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第二章 二話

初めましての方、読んでくださっている方。

ナインと言います。

なんとか三日に一回は更新していきたいと思います。

引き続き読んでくださる方は、感想・レビュー・ブックマーク

などなど宜しくお願いします。


 ────【迷いの森】────


 もうそろそろ朝日が昇ろうとする時間だが、まだ二人は【迷いの森】を抜け出せずにいた。

 さっきからずっと同じ景色が流れるだけで、一向に出口が見えてこない。


「なあアンナ。この森の出口は知らないのか?」


「残念ながら私も知らないのだ。この森に来たことはおろか、城から滅多に外出するこもなかったからの」


「それもそうか。姫様がこんな森をうろついていたら、大問題だな。今は真っ直ぐ進むしかないか」


 道は一本道なので、迷ってはいないはずだ。

 ただ長いだけなのか、この霧が本当に人を惑わせているのか……。


 二人が十分程歩き続けると、やっと森の出口らしき場所が見えてきた。

 濃い霧から漏れ出る光が、二人にはとても眩しく感じられた。

 なんたってこの森に入ってから、暗闇の中を彷徨い続けていたようなものだ。

 光が恋しかったと思っても、詮無い事である。


「やっと出口が見えてきたな」


「そうじゃな。少し歩き疲れた。この森を抜けたら一旦休憩しよう」


 二人があと少しで森を脱出するその瞬間、シュンは辺りに人の気配を感じた。

 それも六人ぐらいいる。

 こんな森にいるなんてどう考えたって普通じゃない。

 シュンが警戒していると、アンナも気付いたらしい。


「シュンよ。何かがいるな。野盗だと思うか?」


「間違いなくそうだろうな。アンナが言ってた通りだな。まさか本当にこんな森の中にいるとは、思わなかったけどな」


 木の陰から予想していた通り、六人の野盗らしき男達が出てきた。

 全員ボロボロの服を着て、目は獲物を狙うかのように鋭い。

 手には野太刀を持っており、襲う気満々みたいだ。


 シュンは瞬時に戦略を立てて、シュンが四人を相手にしてアンナに二人相手をしてもらうことにした。


「アンナ!! 俺が四人相手にするから、悪いが残りの二人を相手にしてくれるか?」


「わかった! シュンも気をつけるのだぞ!」


 アンナが了解したのを確認したシュンは、一直線に突っ込んでいった。

 シュンの速さに驚いた野盗は、反応が遅れた。

 シュンはその隙を見逃さない。


「ハッ!」


 静かな呼気と共に、目前まで迫った野盗の一人を斬り伏せた。


 それを見た残りの野盗は、我に返り急いでシュンを取り囲む。

 シュンを中心に残りの三人が周りを囲んで、逃げ場を失くす作戦だ。


 しかしシュンにはそんなもの関係ない。


「死ねやあ!」


 野盗の一人が斬りかかってきたが、シュンは冷静に剣で弾き、背後から斬りかかってきた敵を、振り返る事なく背後への横薙ぎの一閃で斬り伏せた。


「なんだコイツ!? めちゃくちゃ強いぞ! 先に女の方を片づけよう!」


 アンナに標的を移そうとしたらしいが、既にアンナの方は決着がついていた。

 どうやらアンナは殺しはせず、柄の部分で気絶させるだけに止めておいたらしい。

 それを見た残り二人の野盗は、戦意喪失するかと思いきや真向から仕掛けてきた。


「くそったれがあああああ!」


「死ねやバケモノが!」


 二人の敵は同時に左右からシュンへと斬りかかってきた。

 シュンは二人の間、丁度真ん中を一瞬にして通り抜けると、左の敵は左から右への横一閃、右の敵にはそのまま突きをお見舞いして倒した。


 シュンは血の付いた剣を払い、汚れを落としてから背中の鞘にしまった。

 剣が一本しかないので本気ではないが、このレベルの敵なら余裕であった。


 シュンが振り返るとアンナが近づいてきた。


「お疲れ様。大丈夫だったか?」


 シュンが聞くとアンナは笑顔で答えた。


「ああ楽勝だった。それにしてもシュンよ、そなたは本当に強いな。正直私でも動きが見えなかったぞ」


