気になるあの子?
Side Real
太陽の光で目を覚ました。外では鳥たちが鳴いている。
「生きてる……よな……」
ベッドの上で伸びをして、天井に手を伸ばして自分の手を確認する。
現在は西暦20XX年。
戦争とは無縁の――日本ではだが――平和な世界。
夢の世界とは真逆の世界。
人は寝ると夢を見る。だけど、僕の夢は普通のそれとは少し違っていた。
夢というのは普通、連続性を持つものではない。一回見た夢はほとんど一回きり。その続きを見るなんていうことはほぼ不可能だ。
けれど、僕の夢は終わらない。僕の夢はずっと続いている。
夢は、朝起きるところから始まり、現実に戻るには、夜に寝るという手段しかない。
もし、あの世界で死ねば……というのは考えたことはあるが、結論として、怖くてそんなことはできない。
結局、この夢について、ましてや解決方法については全くわからないのである。
夢とは説明しているが、それが本当に夢なのかというのはよくわからないというのが事実である。もしかしたらあれは異世界なのかもしれないし、前世なのかもしれない。正直なところ、僕にとってはどちらも現実なのだとりあえず、こちらの世界を現実、向こうの世界を夢の世界としておくとする。
さて、この世界の僕、東雲秀哉は、第一高校に通うただの高校二年生である。
制服に袖を通し、自分の部屋がある二階から、リビングのある一階に下りる。
「おはよう」
「あら、今日は早いのね。コーヒー出来てるわよ」
母親にそうは言われるが、言われるがあまり実感はない。
実際、いつもより5分ほど早いだけだ。
朝食のトーストをかじる。テレビニュースは付けているものの、これといって面白い話題はないようだ。悪いニュースならばいくらでもあるようで、最近この付近で連続殺人があっているらしい。基本的に背後からナイフが突き刺されており、犯人は未だ捕まっていないとのこと。
天気予報を見てから、家を出るというのが日課である。
本日も晴天なり。
「それじゃ、いってきます」
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学校生活で一番面倒なのは登下校ではないだろうか。放課後、居眠りから起きた僕は、むしろ学校がうちに来るべきなのではないだろうか、などとどうしようもなく不合理的なことを考えてみる。
僕は別に秀才という訳では無いが、それなりに授業は聞いている。テストは基本平均で、運動神経は人より少しいいくらい。特に秀でていることは特にないと自覚している。
授業は気づけば終わり、いつの間にか放課後になっていた。こういう日々か続いて高校生活が終わるのだろう。
「シュウ、今から暇か?」
友人の高橋健斗から声がかかる。おそらくなにかの誘いだろう。僕がは「どうした?」というアイコンタクトを入れてみる。
「いやな、なんか二高の二年に超美人がいるって一年に聞いてな。見に行こうぜ!」
予想外の回答が返ってきた。
こいつはよっぽどの暇人なのだろう……
二高というのは第二高校のこと。第一高校から比較的距離が近く、月に何度か交流会なんかもやっていたりする。僕はそういうのには興味が無いから、一度も参加したことはない。
「別に用はないけど……たぶんその噂、一年の頃にも流れてたぞ? 確か、二高にかわいい一年がいるって話だった気がするが」
当時はそれで見に行くことはなかったし、健斗についても、それに興味を示したりはしていなかった。それが今年になって興味を示すとは何事なのか。性欲が増すお年頃なのか?
