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4.なったヒーローを定義しよう

優希による晶の呼び方を修正。

晶が「松本さん」なのに優希が「晶君」では何かがおかしいので。

中二病暴露はさておき、晶の急務は自身でデザインしておきながらその設定を全く考えていなかったツケを支払うことだった。


勿論、その中二心を駆使すればトンデモ設定とトンデモスペックはすぐに思いつくだろう。だが、ここで願望丸出しにしてしまうと一緒にいる優希にそれを全て見せることになる。


少なくとも、晶個人としては優希に好意を抱いているし、中二病患者であることはばれていなかったと思っている。ばらされてしまったが、もっと突っ込んでおくとばれていたが、それでも見栄くらいは張りたいと思うのが男の子である。


「取り敢えず、名前から決める? デザインはよくここまで落とし込んだとは思うけど、銀鮭の剣は流石にどうかと思う」


「そこかぁ」


晶としては最も自信のない分野だった。勿論、エターナルなんちゃらのように痛すぎるネーミングにはしないが、どうあってもそっちに引っ張られるのは避けられない。しかし、その影響は極力抑えなくてはならない。


ぼくのかんがえたさいきょうのヒーローにする気はないのだ。


「鮭でいい名前、か。思いつかないから他からでもいいかな」


「例えば?」


「これ」


晶がタップしたのはコハクチョウの槍だった。


「中二全開だけど、ドイツ語でランツェシュバーンとか」


「意味はそのままだよね」


優希の突っ込みは気にしないことにして、続ける。


「でも、バードキャプターは英語だからな。言語が混在するのもよくない気もするんだ」


かっこいい名前(中二ネーミング)の代表格、ドイツ語。しかし、本体の名前が既にバードキャプターになっているので、英語とドイツ語が混在するのもどうか、と晶は悩んでいた。


しかし、ここで本人が意外な助け舟を出す。


『お主の動画の閲覧履歴がそんなもの問題にならんと言っておるぞ』


「え?」


スマホの中にいられる以上、既にプライバシーもあったものではない。こっそり見てたエロ画像は口止めしておこうと決意する晶だった。


『ほれ、何ぞカブトムシのような人形が相手をど突き倒しているようなのとか、他にも色々であるが』


「ああ!」


得心がいった、とばかりに晶は手を打った。名前がドイツ語、技が英語というパターンは既に先達がいたのだ。これに気付いてしまえば後は早い。これ、割とアウトかもしれない。


「なら、海とそれ以外に区分して、陸はウサギの脚か」


少ない語彙、検索機能、それらを駆使し、晶はドイツ語縛りからそれを作り出す。


「カニーンヒェン・クーゲル。文法的に間違ってるかもしれないし、単語くっつけただけなのがあれだけど」


「ウサギと弾丸か。まぁ、跳び蹴りなら妥当じゃないかな」


「じゃ、次」


優希からの賛同も得られたところで次に移行する。次は海の生き物だ。


問題になった銀鮭、マグロ、イワシ、蟹の鋏である。


「鮭、マグロ、イワシ、蟹か。寿司食いたくなった」


「うん。獲れたてイワシがいい」


『お主ら、脱線著しいが、本題に戻らぬか』


思わず涎が垂れそうな気もしてきたが、2人ともここは堪える。


因みに、漁港のある地域は往々にしてそうだろうが、地元企業の経営する回転寿司は安価で美味しい。当然、晶の住む境港市もそうだ。


境港、隣接する米子市あたりの大手以外の回転寿司はネタのレベルが少しだけ高い。たまに外れの店もあるが。


「でも、作っといて言うのもあれだけど、銀鮭って養殖なんだよな」


「あー、養殖って言っちゃうと量産型って聞こえるってこと?」


優希の補足に晶は頷く。


養殖とはいえ、銀鮭は境港市が誇るブランド品である。しかし、それをモチーフに武器にしようとすると養殖という単語が少々邪魔をする。


「あ、方言を混ぜてみる? 浜弁とか」


「お、それいいかも」


境港市などで使用されている方言、浜弁。これは語尾に【○○けん】とつくのが分かりやすい特徴である。例えば、【コーヒーが好きです】という文章を浜弁に直すと【コーヒーが好きだけん】になる。


