わたしから半径一メートルに近寄らないで
「わたしから半径一メートル以内に入ってこないで」
まさかこれほどまでに嫌われているとは。二メートル離れたまま聞き耳をたてる。
「半径一メートルにあなたの体が入った途端、死ぬわよ」
死ぬのは嫌だ。それでも俺の足は前方の彼女に歩みを止めない。なぜか止まらない。わかっていた。これは魔法による呪縛なのだろう。彼女が俺に魔法をかけたんだ。きっとそうだ。無限ループという名の魔法を。
こうして俺の一日は終わり続けた。
★オワリ★
朝起きるとまず最初に自室で蛍光灯を目視した。二つ連なり点灯しているそれはまるで天使の輪っかのように神々しく思えた。きっと寝ぼけていたのだろう。視界がぼやけている。
「くそ。また電気消すの忘れてた」
寝る前に照明を切るのを忘れるのはよくあることだった。
「もう学校に行く時刻だやばい」
布団をふっ飛ばして、朝食をとって、自転車で村崎学園に向かった。ペダルのこぐスピードを上げた。先生が校門前に待機している。
「朝礼はじまるから早く教室に入れよー」
なんとか間に合ったようだ。急いで教室に入ろうと引き戸を開けたら敷居をはさんだ向かい側に黒切さんがいた。俺は一メートルよりも近い距離で彼女の顔を見た。無表情でなにを考えているかわからない。でも抑揚の乏しい声が聞こえた。
「バイバイ」
低い音程の声音だ。俺は目の前が真っ暗になった。
☆
朝起きた。まぶしい。ああそうか。電気スイッチを消していなかったからだ。くそう、いつの間にか寝ていた。昨日の記憶が思い出せない。でも学校にいかないと。
「あら、今日は遅いのね。大ちゃん」
「大ちゃんじゃない。大地だよ」
両親には大ちゃんと言われていた。その呼び方はやめてほしかった。もし同級生に聞かれたら俺のクールなイメージが崩れる。
早速、家を出た。通勤手段はバスだ。スマートフォンに表示されている現在時間を確認した。どうやらなんとか間に合いそうだ。
バス停で十分ほど待ったら、目的のバスがきた。車内に乗り込むと小さな違和感があった。乗客が少なすぎる。この時間帯は満員になるほど人が混んでいるはずなのだが。視線を座席に向けると見覚えのある人間がいた。黒切さんだった。軽く会釈をすると、向こうは無反応だった。一瞬だけ視線があったような気がしたのだが、まぁ気にすることはあるまい。俺に気づいていないだけかもしれないし。彼女との距離は二メートルくらいだろうか。ここら辺の座席に腰をおろすことにしよう。
やがてバスは村崎学園に到着した。下車しようと出口に向かう。なにげなく後ろをふりむいた。微動だにしないでじっとしている人がいた。どうしたのだろう。早くおりないと朝礼に遅れてしまうのに。
「おりないの?」
聞くと返事がきた。
「おりる」
「じゃあ早くしないと。時間が無いよ」
「時間が無い?」
「そう。担任に怒られちゃう。一緒に行こうよ。同じクラスなんだし」
「じゃあわたしから離れて」
「は?」
「わたしから半径一メートル以内にに入ってこないでよってこと」
その言葉の意味を深く考えてしまう。俺はもしかすると嫌われているのだろうか。
教室に入る。歩を進めると五メートル後ろから彼女がついてきた。背中に視線を感じながらここまできた。あいつはいったいなにを考えているのだ。
席についた。黒切さんとの距離は三メートルくらいだろうか。八時になってすぐに担任の教師がやってきた。「起立、礼」という号令で朝礼が終わったので、一時限目の授業が始まる前に行動をおこそうと思った。距離は一メートル前後くらい。
「あのさー」
声をかけるとピクと肩が少し震えた。後ろから呼びかけたから驚いたのだろうか。
「聞いてる? 俺なにか悪いことしたかな?」
椅子から立ち上がり彼女は逃げるように廊下の方に向かう。俺はそれを逃がさなかった。とっさに手が彼女の細い腕をつかむ。すると表情が固定された顔がふりむいた。腕をつかんだ時点で距離は零メートルに近い。視界が黒で塗りつぶされた。
☆☆
目が覚めると記憶の断片が消えていた。なにがおこったのかよくわからない。頭がくらくらする。自室から出て身支度をした。昨日のことは覚えていない。でも俺は学校にいかなければならない。時間短縮のために食パンを口にくわえたまま通学路を走った。自転車はないし、バス通学でもない。だから走るしかない。モグモグと炭水化物の栄養を摂取しながら懸命に走った。
住宅街の十字路の角を曲がると人がいた。同じ学生服を着ているから面識があるかもしれないと思い、凝視してみる。そいつは黒切さんだった。下の名前はたしか彩火だったかな。向かうも俺に気づき、逃げた。
「••••••嫌われている?」
そう思った。逃げた方角に学舎があるので、まるで鬼ごっこのように彼女を追いかけことにした。俺は鬼じゃねえよ。
持久力で勝てる思っているのだろうか。もう距離が五メートルも無いというのに、彼女は走るのを諦めない。なんという粘着質。
「おーい。なんで逃げるんだよ」
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
だいぶ息をきらしているようだ。そうなったのは俺のせいかもしれない。なので追いかけるのをやめた。すると相手も走るのをやめた。上半身を前かがみにして膝に手をおき、苦しそうに息をを吸ったり吐いたりを繰り返している。
「••••••なんか、ごめんな。よくわからんが走らせてしまったみたいで」
「はぁはぁはぁはぁ。近寄るな!」
俺はその言葉に反して近寄り、謝辞を伝えようと試みた。しかし、それはかなわなかった。距離が一メートルにさしかかったところで、視界が黒の絵の具で塗りつぶしたように真っ暗になったからだ。
☆☆☆
朝起きるのは億劫だ。照明の電気を消して、居間に向かう。
「大地。今日は起きるの早いな」
「まぁね」
頭がくらくらする。頭痛ではないく、ただくらくらと酔ったような感覚になっていた。昨日はなにがあったのだろう。いつの間にかベットで横になって眠っていた。なにかを忘れている? 判然としない記憶に整理などできなかった。
外に出ると雪が積もっていた。駅に向かった。歩くとキュ、キュ、と雪が踏みつぶされる音がした。今日の天気予報は晴れだったはずなのだが。まぁこういう日もあるだろう。
駅に着くと、アナウンスがあった。七時二十三分の列車は雪のため遅れるとのことだ。だからホームで寒い中、待たないといけない。スマートフォンをいじって暇をつぶそうと思いたちメールボックスを確認した。すると一通だけ新着受信メールがあった。
(メッセージ) 黒切彩火
登校してくんな!
