2.作ったヒーローを現実にしよう
足立晶という少年は子どもっぽさを残したまま成長した少年である。
特撮ヒーローをこよなく愛してはいるが、ディープなオタク、というわけでもない。
ないのだが、それでも、今回はやりすぎた。
「晶、お前」
「何だよ」
登校してすぐに友人の美甘雄治の席まで行き、昨日作ったバードキャプターのイラストを携帯に保存し、見せているところだったのだが。
「これ、本気すぎるだろ」
当然、ドン引きだった。
晶がこういったイラストを趣味にしていることは周りも知っている。こういったオタク寄りの趣味を持ちつつも気味悪がられていないのは、彼自身の明るい性格と何となく憎めないところにある。
それでも、今回ばかりは駄目だった。あまりにも本気すぎた。
「いや、でも分かるだろ? この溢れる郷土愛が!」
「ああ、うん。それは分かる。分かるんだ」
それとこれとは別の話だ、そう言いたくなるのを堪えている。
「美甘。俺はな、前回の模試の結果から気付いてしまったんだ」
「ああ、それは俺も知ってる。それがどうしたらこうなるんだ」
「答えを急ぐな。それでだ、俺はこの鳥取を捨て、出て行かなくてはいけないかもしれない。ならば!」
唐突に叫ぶ晶だが、高校からの付き合いではあるが雄治にとっては日常茶飯事だった。
「この溢れんばかりの郷土愛の集大成、結晶を残していく。それこそが俺にできることだ」
「で、勉強は?」
「描き終えてからやった」
雄治は突っ込みを入れたくなる自分を堪え、軽く頭を振った。ある意味、これもいつものことなのだが、それでも晶が本気すぎるのだ。
内心、こいつはこれを企画化して売り込みに行くのか、とさえ思っている。当然、晶にその気は無い。あったならもっとまとまったコンセプトに絞りにいくはずだ。対象が余りに散らばりすぎていて、あまりに抽象的過ぎる。
「美甘。呆れる気持ちは分かる。お前はいつも俺に向かって常識的に物事を説いてくれる。だけど、今回のこれは一回でいいからそういうのを抜きに見て欲しいんだ」
やたらと真面目に語るが、成果物がアレなだけにどう表現していいか分からないというのが雄治の感想である。
「両肩はオシドリだ。県の鳥で、夫婦仲の象徴にもなるアレだ。でも、卵が産まれるまでだからな。そういうのもあって、肩にしてそっぽ向かせてるんだ」
語り始める晶に、雄治は思う。この発想力をもっと勉学に活かせば成績はもっと上のはずなのに、と。
この後も晶は語り続け、語り終えた頃にはHR直前だった。
(俺、トイレ済ませときたかったんだけど)
雄治の内心も知らず、晶はホクホク顔で自分の席に帰っていった。
(畜生……)
放課後になると晶はすぐに部活に向かう。
彼の所属する部はいかにも彼らしく、郷土史研究部だった。当然、彼の中の郷土愛がこの部を選ばせた。寧ろ、彼からするとここしかなかったのだ。
「こんちは」
軽く挨拶をして部室に入る。
「あれ、今日はまだ松本さんだけなんだ」
「うん。先輩たちはちょっと時間かかるって」
声を掛けられた松本優希は先立って聞いていた先輩の予定を答える。
この郷土史研究部、部員数だけで言えば相当な数になる。
しかし、そのほぼ全てが『部活動』という実績を求めて入部した幽霊部員ばかりである。特に、今年の新入部員は僅か1週間で全員が幽霊部員になった。以来、2ヶ月経っても1年生は誰もやってこない。
毎日部室に来ているのは大学でもこの分野に進もうとしている3年生1人と、面倒でも生来の真面目気質ゆえにサボるという選択肢を取ることのできない3年生2人、異常なまでの郷土愛を示す2年生の晶と優希であった。
もっとも、1年生が来なくなったのは異常な郷土愛の2年コンビに引いた、というのも大きな理由だったりする。
「それはそうと松本さん。見てよ、俺の溢れる郷土愛の結晶を」
「え、何々?」
言って、晶はスマホの画像を優希に見せる。途端に、優希の顔が変わった。
「わ、カオス。でも、すっごい郷土LOVE、だね!」
「だろ! 自分でも盛り込みすぎたって分かってるんだけど、でもやらずにはいられなかったんだ」
当然、優希は同類なのでここに食いついてくるわけだ。3年生は、間違いなく引くだろう。
「凄い、肩、オシドリで習性まで反映したの?」
だから何故知っているのか。
「境港出身なのに敢えて魚にしないスタイル、さすがは鳥取LOVEだね」
「わかる? いやー誰もわかってくれないんだよ。魚スタイルはもう先輩もいるし、大概の所はもう拾われてるから。なら、県全域でやるしかないってさ」
因みに、こいつらはこれで付き合っているわけではない。周りはさっさとくっつけと思っているが、本人たちは恋愛<郷土愛なので当分はそんな関係にはならないだろう。
「そういえばね、この前近所で不思議なことがあったの」
盛り上がっている中、優希が唐突に語り始めた。その表情には困惑と、怒りが見て取れる。
「そんなに付き合いの無かった家なんだけど、突然家族みんなでいなくなっちゃったんだって」
「突然?」
「うん。土日に車で家族で出かけてから帰ってきてないみたいで。夜逃げかな、なんて噂になってるの」
晶はそこまで聞いて優希が困惑と怒りを抱いた理由を大体察した。
困惑は近所の人が突然蒸発したことについて。怒りは、ただでさえ少ない鳥取県民を何故減らすのか、ということについてだろう。
間違いなく、晶も同じ感情を抱くはずだ。
「夜逃げするような雰囲気も無かったのに、何でかなって思って」
部活については、3年生は結局来なかった。
なので2年生2人で地域データベースの更新作業をし、資料整理をして終わった。
帰りについては優希も方向が同じなので一緒に帰っている。だからどうしてこいつらは付き合っていないのか、という視線が向けられるが、この2人に限ってはそんなことはどうでもいい、とばかりに語り合っている。
そうして人通りの少ない路地を進んでいるときだった。
2人の前に白い装束で汚れきった長い髪を前に垂らした女がいるのに気がついた。その異様さと禍々しい空気に嫌な予感を感じ、思わず
後ずさる2人。
だが、下がれば下がっただけ一瞬で詰めてくる。寧ろ、少しずつ近付いてくる。
不審者情報については聞いていない。だが、ここまであからさまなのが初犯であるとも思わない。思えない。
そんなときだった。
ポケットに入れていた晶のスマホが唐突に着信を告げた。
「こんな時にっ」
思わず悪態を吐き、正面から視線をそらさずにスマホを取り出し、切ろうとするが、そこには意外すぎるものが表示されていた。
『晶、優希。君たちの郷土愛、確かに受け取った。だから、君たちにこの郷土を守る力を与えよう!』
それは、晶が自分でデザインしたバードキャプターだった。
変身までは行かなかった模様。
因みに、バードキャプターが何なのかは想像は容易でしょうが次回で。
基本、神話の内容ベースで話を作っていきます。ただ、古事記も日本書紀も今は手元に無いのでどこかでまた調べなおさないとまずいな
ぁ、とは思っています。