1.ヒーローを作ろう
ノリと勢いとテンションのみでヒーローを生み出し、割とシリアスっぽく話を作る試み。
人口の最も少ない都道府県をご存知だろうか。
その県について、県外の人が抱いているイメージをご存知だろうか。
「鳥取と島根ってどっちがどっちかわかんないよね」
「似たような形してるし、鳥と島って似てるし」
おそらく、中国地方に住んでいなければこのようなことを思ったことのある人はたくさんいるだろう。
「砂漠ってイメージがある」
「ラクダが生息してるんでしょ?」
鳥取出身者にこのようなことを言ったことのある人もそれなりにいることだろう。
鳥取と島根の立地については自治体が自虐テイストにアピールしているのでそちらを参照されるといい。
砂漠についてだが、あれは砂漠ではない。砂丘である。きちんと調べてもらいたいが、砂丘と砂漠は別物である。間違えないでいただきたい。当然、ラクダは生息していない。いるのは観光用に飼育されているものだ。
近年、「○○バはないが、砂場はある」という発言もあり、ある意味認知度も上がったが、やはり砂漠イメージの脱却には至っていないと思う。因みに、なかった○○バは、その後にできた。
さて、こんなことを長々と語ったわけであるが、何故か。
それは、パソコンに向かってひたすら絵を描いている少年に起因する。
「えーと、流石に鳥を冠するからには頭は鳥っぽいのがいいよな。県の鳥がオシドリだからそれっぽくして」
その画面には所謂特撮ヒーローのような人物デザインが描かれている。
「待てよ。よくオシドリ夫婦って聞くから、夫婦っぽく2羽入れたいな。とすると肩か。なら、頭は純粋にかっこよく猛禽のイメージでいくか」
頭部がシャープな造形に変更される。側頭部に翼を模したパーツを着け、額部分に嘴のようなパーツが来るようにする。
「フェイス部分は黒塗りにして、バイザーを大きく取ろう。で、両肩をオシドリ、右肩をオスで、左肩をメスだな。そっぽ向いてるけど、いいよな。たしか、最終的には別れるもんな、オシドリ」
実際、おしどり夫婦などと言われるが、現実のオシドリは冬ごとにパートナーを変える。それどころか、子育てはメスのみで行われている。それまでが仲睦まじく見えるが故に仲の良い夫婦の象徴に使われるが、意外と冷たいのだ。
「で、脚は、ウサギだな」
こんな感じでノリと勢いとテンションでヒーローのデザインを作り上げていく彼。
一応、理由がある。
足立晶。あだちあきら、と50音ではほぼ文句なしに先頭に来ることの多い鳥取県境港市在住の高校2年生。大学探しをしているうちに県内の大学には進めない可能性に気付いてしまった郷土愛溢れる少年である。
彼は、その溢れんばかりの郷土愛の故に進学から就職の全てを県内で行おうとしていたのだが、やや学力に劣る面もあり、進学を県内でできない可能性を突きつけられたのであった。
それが切欠だった。
彼は言う。
『県内に残れないって言うんなら、この溢れる郷土愛の結晶を生み出してやる。ついでに勉強も頑張って県内に残る努力もする』
そして彼は自分が特撮ヒーローが好きであるという理由のみを武器に、やや旬も過ぎてしまったご当地ヒーローを生み出そうとしているのだった。
「出来た」
晶が椅子の背に身を預け、ふぅ、と息を吐き出す。
その画面には頭は猛禽をモチーフに、両肩はオシドリの番、腕はそのまま鳥の翼と脚の意匠、両脚はウサギ、胸には跳躍する獅子のエンブレム。
「バードキャプターだ」
ネーミングは割りとそのままだった。鳥を取る者=Bird Captorである。元々、鳥取の由来がそこにある、ということも踏まえての名前である。
頭部の猛禽は純粋にかっこいい鳥として。両肩のオシドリは県の鳥であるオシドリから。両脚は神話、因幡の白兎から。胸の獅子のエンブレムは鳥取県がこのように見える、ということから。
