勇者じゃないけど帰還します
この小説を手に取っていただき有難うございます。この小説は私の4作品目になるもので、高校時代に書いていたものをフルリメイクさせてもらったものです。1〜3作品についてはいつかリメイクできたらな、と思う限りです(笑)
どうでもいい話を失礼しました(汗
この作品に対する感想は、どんなものであれじゃんじゃん送ってください!!
それでは、是非とも楽しんでいってください!
Side ???
X年。世界は戦火に包まれていた。別にヒャッハーな人たちがいる訳では無い。
日は暮れ、月の光が場を照らすが、雲がそれを遮り視界が悪い。月に叢雲、全くもって邪魔である。普段であれば「風流だ」などと言えるのであろうが、今に至っては本当に邪魔なのだ。夜目が効くのは幸いか。鳥目なら一寸先は闇。本当に何も見えないだろう。少し離れた仲間を視認するのも難しい。
さて、僕は複数人の大人達と共に廃墟に赴いていた。廃墟といえば、オンボロな屋敷などを思うかもしれないがそうではない。廃れた街と言っていいだろう。ここにはビルの残骸なんかが残されている。外壁は崩れ、ガラスは割られ、もはや鉄骨しか残ってないようなものばかり。水道なんかは既に通っていない。何故ここがこのような事になっているのかはいずれ……いや、すぐに分かるだろう。ちなみに、共にとは言ったが、現在は全員が別行動で廃墟を散策している。
散策をしている理由は簡単。敵陣の偵察だ。ならば敵はここに住んでいるのか。答えはイエスだ。こんな何も無いところにヤツらは住んでいる。
『その先から危険地帯です。建物の陰に隠れて様子を伺ってください』
イヤホン越しに、幼目な少女の声が聞こえる。彼女は僕専属のオペレーターである。先に弁明しておくが、幼女ではない。少女である。
「了解」
足を止め、建物の陰から先を覗き見る。道の先、暗闇の中に小さな光が見て取れる。どうやら、薪をして集まっているようだ。敵は4匹。人ではなく、匹。というのも、僕ら人間が敵対しているのは人ではないからだ。
現在、人と対立しているのは獣人という種族である。この世界には人間の他にも様々な種族が暮らしているが、中でも危険視されているのが、獣人なのである。いわゆる、思考を持つモンスターというやつだ。奴らは刃物だけでなく、銃火器なんかも使用する。
その中でも、今回の偵察対象になったのはゴブリンという種族。個々の能力としては大したものはないのだが、ゴブリンは群れる習性がある。個々の力は小さくとも、それが集まれば厄介なものになる。
ちなみに、ゴブリンの特徴は醜い顔と子供のように低い身長ではあるが、成人男性以上の力を持つ。
わかっているとは思うが、こいつらがこの廃墟の原因だ。獣人は群れをなし人を襲う。その時の対象がこの街であったというだけだ。
「どうすればいい? 排除するか?」
あの数相手ならば一人でどうにでもなる。
『いえ、今回の任務は偵察です。無闇に攻撃を仕掛けるのは得策とはいえません。まだ、数すら確認できてないんですから』
偵察の任務とはいっても、どちらかと言えば潜入に近い任務。敵に見つからず、敵戦力を把握するというのが今回の任務の詳細である。
「そうだな……回り道をする。案内を……っ!? レーヴェ、今のは?」
不意に何かが破裂する音が聞こえた。間違いなく銃声だ。場所はここから少し遠いか……?
『班員が敵に発見されました。すぐに離脱を。案内します』
正しい判断だ。おそらく、他の班員にも同じ判断が下されているであろう。しかし……
「見つかった班員はどうする? 逃げ切れるのか?」
入り組んだ廃墟だが、地の利は向こう側にある。一度見つかってしまえば、逃げ切るのは難しいはずだ。
『今回の任務は偵察です。戦闘は避けてください』
レーヴェは僕が何を言いたいのかを察したらしい。
「レーヴェ、見つかった班員の位置を端末に送ってくれ」
『ですから、今回の任務は「レーヴェ、頼む」……』
静かに、そして強く言った。
『……ああ、もう……わかったわよ。やればいいんでしょ、や・れ・ば! どうせ情報を渡さなくても行くんでしょ? やるわよ! 上に叱られても私は何も知らないからっ!!』
オペレーターことレーヴェは躍起になっているようである。よくも毎回僕のわがままを聞いてくれる。本当にあいつには頭が下がりっぱなしだ。
「いつも悪いな。それより、地が出てるぞ」
『……なんのことですか? 今端末に情報を送りました。確認を』
レーヴェは何事も無かったかのようにことを進める。
左手のグローブ。普段なら腕時計をつける位置に埋め込まれている端末を操作し、この廃墟の地図を呼び出す。画面上には僕の位置が青い点で示されている。そこから少し離れたところに赤い点が点滅している。
「ここか……近道は?」
『そこからの近道はその先の建物を突っ切ることです。どうしますか?』