「褒めても何も出ないぞ。それより早いとこ森を抜けよう。出口はもうすぐそこなんだ」


「そうだったな。時間を取られたがやっと出られると思うと、一気に疲れが来るな」


 苦笑したアンナはふらつく体を叱咤し、何とか歩き出すのだった。






 ────眩しい朝日を浴びて二人は、同時に目を閉じた。

 暗闇にいた二人にとって、この明るさは目に毒だ。


 しばらくしてから目を開けた二人の前には、綺麗な川があった。

 どこまでも続く川を見ていると、この国がなぜアクアホルンと言われるかわかる気がする。

 この豊富な水こそがこの国を支えているのだ。


 しかし今はそんな事に感動している場合ではない。

 早いとこ休める場所を探さないと、アンナの体力が持たない。

 シュンもさすがに疲れている。疲労困憊の体にムチ打って、二人は休息できる場所を求めてしばらく歩いた。


 丁度川沿いの沿道に休憩できそうなスペースを見つけた。

 そこは大きな石があり、そこに腰を落ち着けて休憩できそうだった。

 二人は石に腰を下ろして、目の前の川を見ながらしばしの休憩を取った。


 シュンは隣に腰を下ろしているアンナを横目に盗み見た。

 やっぱりアンナの疲労は大きいようだ。

 ばれない様に気を使っているつもりだろうが、シュンは少しの間とはいえアンナと時間ときを共にした。

 少し見ればアンナの強がりぐらい見抜けるのだ。

 シュンはアンナにこれからの事について、話しかけた。


「これからどうする? 俺は少し疲れたから、今日はもうここらで野宿するのがいいと思うんだが」


 あえてシュンは自分が疲れたから、ここで休もうと提案した。

 そうでも言わないときっとアンナのことだ、強がって素直に受け入れてくれないだろう。


「私はまだまだ行けるのだが、シュンが疲れたのなら仕方ないの。今日はここら辺で休もうかの」


 アンナはそっぽを向きながら答えた。

 たぶん本人もわかっているのだろう……シュンが気を使ってくれていることに。


 休むことに決めた二人は、さっそくどこか休める場所がないか探しに出ることにした。

 川の傍にあれば気温は涼しいだろうし、後は一日だけなのでそんなにこだわる必要はない。

 二人は別方向へ手分けして探すことにした。

 シュンは北へ、アンナは南へと足を向けた。


 川を上流方向へと歩いていたシュンは、川の近くに洞窟があるのを発見した。

 洞窟と言っても少し内側に岩が抉られているだけで、洞窟と呼ぶには語弊があるかもしれない。

 でも二人が寝るには十分なスペースがあるし、一日泊まるだけなのだ。

 後は飯の確保だがそれも何とかなるだろう。

 修行していた時に川で魚を取っていたのが、こんな形で役に立つ時が来るとは思いもしなかった。

 早速シュンは、アンナへと報告するためにアンナを探しに下流の方へ歩き出すのだった。


 ────シュンがアンナを探しているとアンナの声が聞こえてきた。


「離せ! 離すのだ!」


 なんだ? シュンが目を凝らすとアンナはアクアホルンからの追手に捕まっていた。

 まさかこんな早くに追いつかれるとは思いもしなかった。

 しかもこんな所まで追ってくるとは執念深い。


 シュンは少し様子を窺うため、川沿いの木に隠れてアンナの方へと視線をやった。

 どうやら追手は四人いるみたいだ。

 全員騎士団の鎧を身に纏っているということは、騎士団なのだろうか。

 それでは話がおかしくなる。

 あの時騎士団は、侵入者と戦っていた。

 ならばその騎士団がなぜ追手として、アンナを捕らえているのだろうか。


「まさか騎士団もグルだったのか? いや、そうとは思えない……」


 シュンは余計に混乱する頭で考えてみたが、真実はわからなかった。

 ならば今は状況を観察するしかない。そうすれば何か手がかりがわかるかもしれない。

 シュンが木の陰から見ていると、状況に変化が訪れた。

 アンナが捕えられながらも反撃に出たのだ。

 アンナの腕を掴んでいた一人の騎士が、いきなり暴れだしたアンナに反応できずに手を放してしまった。

 その隙にアンナは距離を取り、レイピアを正眼に構え騎士団と相対した。

 そんなアンナに騎士団の一人が話しかけた。