他にも武器が描かれており、冬にやってくるコハクチョウモチーフの槍、境港でよく水揚げされていたイワシモチーフのナイフ、マグロモチーフの大盾と養殖鮭イメージの剣、冬の名物、ベニズワイガニや松葉ガニから合体すると鋏になる双剣。
モチーフを動物由来に限定した結果である。
因みに、オオサンショウウオが生息していたり、カジカガエルがいたりというのもあるのだが、晶自身、既に情報量が過多であるということ、名前の挙がった両生類をどう活かせばいいのか想像できなかった。
しかし、彼はやりきった。描き切った。
尚、ラクダは飼育されているだけ、ということもあり中には含めなかった。
「最高だ。満足だ。俺の、郷土愛!」
他人が見たらドン引きである。家族でさえ引いている。
「さあ、ここからは俺のために、このふるさとのために勉強だ」
そんなわけで大人しくデータを保存し、パソコンをシャットダウンする晶。
今から少しでも成績を伸ばし、県内の大学の行きたい学部に入れる成績を確保しなくてはならない。
彼の目指すのは県庁職員である。人生の全てを愛する郷土の捧げる決意を固めている。そのためにも、今ここで踏ん張る必要がある。
「よし、まずは次の模試に向けて、だ」
しかし、ここに至るまでの彼を見る者は言うだろう。
『あんなものを描く前に勉強しろ』
だが、その『あんなもの』を描いたが故に彼の人生が大きく変わるなど、誰が思うだろうか。当の彼自身、そんなことを欠片ほども思っていなかった。
鳥取県は日本で最も人口の少ない都道府県である。
職や豊かな生活を求めて県外、都会へと出て行く若者が多い。そも、大学や専門学校の選択肢が少ない。当然、県内では取得不能の資格も数多い。それを教える教育機関が無いからだ。無論、それは鳥取県に限った話ではない。
しかし、だ。
もしも、もしも鳥取県の人口流出に何らかの作為が働いているのだすれば?
数多くの神話が残され、国造りの神々縁のこの鳥取県に何らかの作為が働いているのだとすれば?
それらが真実であるならば、何らかの悪意が働いているのだとすれば、その悪意に対して立ち向かわなくてはならない。
そう、溢れる郷土愛をもって!
ノリと勢いとテンションだけで物語を作れるか。
答え。無理です。
では、ノリと勢いとテンションだけで作ったヒーローで物語を作れるか。
答え。可能です。
というわけで作ってみました。ご当地ヒーロー。ある意味、身バレですが、私の出身地です。晶ほどの郷土愛は持ち合わせていませんが、それなりに郷土愛は持ち合わせています。
今回のは、昔、何となくご当地ヒーローを自分で作ってみようとしたときに作ったものです。当然ながら、鳥取県にもご当地ヒーローはそれなりにいます。イナバスターとかサキューン、ネギマンあたり。マイナーどころだと、イワシマンです。
それらは特定地域の特産品や、地域の特徴、神話にモチーフを絞っています。当然です。だって分かりやすいですもの。
しかし、これは主人公である晶の願望と妄想と郷土愛のみで作られています。ほぼ動物モチーフのみに絞ったのは、情報量が元々多すぎるので、これ以上は詰め込めない、と私自身分かっていますし、晶も分かっているからです。
あと、植物を持ち出すと梨、葱、らっきょう、長芋、スイカあたりまではまだいいのですが、固有種のダイセンキャラボクとか持ち出されても県外の人には通じないのもあります。
さらにはノリと勢いとテンションだけで作ったので、所謂『副題』のようなものが作れないカオスさがあります。この辺、素人の浅知恵っぽくないですか?
因みに、この副題とはガンダムで言うところの機動戦士の部分ですね。
今回、晶しか登場していませんが、次回以降、人物を増やしていきましょうか。
では。