とあるバカップルの一幕
夜中に思いついてつい書いてしまいました。反省はしていない。
「バカぁぁぁぁぁぁぁ!!! あの女は誰なのよぉぉぉぉぉお!!!」
俺が家に帰った瞬間、そんな怒声と共に迎えられた。って、なんでいる。
なんの断りもなく俺の家に当然のごとくいる葵――俺の彼女だ――をスルーし、俺は自室に鞄を置こうとしたところで、その叫びの内容を気にとめる。
「ちょっと待て。何の話だ?」
女? 何かあっただろうか。
「昨日の女よ! あたし見たんだから! アンタが女と仲よさげに話しているところを!」
そう言って、枕が俺に投げられる。危なっ! 取っ組み合いになったら確実に勝てないからって、物を投げるのは止めて欲しい。
余計な物に当たって家がグチャグチャになっても困るので、俺は枕をキャッチする。
「おいおい、だから何の話だよ。女?」
「そうよ! 昨日大学でアンタを見つけたから話しかけようとしたら、イチャイチャイチャイチャしてたじゃない! 誰よアレ!」
昨日……イチャイチャ……女……? あ。
「絶対に違うとは思うが……もしかして、篠原のことを言ってんのか?」
確かに、篠原とは喋った。とはいえ……アレは、そんな焼き餅を焼かれるような話だったか?
「そうよ! 琴美ちゃんよ! アンタ、まさか琴美ちゃんを毒牙にかけようとしたの!?」
「違ぇよ! 単純に明日サークルがあるから、それの連絡を――」
「琴美ちゃんも、人の彼氏を盗ろうとして! あの泥棒猫! 成敗してくれるわ!」
葵が、どこからか、シャキーンと刀を取り出して構える。キリッ(`・ω・´)とした顔をしているが、取り敢えず俺はそれを取り上げる。
「あうっ」
「落ち着け! ったく、篠原にはちゃんと彼氏がいるの知ってるだろ? だからそんなの無いって」
「その彼氏が実はアンタかもしれないじゃない!」
「その発想は無かった」
こいつは何を言ってるんだ。
「って、俺達も会っただろ? 篠原の彼氏」
眼鏡のイケメンだった。爆ぜろと思ったのはここだけの秘密。
「別れてアンタを狙ってる可能性も!」
「会ったのはほんの数日前だろうが! そんな簡単に別れるかよ!」
「分かんないわよ? アンタ超魅力的なんだから、いきなりアンタに惚れてもおかしくない!」
「ぬぁっ!?」
いきなり恥ずかしいことを言われ、俺は顔がちょっと赤くなる。……こいつ、照れさせる作戦か?
「そ、それはともかく! とにかく俺とあいつはお前も知っての通りただのサークルの友達で――」
「ただのサークルの友達にしては距離が近すぎるわ!」
「お前、昨日は、サークル棟の2階の窓から顔を出してた篠原と1階から話してたんだぞ!? これ以上無いくらい離れてるじゃねぇか!」
「うるさいうるさい! 実距離なんて些細な問題よ! 問題は心の距離よ!」
「心の距離-!? あ、あのなぁ!? 昨日の会話、こうだぞ!?」
* * *
『あ、おーい、調度いいところにいた。篠原』
『どうしたんですか? いつもにましてお顔が優れないようですけど』
『そこは顔色じゃねぇのか!?』
『……あぁ、鏡でも見たんですか。ご愁傷様です』
『得心した、って顔で頷いてるんじゃねえっ! っつーか、俺の顔はどんなリーサルウェポンだよ!』
『……うっ』
『この程度の会話で吐き気を催してるのか!?』
『あの、貴方の顔を見ていると心の底から何かがわき上がってくるんです。これは……なんなんでしょうか』
『嫌悪、もしくは吐き気だろうな。って、嫌悪してんじゃねえよ!』
『あの、そんなに見つめられたら私、もう訴訟する以外、道が――』
『速えよ! ピ○チュウの電光石火ばりに速えよ!』
『……ふっ、もしかして、面白いことを言ったつもりなんですか? なんなら、採点してあげましょうか、80点です』
『あれ、意外と高得点』
『無論、100000000点中ですが』
『なんでだよっ! おかしいだろ!』
『まあ、貴方はその程度の人間ということです』
『……もう泣いてもいい? 俺、なんかガリガリHP削られていくんだけど』
『ハンッ』
『鼻で嗤うのやめようぜ!?』
* * *