俺は思わず口元がゆるんでしまった。『登校してくんな!』なんていわれても。そんなこといわれても従わない。俺はそこまで従順な性格ではないからな。
十分ほど遅れて電車が到着した。下車する方が数人いた。その中に見覚えがある人物がいた。黒切さんだった。目の前が真っ暗になった。
☆☆☆☆
目が覚めると世界は何も無かった。無に帰着したようだ。そんなことはどうでもいい。俺は学校に行かないといけない。走ろう。
「ハァハァハァハァ」
無我夢中とはこの感覚なのだろう。もはや体が意識と分裂したように勝手に動きだす。俺はいったい誰を探しているのだろう。そんなの決まっている。あいつだ。
暗闇で自分がどこにいるのかわからない。でも小さな光る点が見える。そこまで行けば目的が達成されるような気がする。あそこまで走ろう。がむしゃらに不恰好に走り続けた。
足が痛い。ふくらはぎが筋肉痛になっているのだろう。その場に倒れこみ俺は眠気におそわれる。手を伸ばすとなにか固い感触があった。それが黒切さんの履いている黒い革靴だと気づけるはずがなかった。ボスッとその靴が俺の頭を踏みつけた。なにすんだてめえ。
☆☆☆☆☆
起きると異世界にいた。なぜ異世界だとわかったのだろう。異なる世界••••••。そもそも何の世界に対して異なるのかわからない。知っている語彙の数が少ない俺はこの状況をうまく伝えられるか自信がない。でもこれだけはわかる。ここはファンタジーの世界だ。山々が連なったそのさらに上。空にはドラゴンのような生き物が浮かんでいた。翼をはばたかせ大空を自由に飛び回っている。それは一体だけではない。数十体もいるのだ。
ぼやけたままの思考で俺は草原をひたすら歩く。すると妖精のような精霊のような神々しい容姿の生き物に出会った。「ここはどこなのか?」と問いただすと、そいつは「メテオグラウンド」と答えた。答えてくれたので俺はそいつに「ありがとう」とお礼をいった。その直後、メテオグラウンドが俺の胴体をふっとばした。メテオグラウンドは火属性の上級魔法だった。炎に包まれた熱い岩石が俺の全身にジャストミートしたのだ。その衝撃で脳震とうをおこし意識があっという間に途切れた。もはや即死並みの大怪我だった。
目が覚めると頬に柔らかく温かい感触があった。それが人肌の温度だと理解するのに少々時間がかかった。視線をずらすと誰かの膝のようなものが間近でみえた。••••••これは膝枕では⁉ と俺は歓喜した。首を反転させるとそこに知っている顔があった。感情を読みとりにくい冷静な眼差しをした黒切さんだった。視線が交差した瞬間、記憶と世界が無になった。
☆☆☆☆☆☆
思い出せない。今までなにがあったのだろう。俺は死んだような気がするのだが、違ったのだろうか。腹部をさすってもなんの痛みもない。俺はどうしてここにいる? ベットから体を起こし、部屋を出た。もうこんな時間。急いで学校に行かないと。重い足取りで玄関を出た。外気は冷たく俺の体温をうばいにかかる。それでも学校に行くために走りだす。ショルダーバックはふわりと浮かんだり、腰にぶつかったりを繰り返す。十字路を曲がると彼女に出くわした。
「黒切おはよ!」
「ちょっ。なに口にくわえてんの?」
「食パン」
「うわーアニメにありがちな格好をこんなにリアルに再現できるんだ••••••」
「は?」
「んーん。なんでもない」
「まぁどうでもいいが、早く行こうぜ。このままのペースだと朝礼に遅れんぞ」
「はは」
一緒に走る。彼女とは一メートル以上の距離をあけた。なぜか無意識に体がそうしていた。頭の中の危険信号が警報を鳴らすかのように。これ以上、近づくなと指示をだしていた。
「明日守くん。どうした?」
「いやなんでもない。そのまま先頭を走っていてくれ」
これが恐怖か。なにを恐れているのか自分でもよくわからないけれど、先ほどから全身から冷や汗をかいている。寒いと感じる余裕すらない。俺は決心した。黒切彩火には近づいてはならない。そんなことを考えていたらいつの間にか校門に到着していた。
「明日くん。あのね、今日••••••お昼一緒に食べない?」
階段を上がっている際中にそんなことを言ってきた。
「一メートル距離をあけてくれたら、大丈夫だけど」
「え?」
「いや一緒に食べるのはいいけど、近くでは無理かな。せめて二メートルは離れてもらわないと」
表情をみたらなんだか少し悲しんでいるようだった。
「それって、わたしのこと避けてる?」
「うん。すまないけど」
「そ••••••そうなんだ。で、でも、昼には屋上に来てね」
屋上で昼食ってなんだかアニメっぽいな。そんなことを思いながら、二メートルほど距離をあけた状態を崩さずに教室に向かった。
おお! 無事だ。これまでになにもおこっていない。昨日のことはよく思い出せないけれど、きっと昨日よりかはましな学生生活をおくれている。目の前が真っ暗になることはなかった。そうだ。俺は怖がる必要なんてなかったのだ。あいつに近づかないように注意をはらえば平穏な一日を過ごすことができるのだ。大丈夫。上手くやれる。
昼休みになった。屋上へ向かう。引き戸を開けると真上から陽光がさしていた。寒い季節だから人の姿は見当たらない。今日のような雪の積もった日は、室内で食事をとるのが当たり前なのだろう。だけれど辺りをよく観察すると一人だけいた。ちゃんと約束の時刻前に来ていたようだ。雪の積もらない屋根のある日陰に腰をおろしている。
「ごめん。待ったかな」
「んーん」
彼女から距離は三メートル前後くらい離れている。その位置に俺も腰を下ろす。
「寒くないか?」
「大丈夫ありがとう」
『大丈夫』とは言っていたが、彼女の体は小刻みに震えていた。俺はポッケに忍ばせていた温かい使い捨て懐炉を三メートル先に放り投げた。
「痛」
「ごめん。強く投げすぎた」
黒切さんは鋭い目で俺を睨んだ。あの彼女が感情を表情に出すのは珍しいことだったので少し驚いた。
「わたしのことそんなに嫌い?」
「は?」
「今日の明日くんいつもと違う。明日くんらしくない。まるでわたしから距離をおこうとしているみたい」
「そうだね。俺は俺らしくない。それが俺なんだ」
彼女の眼光はギラギラと俺を睨み続けている。相手に畏怖をあたえてしまいかねないほどの攻撃性がそこにはあった。
「つまりわたしが嫌いなんでしょ」
なぜそうなった。『俺は俺らしくない』と言ったことがよくなかったのだろうか。当たり障りのないことを言ったつもりが敵の攻撃性は強まる一方だ。もしかすると俺はいまから女子に殴られるのだろうか。もしかするとありえるかもしれない。万が一のことを考えていつでも逃げられるように相手の動向をうかがう。
しかし、敵は俺を睨み続けるだけで襲ってきたりはしなかった。もし襲ってきたら瞬時に逃げる予定だったのだが。
黒切さんは先ほど投げつけた懐炉を片手に持ちながら、立ち上がる。
「近寄ってよ。ほら懐炉は返す」
その片手を俺の方に差しだした。
「その懐炉はあげたものだ。返却は無効だ」
「ただ近寄りたくないだけでしょ。もしかして今日のわたし臭いかな?」
「全然臭くないよ。気品あるジャスミンの香りだよ。俺はただ一メートルよりも近くに寄れないというだけで••••••」