これを活かし、銀鮭の剣と浜弁の【けん】を合わせてみよう、というのだ。


「う~ん。鮭だけん、はちょっとどうかと思うよね」


『ちょっとどころではないのぅ』


安直ではお許しは得られそうにはない。


「鮭、サーモン、銀…… 浜弁活用は難しいね」


「うん。考えてみれば【だけん】の【だ】が悪い仕事をしてるよね」


結局、浜弁の活用は断念することに。


「銀鮭の銀だけもらう? 形は鮭なんだから」


「あ、それいいかも」


「なら、シルバーソードか、シルバーブレイドだよね」


方向性さえはっきりと決まれば後は一瞬である。それが安易な方向性であったとしても、だ。とはいえ、名前をはっきり絡ませようとしているのだからこれくらい安易でなくてはならないのかもしれない。


生態的にも極端な特徴が無いのだから。深海魚ならアビスといった具合の中二心満載のフレーズも使えたが、残念ながら深海魚ではない。そもそも深海魚の養殖なんて現在の技術では相当無理がある。


「うん。結構大きいことを主張するにも名前が余計に長くなるし、銀が表に出てこないからね。安直に【けん】になるソードがいいかな」


結論、シルバーソード。強度が足りなさそうな名前である。郷土は十分すぎるほどに足りているのだが。


「じゃ、次。マグロかな」


境港はクロマグロの水揚げもしている。時期が来ると【マグロ感謝祭】が行われ、こいのぼりならぬ【マグロのぼり】が役場に上がる。


それぐらいにはマグロ推しの地域でもある。


だが、問題もある。


「マグロの英訳って、ツナ、だよね」


そう、ツナは日常に浸透しており、こういったネーミングには向かないのだ。


「いっそ開き直るか」


『ふむ、どうなるかは気になるの』


優希もバードキャプターも晶の開き直りの答えを待つ。


「クロマグラー、だと怪獣っぽいか。大盾だからバックラーとの合わせ技はできない、か」


クロマグラーだと光の巨人が光線で爆発させそうな気がしたのだ。


「ブルーフィンマグラージ、英語と日本語混ぜてさらに造語だけど、いいかも」


「うん、クロマグラーよりはいいと思うよ」


『確かに。検索してみたところ、ブルーフィンツナ、でクロマグロであるらしいからの』


ブルーフィンツナ、からブルーフィンのみ抜粋、マグロとラージシールドのラージ部分だけを合わせてマグラージ。おそらく、晶としてはこれが精一杯だろう。


「じゃ、イワシ」


これには優希があっさりと答えを出した。


「オイルサーディンと合わせて、ナイフサーディン」


「採用」


あっさりだった。


因みに、過去、境港市は大量に獲れたイワシで漁獲量日本一に君臨していたこともある。


「なら、最後。蟹の鋏」


「これも単純でいいんじゃないかな。クラブシザースとかで」


『異議なし』


これもあっさり決まった。


因みに、境港市というか、鳥取県でブランド化されているのはベニズワイガニ、松葉ガニ、タラバガニ、である。有名な話ではあるが、


タラバガニはヤドカリの一種である。尚、松葉ガニはズワイガニの成長したオスのことである。


「ふぃー、なんか疲れた。ちょっと休憩にしよう」


「賛成。自販機で飲み物買って来るね」


「待って、俺も行く」


そんな具合に武器の設定は決まり、後は本体の能力とどうやって変身するかとなった。


先はまだ長い。



























休憩も終わり、続きを始める。


「なら、細かい設定を決めよう」


晶が仕切りを始めると、すぐに優希が手を挙げた。


「はい、松本さん」


「空を飛ばせたいです」


折角、頭と両腕が鳥なのだ。飛ばせない手は無い。まして、オシドリも猛禽も飛べる鳥だ。


「採用。他は? 数字にしちゃうと結構きついと思うから、何ができるってくらいがいいと思うんだけど」