「これの何処にラブ要素を感じるんだお前は!」
「心の底から気持ちがわき上がってくるところよ!」
「嫌悪感だぞ!? 俺嫌悪されてんだぞ!?」
「些末な問題よ」
「なんでもそれで誤魔化せると思ったら大間違いだ!」
しかも些末じゃねぇ。
「あ、あと! アンタが琴美ちゃんを見てる眼がいやらしかった!」
「彼氏を捕まえていやらしいとは何事だよ!」
「とにかく! アンタが悪いぃぃぃぃ!!!」
今度はクッションが飛んでくる。だから危ないって。
「あー、もう! だからアイツと俺には何もねぇよ!」
「ふん、どうだか! アンタが琴美ちゃんの脚に見とれてるの知ってんのよ!」
「なっ、ぐっ、がっ」
もの凄い勢いで言葉に詰まった。
「………………………最低」
付き合う前にもされたことがないような、蔑む目で見られた。
「はぁ!? み、見てねぇし」
「ふん、まあいいわ。……で? もうネタは挙がってんのよ。まずアンタ、貧乳フェチで足フェチで、ドMだし」「いや、今俺の性癖関係ある? っつか、ドMじゃねぇ」「他の女に見とれてたらどうするんだっけ? 態度によっては考えてあげなくもないわよ」
どうやら俺が脚を見ていたことはバレているらしい。仕方ないこれは素直に謝っておこう。
「ぐっ……ちょっとアイツの脚いいなー、とか思っててすみませんでした……」
「やっぱり見てたのね! 最低!」
「謝ったら許すって言っただろ!?」
「考えるって言っただけよ! やっぱり浮気じゃない! 最低!」
「だから違う! ホントに俺とアイツの間にはなんもねぇよ!」
つーかまた俺は誘導尋問に引っかかったのか。高校時代から何度目だよ。
「何に誓う?」
「俺のラノベ、Blu-rayボックス等オタグッズに誓う!」
「そこでオタグッズ!? 一番愛してるものに誓うんじゃないの!?」
「だからオタグッズに誓っただろう」
何を言ってるんだこいつは。俺の愛する物はオタグッズに決まってるだろ。
「あたしはオタグッズ以下なの!? う、うわぁーん! バカバカバカバカバカ!」
ぽんぽんといろんな物が飛んでくる。っておい、筆箱投げんな当たったら痛いだろうが!
バカバカ言いながら物を投げてくる彼女に俺は近づき、手をつかむ。
「ったく、物を投げるなよ」
「う~……バカバカバカ! 大体、健流が最近忙しいのが悪いんでしょうが!! バーカバーカ!」
「はぁ?」
そういや、最近何処にも連れて行ってないな。大学忙しかったし。
「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバーカバーカバーカバーカバー――むぐっ!?」
あんまりにもバカバカバカ五月蠅いので、仕方なく葵の口を塞ぐ。……唇で。
ジタバタ暴れて逃れようとするので、俺は頭と腰を抱き、動けないようにする。
20~30秒くらいそうしていただろうか。流石に少し息苦しくなってきたので、唇を離す。
「……………………バカ、こんなことしても誤魔化されないんだから」
メッチャにやけた顔で、葵が強がる。
「はぁ……ったく、で? じゃあなんなら誤魔化される?」
俺がジロリと彼女を見ると、彼女は顔を真っ赤にしてから、逸らした。
「……早く言えよ」
「…………お風呂」
「あ?」
「…………………お風呂、一緒に入って」
唇を尖らせて、チラリと上目づかいで俺を見る葵。え、可愛すぎる。
「……しょうがねぇな。で? その後は?」
「そ、そりゃあもちろん……って!? お、女の子に何を言わせる気なのよ!」
「なんだ、言えないようなことをして欲しいのか?」
「っ! ば、バカ! 知らない! 先に入ってるから!」
彼女はそう言うと、バスルームの方へ走っていった。
……ちなみに、今家に近藤さん(避妊具)は5枚くらいしかない。足りるかな。
「うちの風呂、2人で入るには狭いんだけどな。ったく、寂しいならそう言えよ」
俺は苦笑しつつ、ため息をつく。
「ほ、ホラ! 何やってんのよ! さっさと来なさいよ!」
もう服を脱いだっぽい、葵が俺に向かって叫んでくる。
「はいはい」
まったく、世話の焼ける女だ。