第三章 二話
いつも読んで頂きありがとうございます。
ナインと言います。
一先ずはここで第一部終了という形になります。
仲間が増え、これからシュン達の旅も激しさを増すでしょう。
新キャラや姫騎士も出てきます!
これからも読んで頂けると嬉しいです。
長文失礼しました。これからも宜しくお願いします。
────【フレアランド】────
ジンと別れた翌朝、今日も天気は快晴だ。
この国ではめったに雨が降ることはないらしく、ほぼ一年を通して晴れているらしい。
気温も高いままでずっと暑いみたいだ。
正直この国に住んでいたら、途中で逃げていたかもしれないなとシュンは思った。
ジンと約束した時間は、正午からである。
丁度昼食でも食べながら話そうと、約束している。
今はまだ午前の十時である。
特にやる事もないため、シュンはアンナを起こそうと思った。
シュンは別室で寝ているアンナを起こすべく、アンナが泊まっている部屋のドアを叩いた。
中から返事はなく、もしかしたら寝ているのかもしれない。
再度シュンがドアをノックすると、今度は返事があった。
「ちょっと待ってくれ。すぐ開けるから」
どうやらアンナは起きていたみたいだ。
しばらくするとドアが内側から開いた。
「おはようシュン。ちょっとシャワーを浴びていたのだ」
そう言ったアンナからは、確かに風呂上りのいい匂いがした。
髪も濡れており少し肌も火照って赤くなっている。
まさかシャワーなど浴びているとは思っていなかったので、シュンは少しドキドキした。
普段とは違う色気のあるアンナに、ドキドキしていた。
アンナはシュンよりも二つ年下だが、そうとは思えないくらいスタイルがいい。
出る所は出ているし、体のラインも細い。
改めて見てみると、どれだけアンナが綺麗なのかがわかった。
年下にドキドキしていると悟られたくないシュンは、至って冷静に声をかけた。
「そうだったのか。でも来客が俺じゃない可能性もあるんだ。確認もしないで、ドアを開けるのは不用心だぞ」
「そうだったな。すまない。これからは気をつけるのじゃ」
アンナが準備を終えるまで待ち、二人は朝食を取ってから出かけた。
せっかく時間もあるので、昨日シュンが剣を買った店でアンナの武器も新調しようという話になった。
アンナのレイピアも数々の戦闘により、大分刃こぼれしている。
これではいざという時支障が出るだろう。
だから二人はメイン道路を歩き、昨日のお店を目指して歩いていた。
「私にもあの店主は武器を売ってくれるだろうか? 昨日の感じだとかなり変人だと思うのだが」
「アンナなら大丈夫だろう。心配しなくても平気だ」
アンナの心配を余所に昨日の店へと辿り着いた。
昨日同様店内へと入ると、あいかわらず仏頂面の店主がハンマーを打っていた。
シュンは店主へと話しかける。
「よおマスター。今日は彼女のためにレイピアを打ってほしいんだができるか?」
ハンマーを打っていた手を止めて、店主はシュンの方を向いた。
話しかけたのがシュンだとわかると、少し雰囲気が柔らかくなった。
「昨日も言ったが俺は自分が認めた奴じゃないと、武器は作らない。その嬢ちゃんは俺を満足させられるのかい?」
店主は鋭い眼光でアンナを見据えた。
アンナは一歩も引くことなく視線を受け止めると、自分のレイピアを腰から抜き放った。
「マスターよ。私の武器を見て欲しい。数々の戦闘で刃こぼれをおこしているんだ。大事に扱ってきたつもりだが、もう限界のようだ」
アンナのレイピアを受け取った店主は、ジッとレイピアを眺めた。
しばらくいろんな角度から眺め何かを見ていると、店主は言った。
「嬢ちゃんこの武器を大事に扱ってたんだな。よくわかるぜ。こいつはいい武器だ。……わかった、あんたのために武器を作ろう」
「本当か!? 感謝するぞ店主よ!」
アンナは嬉々として笑顔になった。
「だから言ったろ? アンナなら大丈夫だってな」
シュンはアンナに言って、店主がレイピアを打ち終わるまで待つ事にした。
店内には店主が、額に汗流して打つハンマーの音だけが響いていた。
二人は無言で作業を見守ると、程なくしてハンマーの音が止んだ。
「できたぞ。ちょっと持ってみろ」
店主がそう言って渡してきたレイピアは、今まで見た事ないぐらいに綺麗だった。
刀身は綺麗な銀色をしており、柄の部分は丸く緑色で豪奢に彩られている。
装飾も豪華で非常に綺麗だった。
一目見てすばらしい出来だとわかる。
武器を受け取ったアンナは、二三度振ってみた。
風を斬る音が響き、綺麗な音色を奏でる。
持ってみるとわかるが、すごく手に馴染みずっと使っていたかのようだ。
重さも大して感じられず、これなら何回振っても疲れないだろう。
満足したアンナは店主にお礼を言った。
「店主よっ! この武器は最高だな! こんないい武器は見たことない。いくら払えばよいのだ?」
「昨日も言ったが、俺は気に入った奴にしか作らないし、作った武器は使ってもらって俺の店の宣伝にしてくれ。他の客からは金取るからよ」
