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5.定義したヒーローと語ろう

公園で諸々の設定を済ませた晶達だったが、いい加減日も暮れてきていたので解散し、それぞれの家に戻っていた。


戻ってはいたのだが。


『晶よ。出来ることならもう少しばかり優希も含めて語り合いたいのだが』


と、バードキャプターが仰せになるので、無料通話アプリ『スレッド』で短文を送っていた。


「えーと、彼が話し足りないそうなので、付き合ってくれると助かりますが、どうでしょう、と」


口に出したそのままを送り、内心ドキドキする気持ちを表に出さないようにしながら返事を待つ。


晶としては、優希のことは気になるものの、今まで部活関係以外で連絡をしたことがないため、見る人が見たら引くくらいには動揺していた。


好きな子に勢いあまって連絡してしまった、というパターンである。因みに、作者にもこの経験はある。


暫くして、スレッドの通知音が鳴った。


恐る恐る確認すると、優希からの返事だった。


【いいよ】


短いが、それは晶にとっては初のプライベートでもらえた連絡だった。それだけでも晶としては嬉しかった。


【でも、バードキャプターさんはどうやって会話に混ざるの?】


続けて来る。


【これでどうだ】


晶が操作していないが、勝手に画面に文字が表示される。


もしかしなくてもバードキャプターが打っているが、これでは誰が文字を打っているかわからない。


【足立:こうすれば区別できる?】


【大丈夫。でも、バードキャプターだと長いよ?】


【BC:ふむ。これでどうだ】


【松本:ついでなので便乗。分かりやすくなったね】


付喪神のくせに英語が使えるんかい、と突っ込みそうになる晶だったが、それ以前にスレッドを使いこなしていることに気付き、もう何でもありなのか、と諦める。突っ込む気力も湧かなかった。


しかし、事情も説明され、あれだけ設定やらについても語り合い、今更何を話すのだろうか、などと晶が考えていると画面の中のバードキャプターが晶に向かって親指を立てているのが見えた。


(こいつ、全部気付いてやがる!)


つまり、晶の恋のお膳立てをしてやろうといいうのだ。なんて出来た付喪神なんでしょう。


【BC:今後のことを思えば、できれば行動をともにしていてほしいのだが、朝は何時に家を出ておる?】


なんてファインプレー。実利と願望の両方を兼ね備えた素敵な質問。だが、出来るならばその質問は自分でしたかった、と晶は悔しがる。


【松本:大体7時50分くらいかな。でも、いつも途中で友達と一緒になるからあからさまに合流するのは難しいよ】


「畜生」


思わず悪態を吐く晶。


【BC:だが、同じ部活で仲も良いのだろう。晶が早起きをして、会えたという体で話を進めればよいのではないか?】


これくらい自分でやれ、という視線を向けるバードキャプター。一方、晶は出来るんならとうにやっている、と内心でむくれる。


【BC:それに、普段から郷土談義以外でも盛り上がっているだろう。今更何を気にする】


バードキャプターからすると、これだけの郷土愛を持っているのだから、晶の周囲からの受けはいい、と思い込んでいる節があった。


だが、現実はそう単純ではなかった。


【足立:いや、BCさんよ。俺だって流石に自覚くらいはしてるよ。郷土LOVEが行き過ぎて周りから軽く引かれてるってことくらいはさ】


高校生くらいになると熱心にはまっているものを周りに曝け出すのは勇気がいる。無条件に何かが大好き、と表現するのが恥ずかしいと考えてしまう年頃なのだ。


そして、それができる人種は多くの場合、オタクと呼ばれる。晶の場合、誰の目から見ても立派な郷土オタクだった。


一方で、優希の場合は女子ということもあって、コミュニティに属するために普段はその辺を控えめにしている。他の友達も優希が郷土LOVEな人種であることくらいは知っているが、晶ほど表面に出さないのでそれなりの付き合いを維持できているのだ。


