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7.変身したヒーローで発病しろ

名乗りを終え、醜女に向かって駆け出す。


「ナイフサーディンッ!」


叫んで両腕を広げる。


その後方で優希がスマホ画面をタップする。


「転送っと」


タップされたナイフのアイコンに赤字で使用中の文字が表示され、実体化したイワシ型のナイフがバードキャプターの両腕に装備される。


因みに、ナイフと言っているが、刃渡りは長く、40cm近くある。短剣、と呼んで差し障りはないだろう。


「カニーヒェン・クーゲルッ!」


本来の用途は蹴り技ではあるが、キック力強化を地面を蹴る方向に用いることで瞬間的な加速を得ることができる。それにより一息に接近し、勢いのままに前に向かって跳躍、空中で体を回し両のナイフで醜女を斬りつける。


切られた部分からは砂が溢れ、体は仰け反る。


バードキャプターはその勢いを着地と同時に体を醜女に向かって回転し正対することで殺す。


「流石に、元々考えていた用途からずれてるから難しいか」


ナイフサーディンは斬ったり、突いたりするのは本来の用途からはややずれている。モチーフのイワシは境港市で大量に漁獲されていた、という点が重要である。


「というわけで、だ」


溢れた砂から醜女が生成されていく姿を見ながら内心で好都合だ、と思いながらバードキャプターは本来の用途のためにナイフを構えた。


「インクリース・スロゥ!」


大量に漁獲されていたイワシは、増殖するという形で反映され、大量に増えたナイフは一斉投擲されるために使用された。さらに、ナイフは手から離れて尚増殖を続けている。


晶が銃や弓といった射撃系装備を考えていなかったために線や面、特に面を制圧できる攻撃がなく、物量で迫られれば対処が難しいということから考えられたものである。


これをカニーヒェン・クーゲルを上に向かって使用した場合は空中からの爆撃じみた攻撃がなされることになる。


ナイフで針の山のようにされた醜女は砂を溢れさせることなく風に巻かれるようにして散っていった。


「よっし」


ガッツポーズを取るバードキャプターだったが、その先で新たな醜女が出現していた。


やや距離がある。


「だったら!」


駆け出すバードキャプター。カニーヒェン・クーゲルを使わずとも、本来であれば十分な加速を得られる。


そのまま次なる武器の名を叫ぶ。


「ランツェ・シュバーン!」


コハクチョウの槍はその腕に収まり、次なる力をバードキャプターに与える。


「貫けッ!」


槍、という特性上、突進力に特化している。そのため、一直線に加速する能力を有している。ナイフサーディンのインクリース・スロゥ考案前に唯一、線での制圧能力を有していた武器でもある。


特に技の名前を有しているわけではないが、この槍そのものが必殺と呼んで差し障りない能力を持っている。そういった意味では、ランツェ・シュバーンとは武器の名前であり、技の名でもあった。


当然、そのようなものの直撃を受ける醜女が無事で済むはずもなく、この一撃をもって散ってしまった。


『ふむ。これで仕舞いのようだな』


意識体であるバードキャプターの言葉によってこの戦闘の終結が宣言され、晶は自分のスマホを取り出し、バードキャプターの顔をタップし、変身を解除した。


「ふぅ、何とかなったぁ」


溜息とともに肩を落とし、安堵の表情を見せる晶。


『随分と余裕があるように見えたが?』


「違うよ。余裕がないから一気に畳み掛けたんだよ」


相手に何もさせずに一気呵成に叩く。速攻、奇襲の鉄則である。今回は上手く嵌まったが、今後もこうであるとは限らない。


そして、晶自身、これに慣れるのがいいことにも思えなかった。


思えなかったのだが。


(でも、俺が戦って松本さんを守れたんだよな。手伝ってはもらってるけど)


好きな子を自身の手で守り抜く、という一大イベントを経てヒーローとしての自分に全能感が生じたのも事実だった。


(俺だけが、あの子を守れるって。あ、やばい、これ)


自覚はあったが、これは間違いなく。


(中二病、発病してるね、あれ)


優希にもばれてしまうほどに分かりやすく発病していることがばれる晶だった。



























休日であり、文化部であるために活動もない晶達はお互いが一緒にいる大義名分を得るために図書館での勉強という理由を得ることはできていたが、それ以外で一緒にいる口実を見出せないでいた。


一緒に食事に行こうにも、お互い、家族に食事が要らないとは伝えていない。


買い物に出かけて知人に見られようものなら恥ずかしさで死ねる。


かといって、がり勉になれるほど勉強一本にのめりこめない。


「どうしようか」


呟いた優希自身、大人しく家に帰る以外の選択肢以外を見出せないでいた。適当にどこかに行って、偶然を装って同じところに行ってみるなどしようものなら、間違いなく晶はストーカー認定を受けることだろう。


『ならば、君たちの部活動を休日でも活動できるようにすればいいのではないかな。ほれ、秋の学園祭用の素材集め、という名目も立つだろう』


それはまさしく天啓であった。与えたのが付喪神であったとはいえ、神からの啓示に違いはなかった。


そう、真実なる大義名分、部活動を手にしたのだ。これまでは休日は活動していないが故に選択肢としては除外していたが、活動すればいいのだ。少なくとも学園祭までは一緒にいられる。


それに、受験も控えている以上、そんなに長くはヒーロー稼業を続けられるとも思わない。


「神よ!」


おそらく、これも正しい。相手は神で間違いはないのだから。


『うむ。崇めるが良い』


画面の中で尊大に胸を張るバードキャプター。そのうちスマホが神棚に備えられそうな勢いである。


『して、どこに行く? おそらく、我らが彼奴らの侵攻の標的となっているのでな、どこでもかまわぬぞ』


その勢いのまま、とんでもない爆弾を投下する。


「「え?」」


2人してギギギ、と油の切れたブリキ人形のような音がしそうな感じで画面を注視する。


『間違いなく、県内であればどこにでも出てくるであろう。だから、好きなところに行くがよい』


2人ともが思う。違う、そこじゃない、と。


『ふむ。我らが侵攻の標的である、という点が斯様に気になるか』


当たり前だ、という言葉は何とか呑み込んだ。


『単純であろう。社に仕える者については流石に手を出せぬ。しかし、社に仕えずして彼奴らに抗ってみせる我らは非常に不快であろうよ。ならば我らから排除するのは道理ではあらぬか?』


つまり、神社に勤める神主や巫女さんなどは神社の中にいるからダメ、外にいる自分たちなら神社の中にいなければオッケー、的な理論であるらしい。


呆気に取られる2人だったが、自分たちの戦いの理由を思い出し、迷いを振り切る。


この愛する郷土、鳥取県を守り抜くために戦うのだ。ならば、どこにいようとも、その挑戦は受けて立つ。


今度は、2人同時に中二病を発病したのだった。

晶の迷い、戸惑いは中二病の発病によってうやむやに。

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