「アンナ様! どうか武器を収めてください。我々はあなたとは戦いたくありません。どうか武器を収めてください」


「何を言うか! いきなり私を捕らえておいて信用などできるか!」


「これには理由があるんです。我が国の大臣、カルメル様のご命令なのです!」


「なんだと? カルメルが……なんであやつが私を捕らえろと命令するのだ? しかも騎士団に。そんな権限はないと思うが」


「実はあの後、国王と王妃が亡くなられたので代理の人材を立てなければならなかったのです。それで大臣が支持されまして……我々としましてもどうしようもないのです」


「そうか……奴の思惑が見えてきたぞ。自分がトップに立つために反乱を企てたに違いない! 貴様らもそんな奴の言う事など聞く必要ないぞ! ここは引けっ!」


「我が団長、ゴードン様も同じ事をおっしゃっておりました。しかし証拠がございません。だから我々も渋々従うしかないのです」


「そうか。ならば私も捕まるわけにはいかない。ここは意地でも引かぬぞ」


「アンナ様……仕方ありませんね。姫様を捕まえろ! ただしなるべく怪我はさせないようにな!」


 そう号令をかけると、騎士団はアンナへと殺到した。

 それを見ていたシュンは、これ以上見てる訳にもいかず隠れていた場所から出て、加勢するのだった。

 こちらに向かって駆けてくるシュンを見た騎士団は、新手の出現に驚きはしたが、姫様と傭兵が一緒に逃げるのを目撃していたため、そこまでパニックになることもなかった。


「新手だ! そちらはお前達に任せたぞ! 我等は姫様を捕まえる」


 リーダーらしき騎士が命令すると、四人の内半分の二人がシュンへと向かって行った。

 シュンは剣を右手に持ち、腰の横辺りに構えた。

 カウンター狙いである。


 シュンが待ち構えていると、一人の騎士がシュンへと突きを繰り出してきた。

 それをシュンは体を横にずらすことで躱し、カウンターの突きを出した。

 騎士はカウンターをもろに食らってしまい、痛みにもんどりうって転がった。

 それを見たもう一人の騎士は、相手が強いとわかると慎重になった。

 お互いに睨みあう形で硬直状態が続いたが、それをシュンが破った。


 シュンは鋭く踏み込むと、剣を横に薙いだ。

 しかし騎士はそれを剣の腹の部分で防ぐと、少しの鍔迫り合いになった。

 お互いに力は互角。

 ならばとシュンは一旦距離を取り、再び仕掛けることにした。


「はぁぁああああ!」


 気合いの声と共に、目に見えない速度で剣を振ると相手の騎士は、思わず後ろにたたらを踏んだ。

 その隙に更に肉薄すると、神速の突きを放った。

 しかし騎士も負けじと、なんとかその突きを躱した。

 躱されるとは思っていなかったシュンには、少しの隙が出てしまった。


 騎士はその隙を逃さず、シュンに肉薄するとすばやい右からの袈裟斬りを放ってきた。

 反応が遅れたシュンは、躱すことはできても薄皮一枚分斬られてしまった。

 シュンの体から少しの血が滴る。

 それを見たシュンは、頭に血が上るのを感じた。


 あの事件以来、自分の血を見るとあの悪夢を思い出してしまうのだ。

 だから今まで圧倒的な強さで、相手を葬ってきた。

 それが今回多少なりとはいえダメージを受けた事により、トラウマが呼び覚まされてしまったのだ。


 いきなり様子がおかしくなったシュンを不信に思い、騎士は攻めようかどうか悩んでいた。

 しかしこれをチャンスと思ったのか、棒立ちのままのシュンへとするどい斬撃を放った。

 シュンは防御すらせず、自分へと向かってくるその刃を、ただ茫然と眺める事しかできなかった……。

 シュンが死を覚悟したその時────その凶刃はシュンへと届く事はなかった……。


 シュンへと刃が届く直前、横からレイピアがその刃を防いでいた。

 見るとアンナが横から剣を防いでくれていた。

 シュンは我に返り、自分が今何の躊躇いもなく死を覚悟した事にびっくりしていた。

 こんな簡単に人生を終わらせていいのか?

 アンナを守るはずが自分が守られている現実を、そのまま受け入れていいのか?


 ────いいはずがないっ!!


