プロローグ
「杉山君。今日で契約終了だね。お疲れ様!」
何度目の契約終了だろうか。
もう出社する事もない派遣先を出て駅へと向かう俺の足取りは重い。
派遣先が事業縮小により、1年勤めてきた俺はあっけなく契約終了となっていた。
正社員になれると聞いていたが儚い夢となってしまった。
高校は16歳で退学。大人達には何を考えているのかと言われたが、やりたい事があると言って突っぱねた。本当は何もやりたい事など無かった訳だが。。。
その後はアルバイトと派遣社員をしながら適当に生きて来た。仕事先や周りの友人には
「学歴だけが取り柄の奴らには負けねぇ!」
なんてかっこつけていたが、現実はそんなに甘くない。
手に職を付ける訳でも同じ所で長く勤める訳でもなく、ただ何の目的もなく時間を無駄にしてきた。
32歳にもなって職歴はアルバイトと派遣社員のみ。学校も高校中退。人生詰んでるわこれ。
流石に焦りを感じていたが、解決する術も努力も出来ないのが俺という人間がダメ人間である事がよく分かる。
ふわふわとした気持ちのまま歩いているといつの間にか自宅が32年間暮らしている自宅へといつの間にか"着いてしまって"いた。
自宅に入れば間違いなく言われるであろうセリフが嫌でも頭に浮かぶ。
ガチャッ!
いつもよりも大きな音で扉が開いた気がする。
「亮太おかえりなさい、仕事はどうだったの?」
母からの言葉に返答に困ってしまう。
「どうしたの?」
「あぁ...実は派遣期間が終了してさ...明日からはまた仕事探さなきゃいけないんだ...」
「あなた32歳にもなって何をしているの?!大体高校辞めてなければこんな「分かってるから!本当に申し訳無いと思ってる!父さんにも夜話すから少しほっといてくれよ!」
そう口に出すと自分の部屋へと閉じ籠る。
「情けねぇなぁ...」
誰かいる訳でもない部屋で思わず一人ぼやいてしまう。
こんな年齢にもなって親の保護下にあるような状況は決して自分でも良いと思っていない。
自分ではどうしようもないクズだと分かっているのだ。高校を出て、大学に行くにしろ就職するにしろ今とはまた違った人生となっていたはずだ。ちゃんとしてれば今頃結婚して子供だって...
「あぁ!もうこんなくだらないこと考えるのは辞めだ!」
若くもない学歴も職歴も無いような人間にまともに働ける環境がある訳がない。仮に働けたとしても能力の無い奴から偉そうにされるのはたまったものではない。世の中のシステムが自分を働けなくしている。そう世の中が悪いんだ.........
コンコン!ガチャ!
誰かが部屋に入る音で目が覚める。
くだらない事を考えていたらいつの間にか寝ていたようだ。
「なんだ寝てたのか」
父の声がやけに大きく聞こえた。
「母さんから聞いたぞ。仕事契約期間終了になったらしいな。次はどうするんだ?」
「どうするもこうするもないよ、次の仕事先を探すさ」
「探すって何か当てはあるのか?」
「求人誌とかネットとかで探すよ」
「...お前本気で探す気があるのか?もし俺がお前の立場なら寝る事なんかせずに仕事探すぞ?大体にしてお前のやりたかったというのは何だったんだ?」
「...」
父からの言葉に何も反応出来なくなってしまった。
「...まあいい、とりあえず明日電話とか出来る様に仕事探ししとけ、このまま行ったらまともな人生送れんぞ」
「...わかってる」
「求人誌貰ってきてやったからみておけよ!」
バタン!!
父が強めに扉を閉めてまた部屋に一人となる。
「死にてぇ...」
現実を突きつけられ最早何も思考する事は出来ず、ただただ自分の不甲斐なさを呪っていた。
次の日になっても仕事は見付かっておらず、電話も出来ないでいた。
パラパラと求人雑誌を眺めていたが、良さげなものは見付からず読むのを辞めてしまっていた。
取り合えずと思い、今度はPCを立ち上げ求人を探し始める。すると一つの求人が目に止まった。
『派遣社員募集中!寮完備!高時給!※派遣後希望者は確実に正社員雇用となっております』
これだ!そう思い俺は記載されている電話番号へ電話を掛けた。
「プrッガチャ!」
出るのはやっ!
「お電話ありがとうございます。ディフェントワールドです!」
「あの~...パソコンで寮完備、高時給の求人を拝見したのですがまだ応募可能でしょうか?」
「はい!まだ募集しておりますので大丈夫ですよ!お名前と住所を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
やった!まだ応募出来る!
「名前は杉山亮太です。住所は...」
「ありがとうございます!では早速お会いして詳細お話し出来ればと思いますので、お時間いつ頃ならご都合よろしいでしょうか?」
「あ、今すぐでも大丈夫ですし、いつでも空いていますので合わせます」
「では、一時間後に弊社までお越しください!場所は...」
ガチャッ!
30分後着替えを済ませた俺は勢いよく部屋の扉を開けた。
「母さん!仕事見付かるかも!ちょっと面接に行ってくる!」
「まあ!良かったじゃない!しっかりやるんだよ!」
「じゃあ!行ってくる!」
気分も昨日とは打って変わり足取りも軽やかに目的地まで到着した。
「ここだな...?」
『株式会社ディフェントワールド』
スゥー...
