第17話 お貴族様激オコ
貴族との話し合いは不毛だった。話し合いって訳ではなくて貴族が一方的にアレクレ、コレクレと言うだけなのだ。世の中の全ての物は貴族の物だから貴族に従えって感じだった。
「え~と、お貴族様は儲けの8割欲しいんですよね?」
「そうだ、この土地は領主である男爵様の物、貴様は儲けの8割を払う義務が有るのだ」
日本は江戸時代でも農民から4割しか税金を取っていなかったのだが、ここの領主は強欲で8割払えと言って来た。もしかしたら俺が居た世界の官僚や政治家より強欲かも知れない、まさかあの連中よりクソ野郎がいるとは新鮮な驚きだった。
「あの~お貴族様、俺は全然儲けていないのですが・・・・・・いかがしましょう?」
「何だと! 貴様私を愚弄する気か~!」
「でもね、俺は冒険者から魔物を受け取ってるだけなんですよ。魔物を8割欲しいんですか?何なら領主様の家にゴブリンやオークをどっさり持って行きますけど」
「ふざけるな! 魔物など要らんわ! 儂が欲しいのはカレーと香辛料なのだ」
「でも俺は魔物しか受け取っていないんですけど・・・・・・」
「早く香辛料を出せ! 殺して取っても構わんのだぞ!」
う~む、どうしても香辛料やカレーが欲しい様だった、早い話が強盗だな。貴族の強盗って奴だ、家まで押しかけて来て金を払えって言うのは〇HKみたいなもんだな、俺は全然テレビ見ないんだけどな。政府公認の押し売りだな、そう言えば年金制度や競馬とか政府だけはしても良いけど、平民は禁止だったな。国がやれば合法、平民がやれば違法って奴だ。
「仕方ありませんね。貴族様こちらにどうぞ、香辛料を置いてある倉庫にご案内いたしましょう」
「ふん! 早く出せば良いのだ! これだから平民は鈍くて困るのだ! さっさとしろ!」
俺はトボトボと貴族達を地下2階層に案内していった、周りの冒険者達は心配そうに見ていたが俺を助けてくれる奴は居なかった。貴族に逆らうと後がメンドクサソウなので仕方無いと思う。貴族や貴族の護衛達は冒険者や俺を見下した様にニヤニヤ笑いながらついて来ていた、大体こんな感じで平民から物や金を盗んでいるのだろうな。
「コア、今から地下2階に降りる、落とし穴に安全装置を掛けてくれ、それと倉庫の中に香辛料とカレーを大量に出しておいてくれ」
「了解です、マスター。偉く素直に貴族に従うのですね?」
「従う訳ね~だろ、俺は邪神にさえ逆らった男だぞ」
地下2階層、ここは冒険者は立ち入り禁止にしている、ここは非常に危険だからだ。階段を降りた先は何も無い石畳、草の1本も生えていない。人間に隠れる場所を与えない様にな、そしてここには大量の落とし穴が有り普通に歩くことすら出来ない、地下3階に降りるには物凄く細い道を正確に歩く必要が有る場所なのだ。
寒々とした地下3階層に降りて、貴族の使者と護衛にペコペコしながら解説する。ペコペコする俺を見て使者や護衛はご満悦な感じだった。仮にも賢者と言われている相手に頭を下げさせるのは気持ち良かったのだろうな、ふふん、チンケなプライドだぜ。精々俺を甘く見て油断すれば良い、わざわざそういう風に誘導しているのだからな。
「お貴族様、香辛料やカレーはあの倉庫の中に御座います」
「おお! あれであるか、者共、全て運び出すのじゃ!」
「あれが王都で金貨1枚になるって奴か!」
「スゲー量だな、こりゃあ俺達にも結構褒美が来るかもな!」
倉庫の中は人間達に良く見える様に明かりを付けておいた、護衛達は宝物に興奮して走って倉庫へと向かった。お~!中々走るのが早いじゃないか、でもね走ると危ないんだよね、ここ。
「コア、安全装置解除。落とし穴作動、スケルトンmarkⅡ解放」
「あっ・・・・・・」
「ひあっ・・・・・」