彼女の思い込みを客観視させるために、詳細を話そうと思った。
「嘘嘘。どうせ朝、出会った時から『こいつから牛糞を圧縮したような異臭がする』とか思っていたんでしょ! こんなわたしなんか粗大ゴミとしてまとめてゴミ焼却炉で灰になるような屑なんだ。そんな人間近づきたくないよね」
「そうだね。人間は燃やすと灰になるからな」
彼女は少しだけ泣きそうな顔で遠くの景色に視線をうつした。
「でも人間を燃やすと燃料になる。この世に無駄なことや生きているだけで無駄な人間なんて数えきれないほどいると思うけど、その場しのぎの人間の豊かさという小規模で考えたらきっとなにかのやくにはたっていると思う」
人間は生きているだけで地球を汚染させているようなものだけれど。
「言っている意味がよくわからないけど••••••。なんだか、いつもの明日くんみたいでホッとした」
彼女の表情は黒髪に隠れてよく見えない。髪の隙間からかすかに安堵の笑みを浮かべているように見えた。下を向きながら、
「手をつないでもいい?」
と声が聞こえた。その時点でなにもかもが手遅れだった。疑問形で尋ねられたはずなのに俺の手は一メートルよりも近くに寄った彼女の片手に繋がれていたのだから。
俺はすべてを悟った。また終わった、と。
☆☆☆☆☆☆☆
まぶたをあけると蛍光灯の明かりがまぶしかった。眠る前に蛍光灯のスイッチを消し忘れたのだろうか。昨日のことはほとんど覚えていなかった。ん。右手になにかを持っているぞ。使い捨て懐炉だ。どうしてこんなものを握りながら眠っていたのだろう。昨日のことはわからない。あまり気にしても仕方ない。憶測なんて、面倒なだけだ。俺の部屋からでよう。
「じゃあ行ってくるよ」
「気をつけて行ってらっしゃい大ちゃん」
「ああ」
両親に手をふって別れをつげた。なにに気をつけるのかというと、車だろう。今日の気温は氷点下だから路面が凍っているのだ。スリップをおこした二tトラックが歩道に突っ込んでくるなんてことがあるかもしれない。気をつけよう、なんて俺が思うはずが無かった。痛いのは一瞬だ。大丈夫。全速力で走って学校に行こう。
十字路の角を曲がると知り合いがいた。黒切さんだった。
「ハァハァハァハァ、もっと速く走らねえと朝礼に遅れんぞ!」
「え?」
声に気づき後ろを振り向いた時には、俺は彼女を追い越していた。疾風のように全速力で駆け抜けたそのスピードが目でとらえられる限界の速度に達していたからかもしれない。黒切さんは俺の姿を見つけることなく、首を傾げたまま疑問符が解消されることは無かった。
「ウォォォォォォオォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」
俺は雄叫びをあげながら懸命に走る。処刑台にかけられた竹馬の友なんていないが懸命に走る。このままのペースだと遅刻してしまうのだ。だから俺は走る‼ 俺には使命があるのだ‼ 皆勤賞をとって両親を喜ばせるという使命がな‼
「ウォォォォオォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」
これを死力を尽くすというのだろう。もう死ぬかと思った。太ももの血液が酸素不足で「ギアーーー」と悲鳴をあげているのが聞こえる。たぶん幻聴だろう。
時間短縮のために道をふさぐ石垣を飛び越えた。そして国道に出た、と思った途端、二tトラックが俺に突っ込んできた。どうやら運転手は突然出現した俺に気づいて急ブレーキをかけたらしい。そして凍った路面でスリップしたらしい。俺、車に巻き込まれるらしい。死ぬらしい。せ、せめて痛いのは一瞬だけでお願いしま、あ。
俺は目の前が薄暗くなった。別にトラックに轢かれたわけではない。背中を押されたのだ。仰向けに倒れこみながら現状を把握する。俺に覆いかぶさる長い黒髪の似合う綺麗な女性がいた。黒切さんだった。彼女は俺を助けてくれたらしい。頭から血を流している彼女から小さく声がした。
「よかった。間に合ったんだ」
口の両端が少しだけ引き上がり、柔らかな笑みを向けている。いったい誰に向けている? ああ、俺か。
「あ、りがとぅ」
口がこわばり上手くしゃべれなかったけれど、きちんとお礼は言えた。
目の前が真っ暗になった。
☆☆☆☆☆☆☆☆
目が覚めた。目がしらが熱くなっていた。涙のしずくが重力にそって頬をつたい、枕に落ちた。なぜ泣いているのだろう。悪い夢でもみたのだろうか。どんな夢だったのだろう。しかし、俺にはそんなことを考えている余裕は無い。早くベットから出て、学校に行く支度をしないといけない。
朝食をすませた俺は自転車を漕いで村崎学園に向かった。いつもの通学路はなんだか湿っぽい。それはきっと鼻水が止まらないせいだ。鼻腔から鼻水が出ないように何回もすすった。すると口の中に鼻水が侵入してきた。その鼻水を飲み込みながら俺は誰かを探していた。ぼんやりとおぼろげだが俺はたしかに誰かに助けられた。あの時の記憶などてんで覚えていないけれど、でもどんなイメージだったかはわかる。死ぬほど怖いことがあったんだ。仕方ないと諦めたんだ。背中を押されて助けられたんだ。背中を押した人物の顔は••••••。
「やっぱりおもいだせない」
ハンドルから片手を離し、自分の前頭部を軽く小突いた。おもいだせないってなんだよ。これじゃあ会って話すこともできないじゃねえか。自転車のペダルを漕ぐ回転速度を上げた。
学舎の教室に到着した。下駄箱で知り合いとはち合わせになった。黒切さんだった。
「おはよ。どうした? 目が真っ赤だよ」
「おう。いやなんでも••••••」
俺はうつむきながら下履きを靴入れに収納した。自分の情けなさに落ち込んでいる。あれは夢ではない。昨日おきた出来事なのだろう。なのに俺を助けてくれた恩人の事を、全然思い出せないなんて。
「おーい。キモリくん近寄ってこないでよね。わたしから半径一メートル以内に近寄ったら殺すからね」
「じゃあ、速く前に進めよ。後ろがつまっているんだよ。••••••て俺の名前は明日守だ。キモリじゃねえ」
下駄箱の下に敷かれた踏み台が一直線になっているから前の人が進まないと渋滞になる。
「はいはい」
そんな返事とともに彼女は階段のある方に歩き出した。俺もその二メートル後ろをついていく。
「ついてくんなよ。キモイ」
「仕方ないだろ。同じ教室なんだから。それより、黒切さん頭大丈夫?」
黒切さんの頭には白い包帯が巻かれていた。
「はあ⁉ 気にすんなかすり傷だ。キモリに心配されるほどじゃないからさ」
「そうか。それはよかった」
階段の最上部に彼女がいた。制服のスカートの下から大胆に露出している素肌を気にする素振りはなかった。下にいる俺はパンツが見えそうな角度だったので、視線を左右にそらしながら階段を上がった。
「きゃあ‼」
ん。と俺が真ん前を向いた時にはすべてが終結していた。彼女は階段の段を踏み外し二メートル下の段にいる俺に落下してきたのだ。ドッと鈍い音がしたあと、目の前が真っ暗になった。目の前が真っ暗になる寸前、俺は理解した。彼女が俺に覆いかぶさる態勢が、あの背中を押した人物に類似していたということを。イメージは具体化されおぼろげな記憶と合致したが、一メートルの絶対領域に入ったせいでなにもかもが無になってしまう。もう一度お礼を言いたかった。ちゃんと昨日のことについて話しをしたかった。でも、それはできない。嬉しいのか悲しいのかよくわからないけれど、涙が出そうになった。