自動ドアを開けると受付の受話器が見えた。
「プrッガチャ!はい!受付です!」
電話も早かったけどこっちも早いな。
「あ、すみません。私杉山亮太と申しますが本日面接にお伺いしたのですが...」
「杉山様お待ちしておりました!右手のドアにお入り下さい!」
「はい。ありがとうございます」
受話器を置き指示されたドアを開ける。
ガチャッ!パタン...
部屋に入ると目の前には女性がいた。
「杉山様、本日はご足労頂きまして誠にありがとうございます、担当の佐藤と申します」
「あ、よろしくお願いします」
「ではご案内致します」
担当の佐藤について行くと小さな部屋へと通された。
「ではこちらにお座り下さい」
「失礼します」
無駄に面接の経験が多い為緊張もせずにいられた。
「では、改めまして本日はご足労頂きまして、誠にありがとうございます、弊社の求人を見て頂いたという事ですが、こちらの内容でお間違いないでしょうか?」
見せられたのはPCで見た求人内容だ。
「はい、間違いありません」
「ありがとうございます、では、求人について詳細をお話しする前にこちらの同意書にサインを頂いてもよろしいでしょうか?」
なんだこのページ数の同意書は...
求人の取扱いについての同意書と書かれた紙には20ページ以上にも渡り注意事項含め書かれていた。
こりゃ全部読む気にはならないな...
困っていると心を見透かされた様に佐藤から説明が入る
「正直長すぎて全て読む気にはならないですよね?皆さんそうですし、私が同じ立場ならそう思います、なので簡単にご説明致します」
そういうと紙をめくりながら説明していく。
「簡単にご説明致しますが、そもそもこの求人自体が機密度の高い求人となっております、ですので情報漏洩となりますとクライアント様にご迷惑が掛かってしまう可能性が高い為、簡単には業務詳細をお教え出来ない決まりとなっております」
信用を貰う為にそうしているという訳だ。
「色々記載してありますが、詰まる所業務詳細を誰にも話さない事と詳細を聞いてからやっぱり辞めますというのは出来ない旨を承諾頂きたいのです、一度派遣先に行って頂いた後に合わないから辞めたいというのであれば途中退社も可能です」
聞いてから辞めるのは無しで、途中退社はあり?違いが分からないが辞める事が出来るならまあいいだろう。
「分かりました、サイン致します」
「ありがとうございます、ではこちらにお願い致します」
指示された箇所に自分のサインを書いた。
「ありがとうございます、では早速詳細につきましてお話しさせて頂きます、派遣先は惑星レイにあるオルデン王国に行って頂きます、そこですぎy「ちょっと待ってください!意味が全く分かりません!」
「初めて登録される方は皆さんその様な反応をされます、ご安心下さい!高時給ですし寮も完備しておりますので安心して働けます!」
「いや!そうじゃなくて惑星?!王国?!何のお話をされているんですか?!馬鹿にしているのであれば帰ります!」
人の学歴職歴を見て馬鹿にしているのだろうとしか思えない話だ。浮かれていた自分が恥ずかしくなる。
「そういう訳にはいきません。こちらの同意書にサインを頂いてます。もう杉山様は行く事しか出来ませんので...」
「!!!」
冗談じゃない。どう考えてもおかしな話だ。何という詐欺会社に俺は来てしまったのかと心から後悔していた。
「最後までお聞きください、もう一度お話ししますが、惑星レイにあるオルデン王国へ行って頂きます、期間は杉山様ご自身の頑張りで決まります、そのままそちらの世界へ移住する事も可能です、一度だけではありますが地球へ戻って頂くお時間もございます、何かご質問はございますか?」
「...命の危険はあるのか?」
もう敬語など使う気にもなれなかった。
「もちろんございます!でもご安心下さい!向こうで死んでしまった場合はこちらで死ぬような事にはなりませんので、ただし、心までは回復する事はありませんので死んでしまった時は諦める方がよろしいかと思います」
「ははは...」
終わった...。
俺の人生は既にこの詐欺会社によって潰されたのだ。
「あ、一つお伝えし忘れましたが、こちらの求人を見れたという事はある意味救いと考えた方がよろしいかと思いますが」
「どういう意味だ?」
「こちらの求人に関しては、この世界に絶望した方しか見る事が不可能となっております、ですので新しい世界で人生をやり直すと考えるのであれば、大変有意義なお時間を過ごす事も出来ますし、正社員として雇用される可能性も高いです、杉山様が望まれるもの全てが手に入ると考えて頂いてもよろしいかと思います」
確かにそうだ。俺はもう人生に諦めが出ていた。俺自身が悪いとはいえ楽しくない人生を送っている。それなのであればこの話に乗っかってみるのもいいかなと思い始めていた。
「...それで?いつからなんだ?」
「はい!今からとなります!」
「へ?」
「では!よろしくお願い致します!」
「ちょ!ちょっと!」
「ご両親には杉山様のダミードールにて調整をしますのでご安心下さい!では、いってらっしゃいませ!」
ご安心出来ねぇよーーーーーーーーーーーー!!
そのまま意識が無くなっていった...。