻尾が動いていた。
さてタロウの話だが、意外と重い話なのだ。最近この国では貴族による獣人迫害がひどくなって来ているのだそうだ、そこで貴族相手に逆らっている俺の所に逃げて来たっていう話なのだ。この国で貴族に逆らったら奴隷に落とされるか死罪なのだそうだ。
「それで段々増えてるのか、これは大変だぞ」
「お願いです、賢者様。我々を助けて下さい」
「助けても良いけど、俺の言う事は必ず守れよ。ルールを破れば追い出すからな、物理的に」
「ふっふっふ、お任せ下さいマスター。獣人如き直ちに蹴散らして見せましょう」
「お前は黙ってろ、話がややこしくなるから」
獣人がここに住む事は構わない、人間よりも基本的に強いのでポイントが多く手に入るからだ。だが問題が山積みなのだな、先ずこの国の貴族に目を付けられる、そして彼等の為に水や場所を造らなくては成らない、それに対応できれば毎日ポイントが入って来て俺のダンジョンにとっての資源となる。
「そんじゃタロウ、今住んでる獣人たち用に新しい住処を造ってやる、他の獣人達に移動の準備をするように言っておけ」
「有難うございます、賢者様」
「うむ、構わん。俺は良い人間だからな!」
「流石はマスター、冗談がお上手です」
「お前、それ褒めて無いからな」
さて忙しくなるな、獣人の為にダンジョンの空間を広げたり設備を増やさなくては成らない、そして多分貴族が文句を言ってくるので迎撃用の装備を増やさなくては成らないのだ。だが俺はわざと貴族に喧嘩を売っているのだ、俺は魔王と戦う為にポイントが必要だからな。彼らには俺のポイントと成って貰う予定だ。
方針が決まれば後はアットいう間に準備が出来上がった。地下3階の絶対殺す階層を地下4階の何も無い階層と入れ替えて獣人用に改造するだけだ。階層は俺の成長に合わせて勝手に広くなっていくのだが当然の用にポイントでも広く出来た、今回はその機能を使って地下2階並みに広くして雑草を一面に植えてみた。
「広くするのって大してポイント使わないんだな、地上じゃ土地を広げるのは大変なんだけどな」
「元々レベルが上がれば勝手に広くなる機能がついてますからね、でも1キロ広げるのに10万ポイントですよ、10万ポイントの魔物を召喚した方が人間の侵入を阻止出来ると思いますからお得ではないですよね?」
「そうかな~、俺は移動距離が増えるからお得だと思うのだがな」
ダンジョンコアは人間の侵入を嫌うので考え方の基本は人間の殲滅だ、対して俺は出来るだけ長くダンジョンの中に居てもらってポイントを稼いだ上で殲滅するっていうプラスアルファ狙いなのだ。まあ、他にも考えているのだが。
この階で獣人用に草を生やしたり、水場を造ったり、色々している内にダンジョンの機能を色々学べた。今までは魔物の召喚はしないし、拡張もしないでポイントを貯めていたのでダンジョンの機能について全く知らなかったのだ。それで良く今まで生きてきたな~等と思うのだが、外敵が来ないから知らないでも良かったとも言える。
「お~い、族長! 出来たど~」
「あっ、賢者様。どうなされましたか?」
「君達獣人用の階層が出来たから知らせに来たのだ、この下に君達専用の場所を造ったのだよ」
「あ、有難うございます」
何だか微妙な顔をしているタロウを見ながら不思議な顔をしていると、コアがそっと俺に耳打ちする。
「多分彼は自分が今いる所から追い出されるって思っているんですよ、だから余り嬉しくないのです」
「はあ、成程な~ そうかも知れんな。たった一日で造ったしな」
俺はしょんぼりしている獣人達を連れて地下3階層へと向かった。獣人たちは家族単位で移動している様だ、家畜を連れている家族も居たので家畜から肉や乳を採るのだろうな、遊牧民みたいな生活だな。
「さあ! 今日からここがお前らの住処だ、喜べ!」
しょんぼりして尻尾を垂れていた獣人達の尻尾が一斉に大きく振られる。そこには俺が300万ポイントも使って創り出した大草原がある。そしてサービスで何本か木も植えて空には太陽まで輝いて居るのだ。
「凄い! 凄いです賢者様」
「うお~広い~!!!」
「空に太陽が有る」
「池まで有るぞ」
「ワハハハ~! 我を崇めよ! ワアッ~ハハハハ!」
獣人達に拝まれれていい気分になった俺はまるで神か何かになった様な気分になった。うむ、良い事をすると気分が良いぜ。そしてそこの噂が広がって、国中の獣人が集まって来る様に成るのは当然の結果だった。
「タロウ! 今日からお前が村長をやるのだ。ここに獣人の村を作るが良い」
「ハハ~! かしこまりました。粉骨砕身努力して良い村にして見せます」
今日ダンジョンに獣人の村が出来た。