『ならば、その拳や蹴りは岩をも砕く、というのはどうかの』


今度はバードキャプターが発言する。明らかに、本人の願望であるのがわかるが、それはこの際どうでもいい。


「岩をも砕き、鉄をも貫く、がいいんじゃないかな」


優希の補正が入り、そのまま採用となった。因みに、武器についてもほぼ同様の設定が与えられた。そして、シルバーソードについてのみ追加の設定が加わる。


「シルバーソードは、元いた場所から出て行こうとする者に対して強い効果を発揮するっていうのもいいでしょ」


これは優希の発案である。


「お父さん、よく釣りに行くんだけど結構銀鮭釣ってくるんだよね。生簀から逃げ出してるのがいるらしくて。本当は逃げてる側だけど、それを敢えて逆転させて、逃げることを許さない、みたいな」


この案にはバードキャプターが最も反応していた。


『黄泉の住人が黄泉を出て行こうとして今の騒ぎがある。となれば、とても素晴らしい効果であろう』


というわけで、これもあっさり採用となった。


「軽く纏めよう。バードキャプターは、鳥を取るものであり、同時に自らも鳥として空を自在に駆け、その拳や蹴りは岩を砕き、鉄をも貫く。これは全ての武器に共通で、その中でもシルバーソードは元いた場所を逃げ出す者を許さない、ブルーフィンマグラージは降りかかる穢れを祓う、こんな感じかな」


『よかろう』


これもほぼ決まっていたことなのでバードキャプターによる承諾もあっさりと終わり、残るは変身方法となる。


「バードキャプターがスマホの中にいるんだから、タップするかスワイプするかしかないだろ」


「武器もスマホ画面を操作して召還するとか」


「でも、実際のヒーローみたいに自分でやるのは無理があると思う」


しかし、そうなると晶だけでは戦えないことになる。


だが、晶があることを思い出す。


「そういえば、バードキャプターが言ってたな。『君たちの郷土愛、確かに受け取った』って」


君たちの、である。事実、画面の中のバードキャプターはしっかりと頷いている。


『如何にも。君たち、だ。晶と優希。2人分の郷土愛を得て私はここにいる』


ということは、だ。


「つまり、俺だけがいても意味はないって解釈でいいのか?」


これにも頷くバードキャプター。


「だったらさ、足立君が戦ってる傍に私はいて、要請されたものを私が転送するってこと?」


結論はこうだった。バードキャプターは、その両肩のオシドリが示すように、2人で1人のヒーローである、ということだ。


そして、その結論に至った後、バードキャプターがとある爆弾を放り込んでくる。


『晶に拘らずとも良い。優希の郷土愛からも力を得ている。つまり、優希でも戦える、ということだ』


ようするに、別行動をしていても、どちらかが事件に遭遇すればそのどちらかが変身すればいい、という実に雑なパターンだった。


だが、当然ではあるが、晶はこれを良しとはしない。自分がデザインしたヒーローだ。実際に戦うのは怖かったが、それでも、バードキャプターというヒーローは自分のモノという想いが強い。それに、女の子を戦わせて、自分は安全な後方から武器だけを転送するというのは男として情けない、素直にそう思っていた。


「いや、戦うのは俺がやる。だから、武器の転送を松本さんに頼みたい」


だからこそ、晶は己が戦う決意をした。


「俺がやる」

というわけで、設定を本人相談の元で決めるというヒーローらしからぬ展開でした。


また、優希が武器転送をするということで、常時一緒にいる理由付けも出来ました。


尚、変身方法は晶が自力で超中二マックスで決めています。

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