「む、そうなのか……まぁ、いいじゃんか。いこうぜ?」
健斗は無理矢理にでも僕を連れていくつもりであるが、僕はそれほど暇ではない。特にやることはないというのは秘密である。
「僕にストーカーの趣味はないんだが……」
見るのはいいのだが、それでどうなるということでもない。目の保養という点はプラスではあるが、ストーカーというレッテルを貼られるという不名誉と同じ天秤で測るものではない。見なくて別段困ることでないから、見なくても問題は無い。
「心配すんな。マックから見るだけだ。奢る「いこうか」ぜ……」
僕の首は気づくと首を縦に振っていた。健斗は呆れた顔をしている。
奢ると言われて行かないやつはいないと思う。食べるだけ食べて退散しよう。
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そういうわけで、僕たちは第二高校から一番近いハンバーガーショップで食事をしている。
日は落ちかけ、街は赤に染まっている。
「お前は悪魔か…お陰で財布がスッカラカンになりそうだ…」
僕はお高めのハンバーガーを二つ。
もちろん、セットで頼んだ。
奢るといわれて手加減する僕ではない。
スッカラカンになる寸前で注文を止めた僕の優しさを評価してほしいものだ。
僕はセットでついてきたフライドポテトをつまむ。
「で、なんでお前までついてきてるんだ?」
予定では、僕と健斗で来るはずだったののだが、余分なものがついてきた。これなら僕はついてこなくても良かった気がするのだが……
「ふ、愚問だね。美女と聞いて私が黙っているわけがないだろう! 二高はレベルが高いからな! そういうわけだ!」
どうやら、答えを求めた僕が間違っていたらしい。どういう訳か全くわからないし、答えになっていない。
「しかし、二高の美人さんとやらは本当にここを通るのか?」
「ふん、私の情報網をなめてもらっては困るよ。美女の通る道は全て網羅せてもらっている」
さっきから変態発言をしている瀬尾恭一は得意げに眼鏡をくいっとあげる。
「しかし、なんでまたあの噂が流れてるんだ?」
人の噂も七十五日。あの噂はだいぶ前に沈下していたはハズだ。
「シュウ、まさかとは思うが今回の噂と去年の噂を一緒だと考えているのか?」
恭一は「あり得ない!」といわんばかりの顔でこちらを見てくる。
少し殺意が湧いた。これだけ人を殴りたいと思ったのは久しぶりだ。
「いいか?美人とカワイイだぞ?部類が違うぜ!」
僕がそんなことを思っているとはつゆ知らず、恭一は話を進める。
「待った待った。そんな個人的な価値観はどうでもいい。ホントに別人なのか?」
「ああ、間違いないね」
恭一は断言した。
多分、本当なのだろう。
「む……あれじゃないか?」
話には参加せず、懸命に窓の外を見ていた健斗はその人物を見つけたらしい。
「間違いない! ってまさかっ……そんな馬鹿なッ!?」
恭一のテンションは急にハイになる。なんていうか、こいつを連れてきたことを心底後悔する。
「……どうしたんだ?」
聞くのも馬鹿らしいが一応聞いておくことにする。
「お前バカか!? あれをみて興奮しない方がおかしいぞ!」
やっぱり聞くんじゃなかった……
恭一の目線の先には制服を着た女子が二人、仲むつまじく下校をしている。
彼女たちをみて、恭一がなぜ興奮しているのか納得した。
片方は凛としていて、髪を伸ばした大和撫子。片や、 小顔で愛嬌があり、ショートカットの似合う可愛い女子。
不本意にも、美人とカワイイは違うという恭一の主張に頷かされる。
おそらく、去年カワイイと噂されたのは後者であろう。
しかしあの二人、何処かで……
見たことも話したこともないはずなのだが、何故か会ったことのあるような気がした。まあ、気のせいだろう。
「うちの一条もなかなかだが、やはり二高。レベルが高い。まさか一年の時、噂になった子と並んで歩いているなんて……最近仲が良くなって一緒に下校しているという噂は本当だったのか……」
「ああ、見に来てよかったぜ……って、シュウ、どこいくんだよ?」
「帰る。用事を思い出した」
ハンバーガーを食べ終えた僕は、席を立つ。これ以上この場にいると僕まで変な目で見られてしまう。馬鹿は休み休みにして欲しいところだ。
「つまんねーな。ま、無理やり連れてきたわけだしいいか。じゃあな、シュウ」
「ああ。また明日」
僕はハンバーガーショップを抜け出した。