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宇宙アクセスを担う者達

・会場は『東京駅ホテル』のロビー、その辺のマンションやホテルより断然広く、装飾の凝った広場だった。

背広の若者達が一列に並び、奥の大きな扉ーすなわち面接室の入り口ーへ呼ばれるのを、今か今かと待ちわびている。

明日アースも書類を持って並び、深呼吸を繰り返した。

ー大丈夫。何とかなる。施設のシスターや幼なじみの反対を押しきって、自分一人の力でここまで来たんだ。

後はもう、オレの心意気を試験官にぶつけるだけ......!!



ー副駅長、白戸賀宴(しらとかえん)は、面接試験の時期になるとため息をつく回数が増える。

もう二十年近く試験官を勤めて来たが、やって来る若者達は、皆宇宙人とお近づきになりたいとか、高い給料、『宇宙のアクセスを担った』誇りだとか、結局『自分の為』に働こうとしているのが見え見えなのだ。


一応の規則で10名選出するものの、ここ数年『コイツを雇いたい』と思える若者に、彼は巡り会えていない。


「はぁ......。」

「またですか、副駅長。今年は百回越えるかもしれないですねぇ。」


隣の席に座る試験官の一人、イメージキャラクター兼女優のウィーブル・メナード・ スカイが半ば呆れた様に尋ねた。


「スカイちゃん、そりゃため息の一つも出るさ。最近の若い連中と来たら、高い給料だの、友達に誇れる(=自慢できる)だの、結局はてめえの為。『プロセス』ってのが見えなくてさァ、おじさんさみしーのよォ......。」


「分かりますが、宇宙を相手に働くこのご時世、技術さえあれば贅沢言えないんじゃないですか?」

「ふぅ、これも時代の流れってヤツかねぇ。」

「では、次行きます。」


スカイがベルを鳴らすと、入り口の扉が開きスーツの若者達が三名入って来た。

白戸は右の若者を指さし、『あっち行け』のジェスチャーをした。

どうしていいか分からない彼に、白戸はいかにもメーワクそうに言った。


「何?わかんないワケ?君不採用。」

「は?すいませんなんでオレが!?」

「聞こえてたよ。おじさん地獄耳でね。『宇宙アクセスを担う仕事』ながら『人手不足』とあるこの職場だから、誰より楽していい立場につけるんだって?

冗談言っちゃ困るよ。ウチにゃカスみてぇな連中ばっかの一流企業より、一生懸命働く気の良い馬鹿どもがいる。

君みてぇなのはウチにゃいらないって事ね。」

「ちょっと待ってください!オレ、実家の両親に何て言えば......。」

「うるせぇな、もう。いいから帰れ。」


残る二人を見つめた白戸は、まるで期待のかけらもないかの様に、また一つため息をつく。


「次の一人、繰り上げで入って。」


そう言われて入って来た若者に、部屋中が凍りついた。

スーツのズボンは穴が開き、ベルトはボロボロ。髪は青く、目はまるで子どもの様によどみがない。


「んじゃ、まず名前聞こうかな?」

倉嶋明日くらしまアース!快清大学鉄道学部出身『であります』!!」

「『であります』ってあなた、自衛隊の面接じゃないんだから......。まあ良いわ、まず志望動機から聞こうかしら」

「ありません!!」

「......は?」


あまりにはっきり中身の無い事を言うアースに、思わず絶句する白戸とスカイ。


「じゃあなんであなたここにいるワケ?」

「ここにいたいからです!」

「もう十分!今回は縁がなかったってことで......。」

「待ちなスカイちゃん、まだ終わってねぇよ。そんであんちゃん、どうしてここにいたいのかな?」

「全宇宙の支えで有りたいから、支えている現場となるここにいたい!そしていつか、百万人のお客様や、愛すべき列車達と共に、宇宙中駆け抜け、やがて宇宙中に路線を繋げ、『宇宙アクセス管理連盟』に

よる『アース・ホイッスル』勲章の授与、それが私の夢であります!」


部屋の外まで響き渡るアースの『宣誓』に、物静かな会場内は一気にざわめき出した。


「本気で言ってるのか?アース・ホイッスルといやあ、太陽系まるまる救う様な偉人の勲章だぜ?あんな田舎者が......。」

「どーせよからぬジョークだろ?鉄道運転手がアース・ホイッスルなんてよ、ガキじゃあるめぇし......。」

スカイが呆れ返り言葉を失う中、なぜか白戸は、腹のそこから笑い出した。


「くくくく......!プッ!アッハハハハハ......。」

「どうしました?副駅長......。」


机から立ち上がった白戸は、アースを足から頭まで品定めし、高らかに宣言した。


「お前さん、名前なんだっけ?」

「倉嶋明日です!」

「よし、倉嶋ァ、お前採用!明日から来な!『宇宙の為の』仕事をくれてやるよ......!」

「副駅長!?何を......!?」

「ありがとうございます!」


重々しい沈黙の中、白戸とアースだけは、なぜかそこはかとなく誇らしげに笑っていた。

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