【BC:何故に自らの郷里を誇って他人から蔑ろにされねばならん。それは素晴らしいことではないか】


だが、2人分の郷土愛を受けて生まれたバードキャプターには分からない部分でもあったのだろう。誇るべきことを誇り、何故、周囲から引かれるのか、と。


【松本:しょうがないよ。皆、都会に出たい、地方にいたくないって考えてるから。あと、家を出たい、とか】


この文面を見て、晶は思わず画面から目をそらした。


地元から出たくないのに、出なくてはならなくなるかも知れない現状。それを考えると、情けなかった。先のことを学ぶにしても、学ぶ場所が少ない。今、学びたいことを学ぶための場が近くにあるのに、自分の力ではそこに届かない可能性。


そんなことを思い、あまりに情けない、と考えてしまったのだ。


【松本:でも、一緒に歩いてなくても、近くを歩いててもいいんじゃない?】


【BC:ふむ。そうだな】


晶の想いなど知ったことではない、と言わんばかりに話は進む。


【松本:そういえば、足立君は進学はどうするの? あんまりこういう話したことなかったよね】


したことがないんじゃなくて、しようとしてなかったんです。その言葉胸の奥に仕舞い込んで、答えを考える。


素直に学力の話をして県外を検討するか、見栄を張るか。


『見栄など張ると碌なことにならぬぞ』


それまで文章のみで会話していたバードキャプターが唐突に声を発した。つまり、これは優希には聞こえていない、ということだ。


「わかったよ」


中二病に罹患していることを暴露された以上、今更恥ずかしいこともあるものか、と自棄になったことも含めて晶は正直になることを決めた。


【足立:正直、やりたいことを考えたら県内は学力が足りないんだ】


ここで一度切って、続きを打つ。


【足立:県外やむなし、かなって】


【松本:そうなんだ】


【足立:勿論、ちゃんと努力はする。するよ】


これは晶にとっても丁度良かった。


言葉にしてしまえば。こうして形にしてしまえば。自分を縛れる気がしていたから。


【足立:俺、鳥取を出ても絶対Uターンするから!】


これだけは必ず達成する。そのために、ここに形にしたのだから。


これは、紛れもない晶の決意だった。



























「で? 何となく分かってるけど、どうして急にあんなことしたんだよ」


話も終わったところで、晶はバードキャプターに訊いてみることにした。


『お主は少々どころか、非常にシャイだのぅ。好いたもんにくらい素直になったらどうかと思ってな』


「俺、この気持ちは伝えないままでいるんだと思ってたんだ」


晶にとって、オタク分類されている自分は誰かに告白などできないと思っていた。誰にだって分かる。オタクはスクールカーストの中でもかなり下に位置している。


そんな存在がリア充の代表でもあるカップルになるなど考えもしなかった。


だから、仕舞い込んだまま、卒業し、自分の道を行くのだと思っていたのだ。


『後悔するぞ』


「それでいいって思ってたんだよ。気にしなければ、後悔もしないだろうって」


バードキャプターは画面の中から晶を見つめたまま視線を反らさない。


「でも、もう無理だな」


気付いてしまったから。


一緒にいる理由が出来てしまったから。


離れられない理由ができたから。


「言い訳並べて、理由はいっぱい作れるよ。こんな状況だから」


でも、今は少し違う。


「俺、今回で思い知った。松本さんがいなくなるのは嫌だ。俺が松本さんの前からいなくなるのも嫌だ。一緒にいて凄く楽しいのに、一緒にいられない未来があるなんて嫌だ。認めたくないんだ」


『晶』


「だから、俺、やるよ。勿論、俺の郷土愛は本物だ。それは間違いない。でも、それと同じくらいにあの子が好きだ。だからありがとう。俺に、あの子を守る理由をくれて。あの子を背に戦えば、俺はきっと負けない。ずっと、守っていられる」


だから、戦える。


スレッド。


糸ですね。察しの良い方なら分かるのではないでしょうか。えぇ、以前放送されていたCMです。

想定しているのはL○NEですが、私がユーザーではないのでインターフェースがわかりません。なので、その辺は適当です。

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