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レムナス王子視点
……とても、ぼんやりとする。
何故、私はあんな事を言ってしまったのだろう?
ハーナベルと私の婚約を破棄するなどと。
ずっと、彼女といられる事を望んでいた。
だから、国王たる父上に初めて願いを口にしたのに。
どんな高価な贈りものよりも、私は彼女を欲したのに。
初めて会ったあの日から、私は彼女だけを求めていた。
サラサラと光り輝く金の髪。
意志の強い、明るい緑の瞳。
エンデール王国において、最も多い髪の色は銀髪だ。
次いで、金髪。
よく見慣れた色だというのに、彼女の金髪は陽の光を集めたように強く魅力的に輝くのだ。
ずっと見ていたくて、けれど眩しくて。
彼女が司書になりたがっていたことは知っていた。
初めて会った時に、そう言っていたのだから。
『わたくしは、このビブリオ・タワーの司書になるのが夢ですの』
キラキラと瞳を輝かせて夢を語る彼女を、私は隣でずっと見つめていたのだから。
どうしたら、言ってしまった言葉を取り消せる?
また、手紙を書けば良いだろうか。
何故私は手紙を書いたのかすら、思い出せない。
会いたくて会いたくて、つい、無意識に手紙を書いて呼び出してしまったのだろうか……?
「レムナス様、何をしていらっしゃるのですか?」
見知った声に振り返る。
柔らかな、淡いピンク色の髪。
あぁ、パレヴィオ・デミートリー男爵令嬢か。
……私は、何故、パレヴィオと共に中庭で待っていたのだろう?
そもそも、いつから私は、彼女といるのだろう。
赤い瞳が、じっと私を見つめる。
甘い香りが、辺りに漂う。
あぁ、頭が、ぼんやりとする。
思考が纏まらない。
私は、何をしようとしていたんだろう。
手紙……誰に……?
「行きましょう?」
にっこりと、パレヴィオが微笑む。
そうだ、きっとパレヴィオにだ。
愛しい、パレヴィオに違いない。
足元がふわつく気がする。
夢を、見ているようだ。