この先の建物ということは、目の前のゴブリンの群れを突破することになるだろう。それだけではない。下手をすると、建物の中にもゴブリンはいる可能性がある。
考えている間にも、発砲音に気づいたゴブリンの群れは、音の鳴っているほうへ向かおうとしている。
「決まってる。戦闘に集中するためにイヤホンは外すぞ。そっちの後始末は頼む」
『ちょっ!? なんで私がっ――』
僕はイヤホンを外し、ハンドガンを手に取り、目的地に向かって走った。
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国に帰った僕は、報告をするために本部に戻るわけでもなく、いつもの場所に向かった。
この国、バサリアは中世ヨーロッパのような作りの建物が多く並び、その中央にはレンガ造りの立派な城が立っている。いつもの場所とは、その城内にある中庭だ。この城は一部を除き一般解放されている。どんな階級だろうがどんな身分だろうが利用できるようになっているのだ。
中庭のベンチでゆっくりするのが、この世界で僕にとってホッとする……いや、ホッとできる瞬間なのだ。
木々は風に揺られ、月のやさしい光が僕を包み込む。ぐっと伸びをするのが、素直に気持ちがい。
「やっぱりこんな所にいた。本部に戻らないで何やってるんだか」
黒を基調とした制服を着た、腰までの長いストレートの金髪の少女が僕の近くに歩み寄ってくる。身長は彼女の年齢の平均よりはかなり低い。
「レーヴェ。こんな所にどうしたんだ?」
「別に。どっかの馬鹿が落ち込んでいるんじゃないかって思っただけよ」
レーヴェはすとん、と僕の隣に腰を下ろす。
「……そうか。ありがとう」
「そんなんじゃないわよ。馬鹿にしに来ただけ」
そういって、レーヴェはふん、とそっぽを向く。
「それで? やっぱり気にしてるの?」
「そりゃあ、な……」
今回の任務で人が死んだ。やられたのはゴブリンに発見された班員。僕が駆けつけた時には時すでに遅し。ゴブリンの持つ銃によって蜂の巣にされていた。
「あれはシュウのせいじゃない。シュウが気にすることじゃないよ」
「ああ、分かってるさ。戦場には死はつきもの。次は僕かもしれないしな……」
こんな世界だ。誰がいつ死んでもおかしくはない。どんなにいい奴でも、強い奴でも、その生命は一瞬にして散っていく無情な世界。そんな地獄のような世界に僕は生きているのだから。
「そういう話は止めにしよ。シュウは生きてるんだから。私がちゃんとオペレートするから……大丈夫だから……」
レーヴェは、ゆっくりと呼吸をするように僕を励ましてくれる。
「ありがとな……レーヴェ。これからも頼むよ」
「うん。で、今回の後始末だけど、総帥がお呼びよ。明日朝イチで向かうようにって」
いい雰囲気が台無しですね、レーヴェさん……
「待て。どういう事だ。後始末はお前に託したはずだ……」
いつもうまくやってくれるはずなのだが、今回に限ってなぜだ。大した違反もやっていないはずだ。
「今回のは単にやり過ぎね。偵察なのに殲滅してどうするのよ。あの街のリーダーまで倒しちゃって。軍が用意していた戦力も無駄だったし。流石の私にもできる範囲ってものがあるわよ」
グウの音も出ないというのはこのことだろう。
「それもそうだな。ともあれ、支援助かった。流石だな」
「でしょ? 私のハックテクは一級品なんだから」
僕はつい、周りをキョロりと見渡してしまう。誰かに聞かれていたらゾッとする。レーヴェがハッキングして様々な情報を僕の端末に送っているなんてことがバレたら始末書ものじゃすまないだろう。
「そういう事にしておくか」
僕はゆっくりと立ち上がる。
「ん? おかえり?」
「ああ。少し疲れたからな。レーヴェはどうする?」
レーヴェはううん、と唸る。
「私はもうちょっと風に当たってから帰るよ。ずっと機械に囲まれてるのもあんまり好きじゃないから」
「そうか。あんまり遅くならないうちに帰れよ。おつかれ」
「シュウは私の親なのっ!? おつかれー!!」
レーヴェはいつも通り、無邪気に手を振っていることだろう。後に目なんかついていないからなんとも言えないが……
僕は振り返らずにヒラヒラと手を振って返した。
「今日も星が綺麗だ」
空を見上げれば、満天の星空。人は死ねば、星になって空から生きている人間を見下ろしていると、どっかのロマンチストが言っていた気がする。もしそうであるなら、この世界は星が増え続けることであろう。
星を眺めていると、ふと城の窓の奥にいた女性と目が合った気がした。こんな時間まで仕事とはご苦労なことである。
それからはどこにも寄らず、僕の住居である軍の宿舎に戻った。
それから何をしたかなんて言うのはあまり覚えていない。ただ、今ある命を噛み締めて、泥のように眠りについたという事だけは覚えている。