踊り場で馬乗りになっている人間の口から声がした。
「ごめん」
俺は黒に染まった世界でなんとか最後の声をふりしぼる。
「••••••ありがとう」
「変態」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
朝起きた。
「バカだなあ俺」
記憶は完全には忘却していなかった。目の前が真っ暗になったにもかかわらず、昨日のあの場面のことを覚えている。彼女の体重が俺を押しつぶしたあの階段での出来事を回想して、思わず吹き出してしまう。自分に失笑だ。あの場面で『ありがとう』だなんて不適切な発言をしてしまったことを思い出し、口元がゆるんでしまう。ああ、バカな俺よ。変態な俺よ。爆死してしまえばいい。
部屋を出て、ダイニングに向かう。朝食をとって制服を着て、家を出た。今日もあいつに出会うのだろうか。そう思うと走る足にかかる負担が軽くなったように感じた。また出会えればいい。そうしたらこの足取りがもっと軽快になり、宙に浮くような心地になるに違いない。
十字路を曲がる。もしかしたらここに"彼女"がいるかもしれない。視線を向けるとそこには黒切さんがいた。押し寄せる感情とは裏腹に平然をよそおい「おはよう」と声をかけると「おはよう」と返してくれた。「せっかく出会ったんだし一緒に登校しよう」と言うと彼女は頷いてくれた。踏み出す足は、なんだか普段より嬉しそうにリズム良く前進していた。
もう少しで目的地の門にたどり着く距離になった。二メートル程離れたまま俺は言う。
「昨日のことよく思い出せないんだけど、でも朝••••••黒切さんが階段から落っこちたのは覚えていてさ。あの時の俺を下敷きにした姿が••••••なんていうか、一昨日の光景に似ていて」
しどろもどろになりながら話す。
「あの時、俺は死にそうだったところを黒切さんに助けられたんだ。この話し合ってるよね?」
すると彼女は考える仕草をしながら「実は••••••」ときりだす。
「あのね。わたしも昨日、一昨日の記憶をあまり覚えていないの。目の前が真っ暗になった以前の記憶が朦朧してる。なんなんだろうね。明日守くんを助けたなんて覚えてないから、今、聞いてびっくりしてるんだけど」
「••••••そ、そんなことってあるんだ」
二人とも昨日、一昨日のことをあまり覚えていないなんて。それは偶然では片付けれない事象だろう。"目の前が真っ暗になった"だなんてオカルトな共通点が、この世界に非現実的なことがおこったことを暗に示していた。あと『一昨日のことをあまり覚えていない』という素っ気ない返事に少しだけ悲しくなった。
「やっぱり変だよね?」
「そうだね。これは普通じゃない」
「あのね。近寄って話してくれる? 走りながらだから聞き取りづらい」
「ああ」
目の前が真っ暗になった。
俺は一つ質問を忘れていた。昨日、一昨日よりも以前の記憶は覚えているのか? と疑問を投げかければよかった。そうすればこの不思議な出来事の謎を少しは理解できたかもしれないのに。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
俺は朝に目が覚めた。昨日のことは忘れていた。ほとんど思い出せない。だけどそれは瑣末なことだろう。忘れるということは抽象化するということなのだから、健全な脳味噌だ。昨日のイメージがぼんやりと浮かぶ。昨日は、誰かと一緒に登校したような気がする。いったい誰だろう。風になびく長い髪。女性だったと思う。
「わからない」
もういこう。学校に。
クラスルームに到着した。賑やかな休み時間。いつもの日常。俺はふと、なにかが足りないことに気づく。今日はなにかが欠けていた。それは一人しか思い浮かばない。昨日のイメージに出てきた女性だ。なんだか胸がざわつき落ち着いていられない。その人物に出くわしていないという事実が頭のすみで引っかかり、いてもたってもいられなかった。
教室を見渡してもあのイメージの女性はいない。なぜだろう。おかしい。いつも出会っていたはずなのだ。なのに、なんで今日に限っていないのだろう。
朝礼が始まった。朝礼が終わった。授業が始まった。授業が終わった。終礼が始まった。終礼が終わった。俺は帰宅した。ありふれた日常が流れ、だんだんと俺は忘れているという事実すら忘れていくのだろう。それだけは嫌だ。
午後十一時になった。ベットの上で、今日のことを振り返る。パズルのピースが一つ足りないような、違和感。やはり俺は彼女のことを••••••。俺は念じた。
「もう一度、真っ黒になる不思議な世界で生きたい」
目の前が真っ暗になった、と思った。でもそれは違った。ただ眠気におそわれてまぶたを閉じただけだった。
朝起きた。昨日のことは覚えていなかった。それでも俺は学校に行かないといけない、ということはわかる。
「気をつけて行くのよ。大ちゃん」
「ああ」
両親に別れを告げて、家を出る。口にくわえた食パンはとても美味だった。遅刻しそうな時間だったので、俺は駆け足で走った。口にくわえた食パンが上下に揺れた。十字路を曲がると人がいた。黒切さんだった。
「このままのペースだと朝礼に遅れんぞ!」
「え?」
俺は疾風の如く尋常な速さでその人物を追い抜いた。たぶん顔は見られていない。この走る勢いを殺さずに直進した。今日はマイナス五度という低温だから路面がところどころ凍っていた。そんな摩擦度の低い路面を全速力で走った。すると靴底にローラーが付いたように滑らかに前進した。その刹那、脇道から入ってきたなんだか見覚えのある二tトラックが急ブレーキをかけた。どうやら俺とトラックは一緒にスリップしながら正面衝突するらしい。目の前が真っ白になった。
雪だ。空から雪が降り始めたようだ。視界が白くなったのはそのせいだろう。まるで俺が死ぬことを称えているかのように劇的に降り出したので、俺は思わずこうつぶやいた。
「時間がゆっくりに感じる。これってあれか。幸福な最期ってことか。まるで走馬灯のような」
言い終えた直後、俺は背骨を蹴られた。背中に靴底のスタンプのような痕が残った。とても痛かった。俺はこの一撃の蹴りで路肩に吹っ飛ぶのと同時に「ウグッ」というダメージ音をはき出した。
「わたしをおいて行くなんて酷いよ」
無様に倒れ込みながら、声を発する。
「黒切さん。と••••••トラックは?」
よく見るとトラックが消えていた。先ほどの事故寸前がなにごともなかったように、エンジン音も聞こえない。
「大丈夫だよ。もう真っ暗になったからね」
「あっ」
すでに目の前が真っ暗になっていた。
☆×11
目が覚めた。蛍光灯が「ぶー」と小さな音を出しながら、発光していた。だからなんだというのだ。今日はちっとも目覚めが良くない。疲れた。ベットから立ち上がり、自室から出た。億劫そうに足を交互に動かす。ゆらゆらとフラつきながら頼りない足取りで、学校にいった。俺はなんのためにこんなことをしているのだろう。わからないけれど、自然と体が動いてしまうんだ。
