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8.発病したヒーローは秘密にする

2人揃って中二病を発病していた晶と優希であったが、流石に休みも明けて学校が始まると少なくとも表に出さないくらいには症状は治まっていた。


しかし、中二病というものはえてして罹患した者の心に無かったことにしたい過去として深い爪あとを残していくことが多い。事実、今回も2人の心に深い傷を残していた。残してはいたが、晶の場合は表に出さないが、自らが変身する、ということもあって優希よりは症状が重篤であった。


『晶、君たちの常識で語れば変身をするというのはあまりに非常識極まりないことだ。故に、己がそうであることは誰にも話してはならぬ。君たちの常識の話でもあるし、奴らの目標を分散させぬためでもある。そのこと、努々忘れる出ないぞ』


彼が家を出る前にバードキャプターに言われたこの言葉は症状を一気に重篤なものへと加速させたのだった。


世のヒーロー作品においては、そのヒーローでなければ戦えない理由が与えられる。往々にしてその理由というものは中二心に溢れたものであることが多い。また、それでいて巻き込まれ型の主人公が多いのも特徴である。


そして、晶のケースは疑いようもなく巻き込まれ型の主人公で、自分だけが好きな女の子を守ることができて、他に被害を広げないために正体を知られてはならぬという。


もしもこれで滾らないというのならば、そいつは間違っても中二病患者ではないだろう。


(俺じゃなくちゃ駄目なんだ)


当然、晶は滾っていた。しかし、それを誰かに知られてはならない。実に難しいミッションだ。


そんなことを思っているのは晶ぐらいだが。


優希にしても、バードキャプターにしても知っているのだが、普段の郷土LOVEな晶は大体そんな感じだ。普段よりも少しばかり興奮の度合いが強い程度にしか見えないのだ。


だからこそ、本人が一生懸命に堪えようとしている姿は普段の姿を知っていると滑稽でしかない。


「おい、晶。お前、急に色気づいたのか?」


と、友人の美甘は登校して晶の姿を見るなり言った。


美甘からすれば溢れんばかりの郷土愛を、これでもかと溢れさせていた晶が日常であり、それがない、となれば何か大きな変化を疑う。


この場合、好きな相手にアプローチをかけているか、付き合い始めたと捉えられてもおかしくはない。


そして、その解釈はあながち間違いでもない。


好きな相手と長時間一緒にいる口実を手に入れ、好きな相手を守るという栄誉に与ったのだ。正解ではないが間違いではない。テストならば少々減点がされる程度だろう。


「色気づいたって何だよ。俺が一体どこの誰に対して色気づくってんだよ」


バレバレであるにもかかわらずあくまでしらを切る晶。バードキャプターの件が無くても優希に気があるのは周知の事実である。公認バカップル状態であるが、晶のキャラクターが足を引っ張り、普通に可愛いという評価が下される優希を狙う者から辛辣な評価を下されている。


一方で、女子側からは面白そうだからくっつけ、という意見が占めている。


以前、優希が言った内容は女子に睨まれるからではなく、晶が男子から叩かれるから、である。2人ともそれくらいには自分を客観視できている。


「今更隠すなよ。普段からあんなの見せ付けられたら、俺は羨ましいなんて思えねえよ」


それはそうだろう。休み時間、放課後などは大体一緒にいて郷土ネタで語り続ける。そんなディープでいて微笑ましい光景を見せ付けられればそんな気持ちにもなるだろう。


「相手も絶対気があるって。押せよ、押せ」


このリア充が。


晶はこの友人が他校生の幼馴染とずっと付き合っていることを知っている。押せって、何を押せというんだ。


取り敢えず、物理的に押せ、ではないと理解している。


しかし、美甘はある意味にあっては物理的に押すことも含めていた。押し倒す、という意味で。


「ま、ホームルーム始まるし、後でゆっくり聞かせろよ?」


「だから何をだよ」


いい笑顔で自席に戻る美甘。一方で晶は自分がトイレに行きそびれたことを理解した。


(畜生)


図らずも、1週間前に自身がしたことを仕返しされる形となったのだった。



























昼休み。


早々に部室に駆け込もうとしたところで晶は美甘に捕まった。


「よう。どこに行くんだ」


既に質問ですらない。つまり、どこにも行かせない、という意思表示である。


「俺は部室に行くんだよ」


「なるほど。つまり、部室で人目も憚らずにいちゃつくんだな」


晶は思う。この友人は何が何でも自分を優希とくっつけようとしている、と。


付き合えるようになればそれはそれで嬉しいのだが、その切欠が目の前の友人であるというのはどうにも納得がいかない。


「付き合ってないから。ただ、今年が時間をかけて活動発表作れる最後のチャンスだから取材とかの予定決めたりとか、打ち合わせしなきゃいけないんだよ」


これは紛れも無い事実だ。たとえ、一緒にいるために作り出した口実であったとしても。


「ちっ、何だよ。真面目かよ」


「悪いかよ。俺だって必死なんだよ」


その必死さが見てて痛いんだよ。美甘はそんな言葉を呑み込んだ。


いつも晶は必死だった。必死で郷土愛を叫び、必死で鳥取に残る術を求めていた。あまりに必死だったから。だから見ていられない。


そんな晶から必死さが薄れるのが優希と語り合っているときだった。純粋に郷土を愛する者同士として語り合う姿は楽しそうで、微笑ましかった。


だから付き合えばいい。そう思っていた。


「でも、今のままでいいなんて思ってない」


去り際、晶はそう言い残して行った。


「自覚と決意だけはあったんだな」


見送る美甘は感心しながら言った。


少なくとも、変わっていく気持ちがある。そのことに安心を抱き、できることなら、それがいい方向に進めばいい。素直にそう思えた。



























この日の部室は静かだった。


いつも晶と優希が揃えば郷土愛でマシンガントークが展開され、賑やかなのだが、この日、部室のテーブルには参考書が広げられていた。


「取り敢えず、これ使ってみてよ。私がこの前まで使ってた問題集なんだけど、解答の解説が分かりやすかったから、いいんじゃないかな」


「書き込みとかはしてないんだ」


「うん。繰り返しで使えないと意味がないから。そういうのは解答を書いてたノートにしてるの」


だからカンニングは無理だよ、と言葉にしないまでも伝える優希。


そんなつもりじゃなかったんだけど、と思いながら晶は問題集を手に取る。


少なくとも、まだこの胸に秘めた想いは秘密にしていよう。


この問題集を自力できちんと解けるようになるくらいまでは。

美甘くん、再登場。気を抜いたのかシリアス風味になってますね。


尚、当作品の苗字は実際に鳥取県にいる、多い苗字で構成されています。私の住んでいる地域には足立や松本がたくさんいますし、別の地域に美甘さんがいるのも確認しています。

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