薄暗い中走る物だから俺の落とし穴に見事に2人引っかかった、毒薬付き逆棘が底に埋めてあるから落ちた護衛2人は簡単にポイントに替わった。
「マスター、護衛2人分ポイント入りました、2万1千ポイントです」
「な~んだ、オーク並みに弱いじゃないか。男爵の護衛程度じゃこんなものか」
貴族の護衛と言うぐらいだからポイントに期待したのにオーク並みとはがっかりだよ、もっとポイントの高い連中をよこしてもらいたいものだ、この程度の連中なら芝居もせずに問答無用でさっさと始末すれば良かったぜ。
「貴様! 裏切ったな、貴族に手をかけたら死刑だぞ!」
「知らんな~、貴族とか見た事無いしな。このダンジョンには貴族は来なかったんだよ、言ってる事の意味は分かるかな?」
「貴様ー! やれ、こ奴を殺すのじゃ」
「おやおや、後ろも良く見た方が良いぞ。俺の部下たちは凶暴だからな」
スケルトンmarkⅡが無音で護衛に迫っていた、体にスライムが巻き付いているので足音が全くしないのだ、それでいて骸骨の中の目だけは赤く光っているのだから見た目はかなり怖いのだ。今回はmarkⅡの実戦能力が知りたいので敢えて相手の人数に合わせて攻撃させている。つまり3体しか攻撃させて居ないのだ。
「なんでスケルトンがこんな所に!」
「賢者が何故スケルトンを使役してるんだ」
護衛や貴族もここが普通の洞窟では無い事に薄々気が付いた様だ、今までは何でも賢者の凄い魔法って誤魔化して来たのだが、アンデットを使う賢者は居ないので当然バレた様だ。
「貴様、賢者では無いな。何者だ」
「ある時は一つ、また、ある時は・・・・・・あっチョット!」
俺がカッコ良く台詞を言って名乗ろうと思っていたのにスケルトンmarkⅡがあっという間に3人を切り殺してしまった。魔物だけに全然空気を読まない連中だった、まあ仕方ないね血も涙も無い連中だからね。
「3人の死亡確認、3万ポイント入りました」
「すげ~雑魚だったな、まあ良いか。装備ははぎ取ってmarkⅡ達に使う事にしよう」
1階層に戻った俺はいつも通り普通に生活した、冒険者達も地下に降りた貴族や護衛達が再び上がって来なかった事を聞くものは一人も居なかった。この世界では簡単に人は消滅するものなのだ、特に俺は偉大なる賢者なので何でも有りだと思われていた。
「賢者様、またまた貴族の使いが来てますよ」
「またかよ、しょ~がね~な」
先日来た5人は美味しく頂いたので、又もや男爵の手下が香辛料をよこせと言って来た。勿論俺は適当に嘘をついて誤魔化した。
「先日の方に手持ちの香辛料とカレーは全て渡しました」
「何だと、こちらに届いておらんのだぞ!」
「そう言えば・・・・・・護衛の方がギラギラ光る眼をしながら、『これを王都で売れば大儲け出来るな』等と申しておりましたです、はい」
「何だと! そのような事を・・・・・・もしかして・・・・・・」
「当方では全ての香辛料をお使いの方に渡したので在庫は有りませんです、はい」
「・・・・・・う~む、仕方ない!」
こうやって適当に男爵の使者を追い返していたのだが、流石に何時までも騙せるものでは無かった。なにせ普通に冒険者相手に商売をして、香辛料やカレーをバンバン交換しているのだから。
「大変です!賢者様。男爵が攻めてきました! 逃げて下さい」
「ハハハ、やっと気が付いたのが阿呆共が、俺様の強さを見せてくれるわ! アーサー、冒険者や商人達を避難させろ、俺はここで戦う」
「それじゃ俺も手伝うっす、賢者様には借りがありますから」
「気持ちは嬉しいが、お前が居ると本気を出せないんだ、避難してくれた方が有難い」
「分かったッス、賢者様の魔法なら男爵なんてイチコロっすよ! 頑張って下さい」
「おう! 任せとけ」
こうしてダンジョンマスター対領主軍の戦いが始まる。アンデットの軍勢と落とし穴で戦う姿は賢者っぽく無いので冒険者に見せたくなかったのだ。