「はぁ••••••はぁ」
ため息が二つでた。路面では車が行き交う。なにが楽しくてこいつらは動いているのだろう。人間が動かしているから動いているのだとしたら、別に具体性のある意味なんてないだろう。俺は俺自身が動いているのが理解できないように、車体に取り付いたタイヤもなぜ、なんのために回っているのかわからないだろう。
「人間のためっていっても、自分自身がどんな風にしてできているかわからないのが人間てやつなんだから••••••はぁ」
また、ため息がでた。通学路を歩くのは疲れる。つまらない。路面のコンクリートを見つめたら、なんだか視界が黒くなった。コンクリートが黒色だからそうなるのだろう。それなら白線を視界に入れよう。路面に引かれている白線の正式な名前はわからない。この線を踏みながら進もう。そしたらなんだかおもしろそうだ。ゲーム感覚でゆっくりとした足取りで白線の上を進む。だいぶ進むと扇状にカーブする区間があった。白色に足を乗せて器用に右折する。よし。まだ失敗していない。白線の上を歩いている。
「明日守くーん。奇遇だね」
十メートル先に黒切さんがいた。手をふっている。にたにたと笑いながら近寄ってくる。俺は白線に意識を集中させたかったので返事はしなかった。下を向きながら"黒を踏んではいけない"というゲームをしてるのだ。
「奇妙なことをやってるね。面白い?」
「さぁ」
黒切さんはさらに俺に近寄ってきた。距離は二メートルくらい。白線はまた扇状に急カーブするようだ。スローモーションで足を地面から持ち上げる。なんとか曲がれた。これで彼女の進行方向から外れたはずだ。こっちの道だと村崎学園から遠ざかる。だがうしろから人の気配が続いていた。
「おーい。そっちに行くと元の場所に戻っちゃうよ」
「どうかな」
白線ゲームをやめるつもりはなかった。そのまま五十メートルぐらい直進したら、また扇状の急カーブになった。また右折だ。今回は慣れたせいか、前回よりもスムーズに曲がれた。そしてまた五十メートルほど直進する。また白線が半円状になっていた。ん。また右折だ。半円状ということはもしかすると。
「無限ループだよ。こんなことしてなにが楽しいの?」
うしろから声がした。先ほどからずっと後方をついてきていたのだ。俺はやっとまともな返事をする気になった。やる気はあったらしい。
「楽しさっていうのはね。誰かに与えられるものじゃないんだよ。自分で勝手に感じるものなんだ。だから黒切さんの質問に真面目に答えるとしたら」
「うわ。いきなり饒舌になった」
「いいじゃん。好きにしゃべらせてよ」
「んー。ま、いいけどさ」
「だから、さっきの質問に素直に答えるとしたら」
「ひょい」
「うわぁ! 近寄ってくんなよ」
「わたしもそのゲームにまぜて」
「えー」
「さっさと行っちゃいましょ」
「うーん。あのさぁ。ルールは知ってる? "黒は踏んではいけない"んだよ」
「切っても?」
「は?」
「はい切ったー」
「え。近い」
二十センチくらい先にいた。超近距離にいるので居心地がわるい。なるだけ離れてほしい。
「もうおしまいだよ。もうゲームオーバー。黒切っちゃったもんね」
彼女は片手を手刀みたいに真っすぐにしたまま、俺の頭をチョップしていた。
すでに目の前が真っ暗になっていた。
☆×12
俺は目が覚めた。
☆×13
俺はなにをしているのだろう。なぜここにいるのだろう。わからない。だけど、学校に行かないといけない。今日は朝食をとる時間があるから、パンを口にくわえながら登校することは無さそうだ。
「いってきまッチョ」
「いってら」
玄関から出た俺は、遅めの足取りで道のりを歩く。だいぶ距離を歩いたら十字路が見えた。その角を曲がると黒切さんがいた。
「おはようございまッチョ」
「おはよ」
相手はこちらを振り返り、挨拶を返してくれた。にこやかな笑みだ。どうしたのだろう。いつもなら不機嫌な冷たい態度で接してくるのに、今日は実に晴れやかだ。
「うふ、今日はいい小春日和ね」
「ああ今日はいいコハルニチワだ」
俺は巫山戯たギャグを言う人間ではない。別に小春日和をコハルニチワと言ったことに対して深い意味は無い。その場のノリというやつだ。察して聞き流してほしい。
「うわぁ、ひくな。小春日和をコハルニチワとか」
「ひくなよ。風邪だけは」
「うん。うがい、手洗いだけはちゃんとやってるよ」
「それはいい心がけだ」
どうでもいい内容の会話だった。黒切さんは俺に近寄ってきた。目の前が真っ暗になった。
☆×14
朝は爽快に気分が良い。バッと立ち上がり、バッと学校に向かった。この『バッ』という擬音は速い感じをイメージしていただけたら幸いだ。十字路の地点まで俺は通学路をスキップという名のホップで踏み進んだ。昨日までのことは覚えていない。でもそんなことはどうでもいい。これから起こるワクワクする冒険に心を弾ませている俺に昨日の記憶など邪魔なだけだ。冒険つっても学校に行って帰るだけだけどなっ‼
「ハッハー!」
感情が高ぶっているのかもしれない。『ハッハー!』なんてまるで陽気なマリオみたいな高音をだしてしまった。今日の俺はいつもとちょっと性格が異なっているような気がする。ちょっとじゃなくて、かなり、かもしれないが。
十字路を曲がると黒切さんがいた。長い黒髪が風になびいている。俺は声をかけるのをためらった。声をかけないでその横顔を見つめていたら、なんだか頭がズキズキと痛んだ。おでこに手をそえてみる。
「熱い」
どうやら俺は風邪をひいていたみたいだ。朝に気分が良いと思ったのはなんだったのだろうか。こんな熱があって、学校に行こうとしていた自分に対して笑ってしまう。
「あはは」
両目の焦点があっていないのか、視界が変に歪んだ。目の前にいる彼女は俺に気づいたようだ。••••••心配そうな顔を向けているのだろうか。それとも俺の異変に困惑しているのだろうか。わからないけれど、いまはなんの気力もおきない。俺は路面に膝をつき、苦しい気怠い感覚をやわらげようと瞼を閉じた。視界が暗闇になっている。そこはなにも無い世界。真っ暗な黒は俺を癒してくれる。明日が来てほしくない。そう思う時にいつも瞼を閉じる。するとなにかがゼロになって、リセットできた心地になる。
「あはは」
「明日守くん?」
俺の名前だ。だからなんだ。そう思った。
「僕は明日守くんだよー」
「大丈夫? 今日休んだほうがいいんじゃない?」
学校を休みたい。熱があるとかないとか以前に。
「大丈夫じゃないけどね。ははははもうどうでもいいや。意味なんて意味ないんだよ」
俺はいったいどうしてしまったのだろう。大脳の言語中枢がイカレているのだろうか。いつもの俺じゃない。
真っ暗になった視界にはもちろん誰もいないのだが、耳から入ってくる声が相手の存在を認識させている。彼女はいったい、どんな表情をしているのだろう。無表情なのだろうか。微笑んでいるのだろうか。眉間にシワを寄せているのだろうか。涙を流しているのだろうか。は。どうでもいい。明日がこなければそれで。
「ぴろーーん」
ん。光。俺は両目をつむっているはずなのだが。かすかに視界がひらいている?