笑いながらそう言う店主は、最高の鍛冶職人だった。
「そうか、ありがとう。ちなみにこの武器にも銘があるのか?」
「あるぜ。そいつは風をも斬る《ウィンド・ワルツ》だ。大事に使えよ」
「ああ! 大事に使わせてもらう。《ウィンド・ワルツ》か。いい名だな」
アンナは店主に何度もお礼を言い、店を後にした。
「よかったなアンナ。いい武器を作ってもらえて。これで後はジンと合流するだけだが、あいつ本当にちゃんと来るかな」
「どうじゃろう……正直来なかったら仕方ないの。また新しい仲間を探すしかない」
時間を確認すると丁度正午になりそうな頃合いだった。
二人は約束の大衆食堂まで行き、店の前でジンを待つことにした。
待っていると、遠くからでもわかる大柄な男がこちらに歩いてくるのが見えた。
どう見てもあれはジンだろう。
二人は一先ずホッとしてジンが来るのを待った。
二人の前まで来たジンは、昨日と同じ格好で斧を背中に背負っていた。
「よお二人共早いな。少し遅れたか?」
「いや時間通りだよ。来るとは思ってなかったから少し以外だったな」
シュンが言うと、信用ねえなとジンが言った。
合流した三人は食堂へと入り、飯を食べながら今後について話をするつもりだ。
奥の空いてる席に三人で腰かけ、各々注文する。
「俺は羊の肉入りチャーハンで」
「私はトマトのスパゲッティを頼む」
「俺は……っとステーキでいいや」
シュン、アンナ、ジンとそれぞれ注文すると、食事が来るまで少し話す事にした。
「まずこれからなんだが、俺達は昨日も言ったがアクアホルンを奪還するのが目的だ。そのためには、もう少し戦力が欲しい。それで提案なんだがここから山を越えた東にある【スノーゲーテ】に行かないか?」
「隣の国に行くのか? シュンよ、戦力の宛でもあるのか?」
アンナが不思議そうな顔をして聞いてきた。
それもそうだろう。アクアホルンから遠ざかるのだから。
それでも今は仲間を増やさないと、奪還などできない。
それにシュンには考えがあった。
「実は【スノーゲーテ】の姫騎士を仲間にできないかと思ってな」
それを聞いたアンナとジンは驚愕していた。
「お前は馬鹿か? 姫騎士を仲間にするって……つまり【スノーゲーテ】を潰すことを意味するんだぞ?」
ジンは正気を疑うかのような目を向けてきた。
アンナも横で頷いている。
「まあ聞いてくれ。姫騎士は一人で一騎当千の力を秘めている存在だ。だから姫騎士が倒れたら国が滅ぶとも言われている。しかしその姫騎士を仲間にできれば、心強いとは思わないか?」
シュンはイタズラを思いついた子供の様な顔で言った。
アンナとジンはただただ反応に困っていた。
特にアンナなどは自分が姫騎士であるため、複雑そうな顔をしていた。
「どうやって仲間にするつもりなのじゃ? そんな簡単な事ではないと思うが……」
アンナが心配する様に言う。
「それは姫騎士を倒すしかないだろうな。それで説得して仲間に引き入れる。どうだ?」
「どうだ? と言われてもな……正直無謀だとしか思えんのじゃが……」
どうやらアンナは乗り気ではないようだ。
しかしジンはニヤニヤしながら、話に乗ってきた。
「いいじゃないか。俺は賛成するぜ。そんな事考えるなんて面白いじゃないか。俺はその作戦に乗る」
ジンは賛成してくれた。
後はアンナが首を縦に振ってくれれば今後が決まる。
そこへタイミング悪く料理が運ばれてきた。
とりあえず料理を食べるために一度話し合いは中断する。
三人共無言で食べ続けると、いくらもしないうちに食べ終わった。
後はアンナの答えを聞くのみだ。
「アンナ。どうする? もし嫌なら他の計画を考えよう。無理しなくていいからな」
シュンがアンナに言うと、アンナは溜息一つ吐くと振り切れた様な顔で言った。
「私もシュンの計画に賛成する。大した案も思い浮かばんし、シュンに賭けてみようと思う」
アンナが賛成してくれたので、今後の計画が決まった。
これから山を越えて、東の【スノーゲーテ】に向かう。
その【スノーゲーテ】の姫騎士を仲間に入れるのが目的だ。
あわよくば【スノーゲーテ】の戦力も、そのまま引き入れられたら最高だ。
三人はお金を支払うと店の外へ出て、【フレアランド】を出るためにメイン道路を歩く。
「しかしシュンはとんでもない事考えるな。俺は楽しくなってきたぜ」
道すがらジンが楽しそうにシュンに話しかけてきた。
シュンとしては、至って真面目に言った事だったのだが、ジンが機嫌がいいならそれで構わない。
三人は横一列で歩きながら、談笑していた。
しばらくして【フレアランド】の監視塔に到着した三人は、出国手続きを終えると新たな一歩を踏み出した。
太陽が光輝き三人を照らしていた。
三人の旅路が光となるか闇となるか、それはまだ誰にもわからない。
ただ言えるのは、ここから少しずつ歴史が動き始めるだろう。
シュンはこれからどうなっていくのかわからない不安と、一筋の希望を見出すかの様に太陽に向かって目を細めるのだった。