 シュンは己を奮起させると、アンナが守ってくれている隙に、騎士のがら空きの胴体に剣を突き刺した。

 騎士は倒れ、ようやくこの戦闘が終わりを告げた。


「アンナ……すまない。俺が守る約束なのに、何にも役に立てなくて……」


 ────パーンっと乾いた音がした。


 アンナがシュンをぶったのだ。

 びっくりしたシュンはそのまま固まった。

 見ると、アンナが涙を流していた。


「なんでさっき何もしなかったのだ? ここまで来て簡単に死のうとするなんて、私への裏切りだっ!! シュンは私を守ると言ってくれたのに…………」


 アンナはしゃくり上げながら泣き続け、シュンはどうしていいかわからなかった。

 アンナが言った事が胸に突き刺さり、何も言えなくなってしまったのだ。

 どうしていいかわからなかったシュンは、アンナをそっと抱きしめて安心させようとした。


「ごめん……俺はもう約束を破らないと誓う。君が死ぬその時まで、俺は君を守り続けるだろう」


「っ!! そ……それは……どういう意味じゃ!? し…死ぬまでとは……つまり……結婚すると言う事かっ!?」


「!?!? いやっ! 別にそんなつもりで言った訳じゃなくて……」


 困ったシュンはどうしていいかわからなかった。

 アンナは顔を真っ赤にして、アワアワしているし、シュンはシュンで言葉の意味に気付いてしまい、アンナの事をまともに見る事もできない。

 そんな二人が漫才みたいな事をやっていると、先程倒したリーダーらしき騎士が最後の言葉を残した。


「アンナ様……これからも追手はやってくるでしょう……大臣に支配されたあの国は、もう終わりかもしれません。せめてアンナ様だけでも逃げて、あの国を取り戻してください。それが……せめてもの……ね……が……い……です」


 最後に騎士はそう言い残すと、静かに息を引き取った。

 二人は無言で祈りを捧げると、気持ちを切り替えて歩き出した。


 シュンは先程見つけた、洞窟らしき場所をアンナに教え、そこへ向かって一先ず歩いて行くことにした。


 洞窟へと着いた二人は、シュンが魚を取るために川へ素潜りをしに行き、アンナはその間に寝床を綺麗にしようと、落ちている葉っぱなどを集めてそれを地面に敷いた。

 これで簡易的ではあるが、何も引かないで寝るよりは幾分かマシになるだろう。


 アンナは突然、これではまるで二人の寝床みたいではないかと思った。

 一度考えると妄想は加速していき、アンナはたちまち顔を真っ赤にして妄想を振り払った。

 そこへシュンが魚を取って帰ってきたのだが、顔の赤いアンナを不思議そうな眼差しで見ていた。


 ────夜になり、虫の鳴き声が静かに響いている。


 二人はアンナが作った、簡易的な寝床で二人共背を向けながら横になっていた。

 なんだかお互いに意識してしまい、向かい合って寝るのが恥ずかしかったのだ。

 そんな二人の間には沈黙が流れ、虫の鳴き声だけがBGMとなっていた。


 ふとアンナがシュンへと話かける。


「シュンよ。これからどうしたらいいと思う? 先程の騎士が言っていた様に、アクアホルンはもうダメだろう……これから私達はどこへ行けばいいだろうか?」


 聞かれたシュンは数分間思案してから答えた。


「アンナがアクアホルンを……故郷を取り戻したいのなら、この川を下って南の【フレアランド】へ行くのがいいと思う。そこで一度体制を立て直して、義勇軍を募るんだ。他国だが協力してくれる人はいると思う。俺みたいな傭兵とかな」


「そうか……私は故郷を取り戻したい。そして両親の死の真相が知りたい。じゃないと殺されたお父様とお母様が浮かばれないと思うのじゃ…………シュンよ。これからも協力してくれるか? 報酬は払えぬと思うが……」


 心配そうな顔をするアンナに、シュンは精一杯の笑顔で答えた。


「さっきも言ったと思うけど、俺は最後までアンナを守ると誓った。その誓いに嘘はない。それに俺の大事な剣も盗られたままだしな。返してもらわないと」


 それを聞いたアンナは嬉しそうに笑ったが、先程の会話を思い出したのか、また顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

 恥ずかしくなったシュンもアンナとは反対を向き、またお互いを静寂だけが包んだ。


「シュン……明日も大変な一日になるじゃろう。早めに眠らぬか?」


「そうだな。明日どころかこれから毎日大変だと思うぞ。せめて明日は追手が現れない事を祈ろう」


 二人は静かな寝息を立て、眠り始めた。

 二人を川沿いの虫達だけが見ている。

 今はただ安らかな眠りに身を任せるのだった。





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