プロローグ
息を殺す。
誰にも見つからないようにマンションの中へと入って行く。
大丈夫。いつも通りにやればいい、リサーチは完璧だこの日は近所の人間も出張っていて誰もいない万が一にも失敗することなんてあり得ないんだから。監視カメラの死角を通って目標の階へと階段を使い上がって行く。
そして目的地である部屋へとたどり着いた。手慣れた様子でバックからピッキングツールを取り出し鍵開けを始める。最近の鍵は開けるのが多少面倒だが一度コツさえ掴んで仕舞えば、
ガチャリ
と音を立てて扉が開く。
そのまま静かに扉を開け中に入る。
順調だ。後は目的の物を見つけるだけだ。
興奮が抑えることが出来ずに、思わず口角が上がる。そのまま寝室と思える部屋へと向かう。中へと入り、辺りを見回す、部屋の中はとてもいい香りがする。思わず中で何度か深呼吸をしてしまったが、急いで目的の物を探す。そしてシンプルな白のチェストを見つける。
ゴクリ、生唾を飲み込む。
チェストを開けるとそこには、男達の理想郷が広がっていた。様々な色、デザインの下着が沢山閉まってあり思わず手を伸ばし、そして下着を顔面に装備する。甘美な香りに思わず脳がとろけそうになる。
・・・しばらくして、今日は絶好の洗濯日和だという事に気付く。ベランダへと向かい、干されている下着を盗みに行く。そして下着に手を伸ばそうとした瞬間、ふと気配を感じ隣の部屋を見る。
そこには、隣のベランダへはリサーチ通りなら、今頃商店街のパートに出ているはずの女性がいた。そして、今の自分は顔面下着を着けてなおかつ干されている、下着に手を伸ばしている状態だ。当然、
「きゃぁぁぁ!?下着ドロボー!!」
こうなる。慌てて干された下着を毟り取り、下着を沢山詰めた鞄を持って走り去る。エレベーターなど使わず全力で階段を降りる。
急がないとまずい。この近くには交番がある。通報でもされればすぐにでも追いつかれてしまう。逃げ足には自信があるが、逃げ切ったとしても捕まるかもしれない。完璧な計画だったのにたった一つのイレギュラーで総崩れになってしまった。どうして俺の人生はいつもこんな残念なんだ!!悪態をつきながら急いで、マンションから離れる。
しばらくして、パトカーに乗った警察官が周りを調査しているようだった。
非常にまずいこのままこのバックを持っていれば確実に逮捕されてしまうだろう。・・・だが変態にも意地というものがある。なんとしてもこの宝を持ってかえる!!
警察をやり過ごそうとしてその道を進む。だが警察もそこまで無能ではない。
「すみません。あの〜もしよろしければそのバックの中を拝見させては貰えないでしょうか?」
50歳くらいだろうか?老人警官が声をかけてくる。平常心を保って、
「えっと、どうしてですか?」
「この付近に下着泥棒が逃げたらしくて。最近多いんですよね、しかも痕跡を残さないときたとても厄介なやつなんですよ。それでここら辺の人には道具検査を受けてもらっているんですよ。」
「いや、でも中は高校で使うノートくらいですから。」
「なら、見せてもらえないでしょうか?」
「いやいや。大丈夫ですから、ほんと大丈夫ですから男子高校生が下着ドロボーとかするわけないですから。」
やばいやばい。どうしよう!?・・・どうしよう!?考えら考えろ。
そうこうしてると警察官は
「いいから中を見せなさい!!」
鞄を引っ張られる。その表紙に中身が飛び出る。一瞬の沈黙の後、
「その男を捕まえろ!!」
パトカーに乗っていた若い警察官も出てくる。たまらず、ガードレールを超え逃げようとする。焦っていたせいで俺は全く気付かなかったのだ、自分に迫ってくる大型のトラックにそしてそのままトラックに吹き飛ばされ、アスファルトへと叩きつけられる。
目の前が真っ暗になる。即死できなかったらしく、全身から激痛が走る。本当、何をやってもダメな人生だった。そう思って意識を手放そうとする、だが奇跡は起きたなんと目の前に先ほど飛び散った下着が一枚風に飛ばされて来たのだ。最後の力を振り絞り下着へと手を伸ばす、もう警官や周りの人間の悲鳴などは聞こえないただ死力を尽くし下着を掴む。
「ぱん・・・・つ。はなさ・・・・な・い」
そうしてそれが最後の言葉となり俺は永遠に意識を失った・・・失うはずだった。
起きろ!起きるのだ!!
男の声が聞こえてきて目を覚ます。
目を覚ますと見知らぬ白い空間に立っていた。どこまでも続く、白、白、白、まるでさっき掴んだパンツのようだと思っていると、
いい加減にこちらを見ないか!!!
とてつもなく大きい声が聞こえて、後ろを振り向く。
そこには10メートルほどは、軽くあるであろう翼を持った老人が立っていた。