「白目だ。グロテスクな顔だね」
指の感触がする。俺の指じゃない。誰かの二本の指が俺の瞼をこじ開けている。無理矢理にこじ開けられたので瞳は隅にいっていた。だから白目になったのだろう。瞳の視線を動かす。すると数センチ目の前に誰かの瞳があった。ブラウンの綺麗な色が俺の顔を見つめていた。もし、この時点で『明日がこなければいい』と願っていたらきっと目の前が真っ暗になっていたに違いない。だけどそんなことにはならなかった。
そのとき俺はなにか錯覚したのだろう。
だぶん恋とか。
「ふざけんなよ。なんで絶望できないんだ」
目の前がぼやけていた。彼女の表情は読み取れないままだった。
☆×15
朝になった。俺の記憶は喪失していた。ここがどこなのかわからない。視界は真っ暗で、地平線なんてものは無かった。これでは目を閉じているのと変わらない。横になっていた上半身をおこし、現状の確認をする。この手の感触。なんだか布団のような手触りがする。ここはベッドの上なのかもしれない。だとしたらここは俺の部屋ということになるだろう。真っ暗なので視認はできないが、匂いとか肌の感触が自分の部屋と合致している。きっとそうなのだろう。ここは俺の部屋だ。
蛍光灯の紐のスイッチを探す。手をあげて探ってみる。しかし、手の感触に紐らしきものは無かった。俺はいったいどうしたらよいのだろう。外はまだ暗いしもう一度、眠ろうか。
俺は眠った。二度寝だ。目が覚めた。目の前は真っ暗のままだった。自室から出て階下におりた。手すりをつたい、地道におりた。この先にあるのはダイニング。なのに黒に塗りつぶされた視界。これが不思議と恐怖は無かった。いつも歩いている慣れた空間。だから平然としていられるのだろう。
ダイニングでふと、違和感をおぼえた。冷蔵庫の冷却温度を下げるスイッチに電灯が点いていない。普段は点灯しているはずなのだが。冷蔵庫の扉を開けてみる。開けたのに中身が暗闇で見えなかった。コンセントにプラグが刺さっていないのだろうか。考えをめぐらせるが、今の視界では確かめようがなかった。
広間に入る。やはり真っ暗でなにも見えない。
「君らしい」
ベランダの窓付近で声がした。
「は?」
得体のしれない相手に、不信感を抱きながら恐る恐る、歩みを進める。なぜだか逃げようとは思わなかった。操られて勝手に動いているような不思議な感覚だ。正体不明の相手に畏怖の感情を抱いているが、足は一行に止まらない。
「はい。おしまい」
俺の上着の袖を何かがひっぱった。
☆×16
俺は寝ていた。覚えている。これまでにあったすべてを。何回も、同じ朝をむかえて今日がある。
俺は起きた。目の前はいつもの朝。憂鬱な朝。今日がきてしまった。こんなことを何度続ければよいのだろう。思考は曖昧なイメージですべて肯定した。まあいいや。とりあえず学校に行こう。
「明日モリンおはよう」
学校にきたはいいが、知らない人に話しかけられた。
「とりあえず••••••」
とりあえず無視しておこう。下駄箱にある上履きをとり、敷板に落とす。バンッと音がした。
「えー無視?」
「とりあえず••••••」
とりあえず会釈しよう。俺は会釈した。
「よそよそしげ⁉」
「とりあえず••••••」
相手は俺のことを知っているような素振りをみせている。初対面だと思うのだが。
「やはりお前の青春ラブコメはお先真っ暗だね」
「ああ」
「そんなんじゃ交尾できないよ」
「は? こう••••••」
「間違えた。交際の間違いだったよ。やっちまったな」
あんた、頭やっちまったな。どうやったら間違うんだよ。
「俺がいったい誰と交際するんだよ」
「あいつ」
指をさした先には、黒切さんがいた。
「あんな嫌いなやつと交際するわけがないだろ。お前、なにをいってんだよ」
俺は心外そうに少し眉間にしわをよせる。すると三メートル離れた場所から、誰かがこちらに手を振っているが見えた。黒切さんだった。俺はそっけなく目をそらした。
「明日モリンはあの彼女といつかするんだよ。それは決まっていることなんだ」
俺は逡巡してしまった。確信をもってそんなことを言われると、瞬時に反論ができない。嫌悪しているあいつと••••••まさか。
「交際••••••か」
「え? ちがうちがう。ワタシが言ってるのは交尾のことだよ」
「このバカ野郎‼」
俺は知らない女子学生にバックドロップを決めた。すると見ず知らずの女子学生が動かなくなった。
「ふ、きれいに決まったな」
屍を見下ろし、俺は足早に教室に向かった。
教室のドアを開けた。キャスターが回り、スムーズにスライドした。
「ぅぐぉおおおおおおおお」
中に入ろうとしたら背後からうめき声が聞こえた。振り向くと四つん這いの人間が俺を睨みつけていた。きっと廊下の床を這いずり、ここまでやってきたのだろう。俺になにかを言おうとしているようだ。俺は可哀想な生き物をみるような、慈愛に満ちた笑顔で、
「なんで生きてんだよぉ‼」
ドロップキックを決めた。
実は屍は生きていたのだ。だが今の一撃で名前も知らない誰かは確実に動かなくなった。
「ひよりちゃん!」
教室から令嬢のような気品ある女性が出てきた。床で仰向けに倒れた屍を「ひよりちゃん! ひよりちゃん! なんでこんな有様になったの? 死んじゃいやだよ」と介抱するようにひよりちゃんを背中から抱きしめた。「いったい誰がこんな酷いことを••••••」なんてつぶやきながら泣いている。俺はそんな彼女の名前を呼ぶ。距離は二メートル。
「黒切さん。そいつはな、死ぬ間際の最後に言ってたぜ」
俺は嫌いな彼女の顔を見つめながら、格好よく決め台詞をしゃべる。
「俺とあんたは将来、交ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
俺は黒切さんにパイルドライバーをくらった。
目の前が真っ暗になった。
☆×17
朝になる。眠たい目をこすり、あくびをした。
「はー。ずっと眠っていてー」
しかし、起きなければならない。ベットから起き上がり、二階の自室を出た。自室を出た俺は、階下に黄色く丸い物が落ちているのを発見した。よく見ると画鋲だった。
「あっぶねー! 気づかなかったら踏んでた!」
そこにある画鋲の数は二十〜三十個ほどでどの針も垂直に立っている。たぶん、だれかが意図的に仕掛けたのだろう。••••••って、
「怖すぎだろぉぉ‼ 殺す気か‼」
