テストの狂戦士
期末テストまで後1週間。「僕」は死に物狂いだった。今回のテストで中学校2年生の最終成績がほぼ決まる。それに加えて将来目指す志望校の方向性も、ある程度ここで確定してしまうからだ。まだ3日間あると考えるかもう3日間しか無いと考えるか・・・・。
決して頭が良い方ではなく丁度クラスの中間、そして学年順位でも中間。当たり障りも無いと感じるかもしれないが、却って僕はこの順位に今更ながら不満を持っていた。それは、この順位がテストの結果次第では志望校の安全圏に留まる事が出来るかも知れないし、その逆も起こり得るからだ。
メインの5教科の中で、国・数・英・理は一応範囲は終わらせた。手応えはこれまで通りで、点数的には60点から70点くらい。
しかし、社会の日本史だけは全くと言っていいほど頭に勉強の内容が入ってこない。点数も40点台が平均でよくて50点行くか行かないかというくらいだ。今回のテスト範囲は日本氏は近現代史が主に出題されるらしい。
僕は、暗記科目が苦手な訳では無い。寧ろ、歴史を勉強するのが嫌いなのだ。過去の偉人やその功績、はたまた時代時代に置いての制度だったり産業だったりを学んで一体僕達に何をもたらすのか。実際の生活で役に立つならまだいい。国語や英語はそれなりだし、数学はまあちょっことだが使うし、理科は天候やら物理やら化学やら意外に日常生活で目にする現象が理解できるようになるし全然Okなのだ。
だが、歴史はどうだろうか。政治経済はまだ許せる、今社会を動かしている仕組みを学ぶものだから。国会や内閣、裁判所のそれぞれの役割、経済の循環、社会問題も扱うからこちらも興味が湧く。好きでは無いが。
一方歴史はどうだろう。確かに、過去の歴史から色々学べと言う事で勉強するのかもしれない。でも、それで何になるのだろうか。その時代によって人の考え方と言うのは変わってくるだろうし、そもそも生活の仕方さえ違う。昔の江戸時代の武士のように、気に食わない奴は切り捨て御免何て事をしたら警察に殺人犯で現行犯逮捕即連行である。
それにだ、歴史を学んだ所で日常生活に役立てる事はほとんどないのだ。徳川家康の関ヶ原の合戦を知っていた所で社会では一切使わない。戦国武将の名前を沢山知っていても、それは友達に自慢をするためのうんちくでしかない。大人にならないと歴史の意味なんて分からないだろうし、そもそも分かる人っているんだろうか。だから、歴史は嫌いなのだ。
しかし、今回の歴史のテストは少し事情が厄介だ。
近現代史は、日本に置いては明治時代から昭和の時代をメインにしている所だ。戦争だけでも、戊辰戦争・日清戦争・日露戦争・第1次世界大戦、昭和に入れば第2次世界大戦が入ってくる。この辺りは政治経済友密接に関わってくる範囲で、ここをしっかり勉強しないと政治経済の分野でも理解できない部分が出てきてしまうのだ。例えば、GHQの戦後日本における政策がそれになる。
しかも、今回は僕ら中学2年の最後のテストだ。ここでしくじると人生お先真っ暗になりかねないのだ。それだけはどうしても避けたい。
僕は、苦手な歴史の教科書を睨みつけながらどのような流れで勉強していこうか考えていた。明治維新からの勉強は取っ付きにくい。土地改革やら身分制度やら税金やらが一気に変わり、人の名前も色々出てくる。先程の戦争も重要なファクターになってくる。覚える事が多いのだ。
かと言って昭和の歴史からやろうと思っても、それはそれで明治と同じくなので結局どこからやろうが同じなのだ。
睨み合いを続けてはや30分。僕は手を付けられずにいた。
考えれば考える程やる気が失せていく。もういっそのこと歴史は捨ててそれ以外の4教科で勝負に出よう――
そこまで考えてしまった。
しかし、ここで諦めてしまったら僕が今まで維持してきた中間の順位が守れなくなってしまい、挙句ランクまで下がってしまう。僕は一体どうしたら・・・・・。
それからまた30分。依然状況は変わらない。どんどんどんどん泥沼に嵌っていくように考えていってしまう。このままでは真面目にヤバい――分かってはいるが中々思考の沼から抜け出せない。
だが、もがいている内に何かが外れた。もういいや、悩んでたってどうにもならない。なら、自分のがどうにかなってしまうくらい歴史を頭に叩き込んでやる――。深夜0時の事であった。
狂戦士という言葉は聞いた事があるだろうか。彼等は北欧神話に登場する異能の戦士達の事を言い、ゲーム作品にも登場したりする軍神オーディンの力を授かった者。戦いの際には鬼神の如き猛威を奮い戦場を縦横無尽に駆け回るが、戦っている間は自我を失い、敵味方の判別さえ付けられなくなってしまう。そして、戦いが終われば生気が抜けきったかのような状態になってしまう。大いなる力を得る代わりに人間としての大事な物を捨てる・・・それが彼等だ。
僕はまさにこの状態になっていた。目の前の歴史と言う敵を倒す為、自信の冴えない頭脳と手を動かす筋肉全て、全集中力をそこに注ぎ込んだ。
僕の周りには誘惑も多くあった。漫画・テレビ・ゲーム機・お菓子・飲み物・ベッド等、数えれば無限にある。だが、そんな物は眼中に無い。あるのは歴史の制覇のみ。
手首に痛みが走ったような気がした。意識も朦朧としてきている感覚もあった。しかし、それくらいでは僕はもう止められない。精魂尽き果てる迄続けてやる――最早歴史の範囲を終わらせると言う目的まで忘れていたのではないかと思う程僕は無我夢中だった。
薄っすらと朝日が部屋を照らし出していた。午前5時、完全燃焼。
範囲全てを終わらせる事叶わず。まあそれはそうだろう。3日前まで何もしてこなかったのだ、たった5時間徹夜したくらいでどうにかなるものでは無い。認識が甘かった。
でも、学べた事もある。勉強スケジュールは大事だと言う事と徹夜は意外に楽しい事、そして、勉強ってやればやる程面白い事だ。
本当なら3日前にこんな徹夜をするべきではないのだ。次の日に学校が有った時にはもれなく睡魔が襲ってきて授業どころでは無くなってしまうから。しかし、今日はその心配も無い。土曜日だからだ。眠たくなれば昼寝だって出来るのだ。
とは言え、残り2日になった今では休憩なんて取っている暇は無い。歴史を今日中には終わらせて5教科の総復習をしなければならないからだ。戦いはまだこれからなのである。
まあ、焦りは禁物だし、徹夜して疲れちゃったし。取り敢えず2時間くらい寝てその後起きてご飯食べて、その後勉強どうするか考えよう――。戦いが明けてすっかりやる気を失ってしまった僕は一旦眠りに付く事にした。
短編シリーズ「日常」第二弾終了です。
何か中学高校の学生時代を思い出しましたね。僕の場合、数学が苦手でして、結構夜遅くまでやった覚えが有ります。流石に朝5時までやった事は無いですが(説教でならよくこの時間になってました(笑))
次回はどの話題にしようか迷いますね、また書いていたら宜しくお願いします。