第19話 今度はホルムンクス
男爵の兵士との戦いでダンジョンの戦闘の実戦訓練をしようとしていた俺の計画は脆くも崩れ去った。スケルトン達を育てて分隊を造り、そして2分隊を一つにして小隊を造り小隊長を置いて等と言う現代の戦い方で圧倒的勝利を格好良くしようと妄想していたのに、バル子のお陰でスケルトンも俺も指一本動かさない内に勝ってしまったのだ。
考えてみればスケルトン全部で16万ポイント程、かたやバル子独りで2千万ポイント、値段の差が激しすぎる、彼女はダンジョンのボスキャラなのに、相手が攻めてきた瞬間に全力で雑魚キャラに向かって行って殲滅してしまった。これでは話に成らないのだ、少しは工夫とか友情とかの見せ場が欲しかったと思うのだ。
大体最近のアニメやラノベは読者受けを狙って、綺麗なネーチャンや幼気な子供が無意味に死んで話を盛り上げるのが現代の手法だと言うのにガッカリだよ。耐えて勝つって言うのが王道なんだがな~、等と意味不明な妄想をしていたのだ。
「大賢者様、男爵軍撃破おめでとうございます」
「おう、アーサーか、大丈夫だったか?」
「賢者様が男爵軍を一瞬で殲滅してくれたので、俺達は無事でした。戦いが長引けば男爵の兵士による略奪や暴行が起こっていたでしょう」
「そう言えば男爵ってどうなったんだ?」
「兵士が全滅、当主は戦死ですから、当分大人しいと思いますよ、長男が跡を継いでもここにはちょっかいを出さないと思います。そんな戦力も金も無いでしょうからね」
「マスター、お腹減った」
「またかよ、お前は何時も腹減らしてるな」
バルキリーは非常に燃費が悪い様だ、物凄く高馬力のエンジンを搭載しているのと同じだから仕方ないのだが、四六時中腹を減らしているので食費が掛かるのだ。
「あっ天使様、これをどうぞ」
「うむ、貢ぎ物か。良い心がけであるぞ人間」
「全くお前はなんでそんなに偉そうなんだよ!」
「ふっ、偉そうなのでは無いのです、実際に私は偉いのです。エッヘン!」
バルキリーのバル子は俺以外の人間を虫けらと思っていた。確かにバルキリーの戦闘力からすれば人間など虫けら同然なのだが、一応俺も人間なので人間全部を馬鹿にされると不愉快なのだ。
「あっ、マスターこの果物美味しいです。もっと沢山食べたいです」
「おいおい、芯まで食うなよ。美人が台無しなんだよ! 全く黙っていれば絶世の美人なんだがな~、食い意地が張りすぎて残念キャラになってるぞ」
素晴らしいスタイル、引き締まった顔の超絶美人。そして光り輝く鎧と背中の羽、敵を殲滅する断罪の天使、それがバルキリーなのだが。どうも癖が強すぎる様な気がする、何だか話がかみ合わないのだ、気にする事の次元が全く違うと言うか、住んでる世界が違うって感じなのだ。
「マスター、果物買って下さい。あれを沢山食べたら強くなれる様な気がします」
「今度果物の木を植えてやるから我慢しろ、ちゃんと世話をしたら沢山食えるぞ」
こうやってバル子と2人で歩いているのには理由が有る、男爵を退けた俺の最大の脅威は暗殺なのだ。兵士が何人攻めて来ても問題ないが、暗殺者が入って来て俺が狙われると非常に脆い、特に俺は強くも無いので直ぐにやられちゃうのだ、そこでバル子が俺の護衛として常に一緒に居るのだ。
何も知らない人間から見たら俺が鼻の下を伸ばして美人さんと歩いているだけに見えるって事も重要なのだ、相手を油断させてから刈り取るのは俺の得意技なのだ。
「マスター、下がって、私の後ろに隠れて下さい」
バルキリーの凛とした声が響く、同時に俺を庇う様に移動すると同時に背中から羽を出して左右に大きく広げて俺を守っている。戦闘に関してはバルキリーは超絶有能なのだ、日常を知らずに歩いている姿を見れば信者が発生するのも頷ける神々しさだった。
俺を狙って一般人の振りをした暗殺者3人、同時に俺に向かって投げられる3本の毒付きナイフ。しかし3本のナイフはバルキリーに素手で叩き落とされ同時に魔法攻撃が3人を襲う。
「愚か者共・・・・・・」
勝負は一瞬でついた、兵士100人を瞬殺するバルキリーに暗殺者3人が敵う訳ないのだ、多分暗殺者はバルキリーの強さを知らないで仕事を請け負ったのだろうな、哀れな奴らだ。
「マスター、終わりました。ちゃんと装備を傷つけない様にやりましたよ、褒めてください。装備を剥ぎ取ってお金に替えるのです」
「うむ良くやったぞバル子、今夜はスキ焼にしよう」
「やった~! このクソ虫共も最後に役に立ちましたね!」
暗殺者3人で5万ポイント入ったので、バル子にもポイントのお裾分けをすることにした。何と言ってもこのダンジョンの最高戦力なのだ、頑張って貰わなければならないのだ。バル子は強すぎて相手を粉々にしてしまうので、ちゃんと装備品を壊さない様に狩る事を教えたのだ。装備品はスケルトン軍団に使ったり冒険者に売ったりして儲けなくては成らないのだ、こういう細かい所でも努力して少しでもポイントを貯めてダンジョンの強化に努めなくては行けない。
「マスター、これなんですか?」
「それは発泡酒だ、少しフルーティーな感じがする新型だ。全部飲んで良いぞ、むしろ肉を食う前に3本位飲んでおけ」
俺はスキ焼を造りながらバル子の前に発泡酒を置いた、そのままスキ焼を食べさせると肉を全部食べられそうなので発泡酒でお腹を膨らませる作戦なのだ。
「ぷは~! 最初に1杯がたまりませんね!」
「そうか、もっと飲め! そして野菜も食え! 肌が綺麗になって美人度が上がるぞ」
「仕方有りませんね、野菜より肉の方が良いのですが。我慢して野菜も食べますね」
バル子に肉を全部食われる前に口に入るだけ肉を食っておく、もたもたしていると肉が食えなくなってしまうのだ。
「マスター、私も食べたいです。2人だけ食べて狡いです」
「そんな事言ってもコアって食えないだろ、どうするんだ?」
「私が憑依出来る魔物を出せば問題有りません」
「ゴーレムとかかな? でもゴーレムって飯食わないし、喋らないよな」
「そこでホルムンスクです。マスターの好きな巨乳の美人さんを創り出します! いかかでしょう?」
「・・・・・・イイトオモウヨ・・・・・・」
「了解しました、マスターの許可が下りましたので全てのポイントを使って創ります!」
「うわ! チョット待て! ポイント全部って・・・・・・」
「・・・・・・」
そして俺の前にはダンジョンポイント2千6百万ポイント全てを使って造られたホルムンクスが立って居た。バルキリーに負けないボデイを持つ黒髪の美人さんだ、正直言って嬉しいけど、節約に節約を重ねて貯めたポイントを全部使われたショックの方が大きかった。
「どうするんだよコア! ポイントが無くなったぞ、ダンジョンの強化が出来ないじゃん!」
「問題有りません、私はバルキリーと同等の戦闘力が有りますから」
「バルキリーと同等だったら6百万ポイント損じゃん」
「あっ・・・・・・」
ダンジョンコアの我侭のせいで又腹ペコキャラが出来てしまった様だ、2人とも見た目は素晴らしいが微妙に不安が残る、大丈夫なのだろうか俺のダンジョン。