俺は絶叫までとはいかないが、それなりのボリュームで大声を叫んだ。さすがにこれくらいで絶叫はしねえよ。たった画鋲ごときで俺が絶叫するわけがない。俺がいったいどれほどの苦難を乗り越えて今日をむかえたと思っているんだ。これきしで怯む男ではないのだ。
俺はゆっくりと階段を下りていく。一歩一歩、下りていくごとに足元が血だらけになった。
「うわあがjwmphtjuじゃえwgbkyddsgggggggさgdatgtpjaじゃfじあじぇnすぃじぇうぃj」
画鋲が••••••足の裏にいくつも食い込んで痛かった。
「くそう、階下の画鋲はフェイクで最初の段から針を仕掛けていたとははあjでjmっhthっcっjygfkhtgvっlfwsっqxcbっmxぐーおlzxzfkぃkhgrfcbvっきtfhっbjくbjぉうtれれええっxっっvっcんんhtgせえyっhgbhっっfっgふぇ」
あまりの痛さに語調がおかしくなった。痛い痛い。画鋲が••••••。画鋲が••••••。
俺は足の裏の激痛で態勢を崩し、階段の上で転んだ。
コロリコロリコロリ。
階下まで転がり落ちた俺は大量の針を体中にあびる。
血だらけの画鋲人間になった俺は目の前が真っ暗になった。
☆×18
俺はいったいなにをしているのだろう。
☆×19
朝になったらしい。昨日のことは忘れた。抽象化された記憶達。俺はいつものように学校に行き、いつものように過ごし、いつものように幻滅するのだろう。忘れていたけど人生なんてこんなもんだよなって、気づくのだろう。毎日思い出して、毎日忘れて、毎日思い出して、毎日忘れて、こんな日々を繰り返す。俺はいったい何がしたいのだろう? そんな疑問が浮かぶ。この疑問に答えなど必要ないのかもしれない。答えなんてあったところで、その場でわかった気になるだけだ。物事の本質は抽象されたイメージの中にある。だから『なぜ?』に具体的な答えを求めたところで、それはあまり役に立たないものになる。ジグソーパズルのひとかけらでは、全体を把握できない。
••••••なに独り言をつぶやいてるんだ。早く学校に行かないと遅れちまう。
「いってきます」
誰の耳にも届かない小さな声で俺は言った。視界は明瞭。澄み切った空は、晴れやか、と呼ぶにふさわしい。あいにく俺は雨が好きなのだけれど。でも、まあ、たまには晴れも悪くわないと感じることはある。
「うっとうしい小春日和だぜ」
道ばたで俺は空を見上げている。青と白のコントラスト。それは綺麗だった。だけど嫌いな空だ。いなくなってしまえばいい。そう願った。
すると、なぜだか、視界が真っ暗になった。黒に染まった。嬉しい。俺は歓喜した。これで明日がくる。
「だーれぇだ?」
目が目がー‼
••••••あったかいんだけど?
「この手は、お前しかいないっ! 黒切彩火!」
俺は背後にいた奴の名前を呼んだ。すると、俺の目を覆っていた指先が離れる。
「ふふ、よくぞ見破った。さすがは暗黒四天王、ザキュバスの息子だな」
誰のことだよ。
「••••••通学路で会うなんて奇遇だね」
俺は後ろを振り向いたので向かい合う形になった。
「ふふふ、明日守くん、ヌルい、ヌルいわ。まだ気づいていなかったのか。お前は四六時中このわたしに監視されていたんだよ。このウルトラスーパーレーザーレーダーでなあ‼」
黒切さんはポッケからウルトラスーパーレーザーレーダーをとりだして、俺に見せた。
「そ、それは••••••」
ただのスマホじゃねえか。
「どんなアプリを•••••?」
「ふふふふ、『どんなアプリか?』だと? そんなに聞きたいか? なら教えてやろう」
黒切さんは胸を張り、堂々とした面持ちだ。なんか嬉しそうだなあ、と俺は彼女を観察している。
「ふふふふふ、さあ、くらうがいい! ウルトラスーパーレーザーレーダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼‼‼‼」
そんな叫び声が聞こえた。彼女は右手にスマホを振り上げこちらに向かってくる。俊敏な動きだ。背後に回り込まれた。
ビリ
俺は首の後ろらへんに電気ショックをうけた。
••••••。
(どんなアプリだーー‼)
目の前が真っ暗になった。
☆×20
「うーん」
ここはどこだ。昨日はなにをしていたっけ。ああそうか。俺は忘れているのだ。なにもかも。なぜ俺はベッドで寝ていたのだろう。寝たって無駄なのに。この世界の秘密を知っている俺にしたら、生きることが無駄なんだ。無駄だから頑張らないんじゃない。無駄だからやる気をだして頑張るんだ。死にたい、と言う人間はいる。そいつの願いはいずれ叶う。俺は願い叶えて自由になりたいわけじゃない。だからこそ、俺は言う。
「生きたい!」
これで死んだら悲惨だぜ。
ベッドから上半身を起こす。寝不足だ。目にくまがあるんじゃないだろうか。そういえば学校に行く準備をしないといけない。俺は自室から出てリビングに向かった。
「おはよう。大地」
親に対して俺は小さく頭を下げて会釈をした。これから行く学校のことを思うと、憂鬱だ。でも、行かなくてはいけない。不安なことは毎日ある。だけど、持続時間が少ないので、それほど深刻ではないのかもしれない。ずっと不安でい続けられる人間がいたら、めちゃくちゃ凄いが。
玄関から家をでる。学校に向かった歩く。重い足取りで歩いていた俺は、いつの間にか通路が十字路にさしかかっていた。その十字路を曲がると、黒切彩火さんと鉢合わせした。俺は片手を上げながら無愛想なしかめっ面で、
「おはよう。今日も良い小春日和だね」
と言った。
「意味わかって使ってんのかよ」
わかってなかった。適当にとりつくろう。
「いやわかってるよ。小春日和ってあれだろ? 『今日マジ春っぺー!』って意味だろ?」
「え。ジョークだよね?」
真剣さがひしひしと伝わってくる『え。ジョークだよね』なんだが。ジョークじゃなかったら、俺、なんて思われるのだろう。人間としてひかれたりしないだろか。ちなみにその『ひかれる』は『惹かれる』の方の意味じゃあないので注意しておいて下さいね。
「え。ジョークじゃないよ」
俺は素直な男だった。
「頭、大丈夫? お医者さんに診てもらったほうがいいんじゃない?」
「頭は丈夫だよ。心配してくれて、蟻が十匹ありがとう」
俺は無愛想なしかめっ面で感謝した。そんなの。
感謝しても無駄だよなあ。
「ん。今なんか言った?」
「いいや。なんにも」
「そう」
俺はリア充なので可愛らしい女の子と一緒に登校することにした。そんなことしたって無駄だが。
学校に着いた。昇降口に下駄箱が並んでいる。俺は自分の出席番号の下駄箱のありかを探す時間が無駄だと感じだした。なので誰だか知らない奴の下駄箱に自分のスニーカーを入れ、知らない奴の上履きを履くことにした。履いてみて気づいたんだが、サイズ異様に小さい。色はピンク。この学校の上履きはスリッパ式なので入らないことはないか••••••。
「そんなことしたら、破ける! やめてやめて!」
黒切さんがとなりで悲鳴を上げていた。このスリッパよく見たらマジックペンで『黒切』と書いてある。
「ああ、これ、君のだったのかい。ごめんよ。今日はこれ借りるよ」
なんとかスリッパに収まった俺の足はぱつんぱつんで外界に出たがっていた。
「く。静まるんだ邪神ザグリエル」
「本気でやめろー‼」
「押すなよ! そんなことしたら奴が目を覚ますだろうが」
俺は近寄ってくる彼女を静止させた。
「あんた。いったいなにがしたいの? 馬鹿なの死にたいの?」
「俺は生きたい!」
これで死んだら悲惨だぜ。
「なにいってんの? なんかまるでこれから死ぬような口ぶりじゃん」
困惑ぎみに彼女は言った。いやそっちが『死にたいの?』って質問するから、返答しただけなんだが。ん。生きたいって変かな。生きてるじゃん今。
俺はピンク色のスリッパを無理矢理に履きながら、下駄箱の敷板で直立不動になり天井を見上げる。生きるって無駄だよなあ。だけど、死ぬよりかは価値があるんだろう。だって生きることは多分、一度きりしか経験できないのだから。
「どうした。なに途方に暮れたような顔してんだよ」
会話って、無駄だよなあ。俺は思った。
「生きてるってふわふわしていて、気持ち悪い。だけど、みんなそうなんだよな。俺、思うんだ。死んでるより生きてるほうが不安定なんだって。だからこそ嬉しいこと悲しいことの起伏があるんだろうけど、本当に死んでしまったらそんなものをずっと感じられない無になるんだ。多分、死ぬのは生きるのより損なんだろうな」
「き、急に変なこと言うな」
「みんな素直になればいいのに。俺は素直なほうが生きやすいと思う。他人との違いがあったら素直にいえばいい。同調なんかするから相手のことを思いやれない人間が増えていくんだ。そう思う」
「ふん」
黒切さんは、俺の無駄な話しに飽きたのだろう。俺をおいて先に階段を上がり、教室に向かっていった。
「取り残された」
彼女の上履きは俺の足にはまっている。痛いくらいにサイズが合わない。痛いのは嫌なので、時間の無駄を使い、自分のスリッパを探すことにした。
「な、ないぞ」
おかしい。たしかにここらはへんにあったはずなのに。
「もしかすると、今、奴が履いて行ったのは俺の••••••」
奴め。やりおる。
俺も教室へ向かった。無駄に足が疲れるのは窮屈な上履きのせいだ。あとで俺の上履きを返してもらおう。そんなことを考えながら、スライド式の引き戸を開けた。
そこで見たものは、無駄な人の群れだった。狭く四角い箱に人が密集している。無駄に騒がしい空間だった。無駄に静かよりは良いのかもしれないが。
俺は自分専用の席に向けて歩を進める。人の群れを上手くよけながら、進むと、その群れのなかに俺のスリッパを履いた羊がいた。間違えた。人がいた。黒切さんだった。
黒切さんじゃなくて、羊じゃなくて、黒切さんは言った。
「このっスリッパ泥棒‼」
「俺が悪かった‼」
俺はジャンピングお辞儀をした。角度は90度。決まったぜ。このキレのある動きは無駄の極み‼
「なんでジャンプすんの⁉」
「無駄だからだ‼」
俺は即答した。お辞儀のまま。
「早く頭を上げなさい。あんたのせいでこのクラスが悪い意味で騒ついてんだよ」
悪い意味ってなんだ。良い意味で騒ついてくれよ。仕方ない。お辞儀をやめるか。
「おい、まだ騒ついてんぞ。みんな俺のことを変な目で見てんぞ」
「え。自覚してたんだ。すごいじゃん」
すごいのは褒め言葉なのだろうか。
「ああ。俺は変態だからな。だからみんな俺を変な目でみてるんだ」
「変態の意味わかってんの?」
「変態性欲の略だろ?」
「わかってんだ。すごいじゃん」
なにがすごいんだ。
「そんな無駄話よりさ、スリッパ返していただけないでしょうか黒切様」
「こうなったのはあんたが悪いんでしょ!」
その通りだ。全部俺が悪い。だって俺は悪いんだから。
「申し訳ない••••••。お詫びに、もう一度俺の精いっぱいの謝罪をしなければならないだろう」
俺は大きく息を吸った後、
「ジャンピングお辞儀‼」
角度は90度‼
決まったぜ‼
これで俺の精いっぱいにやってますよって感じの誠意は伝わったはずだ。
「なんでジャンプするのよ!」
「無駄だからだ!」
俺は即答した。お辞儀をしながら。
「あーたーまー上げろ‼」
黒切さんは一メートルより近くに来た。
90度のまま俺は目の前が真っ暗になった、と思った。しかし目の前に真っ暗になることはなかった。彼女は手を俺のおでこにつけて、上に持ち上げようと頑張っている。なぜだろう。こんなに接近しているのに俺はループしていない。なにか変じゃないか。今までは、一メートルより近くにきたら確実にループしていたはずなんだ。
「ふんっ!」
無駄に頑張って俺のお辞儀をやめさせようとしている。
「そんな力で俺のお辞儀を崩すことなどできん!」
俺は無駄に頑張ってお辞儀の姿勢をやめなかった。周りにいるクラスメイト達が俺の挙動を見て、一層にざわつきだした。そんなに俺に興味があるのか。ならとっておきを見せてやろう。俺は深く息を吸った。
「お辞儀ジャンプ‼」
五十センチほどジャンプする。ふわっと地が宙に浮き、すぐに床に着地した。90度のお辞儀のまま。
決まったぜ。
歓声と悲鳴と悪口が聞こえてくる。
みんな俺に関心がある証拠だぜ。
「奇怪な行動をすな! 目立つだろうが!」
俺は体をバシバシ叩かれる。俺はドMなので叩かれるのは嬉しかった。
「もっと叩いて! もっと叩いて! もっと舐めて!」
「変態…」
「その通り。俺は変態性欲だ!」
なんだかふざけ過ぎた気がする。ふざけたって無駄だが。もう一メートルはゆうに超えて近づいている。なのになにも起こらないどうしたというのだ。
もしやこれは無駄に不自然で不合理な夢オチでは••••••。と思いきや目の前が真っ暗になった。
☆×21
ふう、もう朝か。